540 殺気は頭上から降ってきた。とっさに頭を庇おうとした腕と肩にかなりの重量がかかる と同時に、肉を切り裂く激痛がはしり鮮血が散った。HPを2点減らすこと。 痛みを堪えて“それ”を振り飛ばすと、血飛沫が宙に尾をひいたが床には落ちず、歪ん で見える空中に溜まったままだった。警戒したまま見つめ続けていると、歪みが消えてい く替わりに灰褐色の毛皮が現れた。毛皮は次第に巨大でしなやかな体躯をした獣の姿 を形取っていく。 『これは……私達の魔法を逆手にとられたようなものですね』 ルルの呟きは、君の使う魔法「投映」のことを言っていた。あの魔法は水面が周囲の光 景を映すのを利用したものだが、それと似て比なる力をこの獣は身に備えているようだ。 『財宝を守らせるには格好の護衛でしょう』 そうしている間も獣が君を凝視し、いつでも跳びかかれる状態であることは殺気が教え てくれていた。隣の部屋に船長がいることを考えれば戦闘状態になることは避けたいが、 おとなしく引き下がってくれる気もしない。もしこの部屋を出て行く場合、どちらに背を向け ていけばよいのだろう。一方は血に飢えた獣で一方は海賊の首領。そういう状態をこの 世界では故事になぞらえ『竜巣の中の竜騎兵』と言うらしい。それはつまり勢い余って竜 の巣穴へと突入した騎兵が、後続する歩兵達との狭間で炎の息に焼かれ、為す術なく果 てたという事例であり、主に過信や増長を諌める旨を目的として言い伝えられたものだ。 君に過信があったかどうかはともかく、挟み撃ちあるいは2対1の戦いを避けるためには、 できるだけ早くこの獣を倒してしまう他はなかった。 今やその獣は全身をあらわにしてしていたが、一見すると猫のようでありながら四肢は トカゲのように身体の側面へと開かれ、たてがみ状の長い体毛が頭頂から尾の付け根 まで続いていた。前脚から脇腹の間に見えるのは、宙を滑空する小動物にあるような皮 膜だろうか。そして金色に光る瞳の間には乳白色の短い角が突き出ていた。この極めて 珍しい能力を持つ獣、ハイディング・ビーストは1度ダメージを負うと次の攻撃から不可視 状態となり、戦闘力が10になったものとして戦わなければならない。ただし元来は臆病な 性質でもあり、HPが残り3以下になるとこの部屋から逃亡する。 ハイディング・ビースト 戦闘力:8(不可視後:10) HP:9 見事に倒すことができたら再び前の部屋に戻り、ロワールダインに対して剣で斬りかか るなら(514へ) 魔法で攻撃するなら(550へ) もしハイディング・ビーストに食い殺されてしまったら(14へ) |