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 君は背に負ったルルを抜き放つやテーブルの上に飛び乗り、正面の椅子に座ったまま
の男に向かって振り下ろそうとした。それは本来なら海賊団“黄金の虎”の首領ロワール
ダインを確実にとらえていたはずの一撃だ。だが君はそれよりも早く目前の男の右腕が
動き、くぐもった破裂音と同時に火花が散ったのを見た。右手のある位置の外套に穿た
れた穴から薄い煙が立ち昇り、その内側から何かが射出されたのだとわかったがもはや
意味は為さなかった。何故なら海賊の分厚い外套を貫いた小さな金属の塊は、君の胴体
にも致命的な損傷を与えていたからだ。力を失った剣を左腕の手甲で受け止めたロワー
ルダインは、口元に笑みをうかべて言った。
「どうやらここまでは運が良かったようだが、戦う相手を知らずに挑むのは愚か者のする
ことだ」
 君は膝から崩れ落ちる身体を止められなかった。
『とても残念ですが、私もまた新たな主との出会いの刻まで眠ることにします。どうか安ら
かに……』
 君の手を離れ落ちていく剣から聞こえてきた声は、そのまま別れの言葉となった。

【THE END】