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【 時間点+3 】
 そもそもアデルが君に頼みたかったのは、イスターヴェの町に近い山中に隠された遺跡
に残されているという、今では滅んでしまった古代植物の種子の探索だった。その種子と、
種子から咲かせることのできる花さえあれば、今の世では不治とされるような病の治療薬
すら生成させられるという話を、10年近くも前にとある文献で目にしたアデルは、婚約者と
なる娘の母親が患っている病気を治すために種子を手に入れたいと考えたのだった。
 数年をかけた研究により、ようやく遺跡の隠された山がイスターヴェ付近にあると確信を
得たものの、具体的な場所を絞り込むにはさらに時間が必要だったため、アデルは町の
雑貨店に住み込んで調査を続けた。そしてついに数日前その場所を特定したのだが、ア
デルのような普通の若者が古代遺跡の探索に挑むなどというのは無謀でしかない。その
ため最近は腕が立ち信頼もできる協力者を求め、町で雇用先を探しているような人間を
尋ね歩いていたのだという。
 アデルが協力者として最初に目をつけたのは、隣国で巨大な蛇の怪物を倒す事に尽力
したという英雄的人物だった。そしてその存在が確かなものであると判明してからは、その
行方を追い続け、やがてその人物が一振りの優美な長剣を携えた若い男で、神官の如き
治癒の力を行使するらしいという情報を得た。
 アデルは告げる。ファイロンと名乗った君がその人物であるという確信に変わったのは、
イスターヴェを訪れる短期就業者には多く見られる孤独感を感じさせず、地元の住人のよ
うでも旅慣れた風でもない独特の雰囲気を醸し出しているその旅の剣士らしき男が、漁師
を襲った海賊をほぼ1人で撃退したという噂を聞いた瞬間だったと。
 これを聞いて君は苦笑を抑えきれず、ルルはそれが当然のように言った。
 『噂話として広がるのは間違いないことでした』
 確かに10人にも満たない下っ端海賊が連携もせず襲いかかってきても、ルルを持つ君
の相手ではなかったが、さすがにその大立ち回りは平凡な漁師達にとっての衝撃であり
過ぎた。だが君が活躍しなければ人が死ぬような状況では仕方がなかった。
 そしてアデルの話は君との待ち合わせの夜に移る。
 待ち合わせをした町外れにだいぶ早くから来ていた彼が、海岸の方をなんとなく眺めて
いると、灯火も点けず闇に溶け込んだまま海岸に侵入してくる一隻の船を目撃した。その
行方を追っていたアデルは、古代遺跡があるだろうと見当をつけていた方角に消えていく
怪しげな船影に激しく動揺し、遺跡を狙っている人間が他にもいるのではないかという焦
燥感に駆られ、ほとんど衝動的に遺跡への入り口だと推測していた洞穴に飛び込んでし
まったのだという。
 だが大した準備も無く踏み込んだせいで、斜面を下っている途中に足を踏み外して脚を
痛めてしまい、洞穴内の生き物を避けるためにずっとこの場所に隠れていたらしい。かろ
うじて食糧だけは所持していたし、地下水が豊富な場所だから助かったものの、先走って
しまったことをアデルは相当悔やんでいるようだった。
 「僕はこれ以上探索を続けられない……後はあなたにお願いするしか……」
 うなだれたまま告げるアデルに君はどう応えよう。

  ・ 探索の継続を約束するなら(95へ
  ・ 報酬次第だと言うなら(2へ
  ・ もう少し探索を続けて様子を見たいと言うなら(24へ