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【 時間点+1 】
 スヴァルニーダの生業であるという「呪い師」とは、すでに民衆に中に浸透した「呪い」
を扱う者達であると君は知っていたが、娘の容姿にも関わるという「呪術」は全く未知の
ものだ。両者の関係性に疑問を抱くのは当然のことかもしれなかった。君が返答を拒ま
れることも考えつつ訊いてみれば、予想外にも彼女は教師が生徒にでも説くかのように
淡々とした口調で話し始めた。
 スヴァルニーダによれば「呪い」とは、農村の収穫祭で一般的におこなわれる天候予
知といった初級の占いから、男女の縁を取り結ぶ祝福の祈願、一国の統治者が政の吉
兆を占う高等占術までを含み、船乗り等にとっては天候や潮の流れを読むことが必須で
あることから、経験や勘を補足するものとして用いられている技術全般を差すという。そ
して「呪術」とは、それらをもっと学術的に捉えて研究されたものだと思われているが、
実は全く異なるものだという。
 本来の「呪術」とは、生まれ持った特異な資質によって操ることができる「魔法」とも異
なる力の事で、その力を悪意によって利用しようとする者達や、忌避し排除しようとする
者達から隠蔽するため、意図的に生み出された偽りの術が「呪い」と呼ばれ、今の世に
広まっているに過ぎないらしい。
「……そして私は、本来の意味での「呪術」をこの身に受け継ぐ一族の末裔」
 最後にそう告げた娘の白い肌が一瞬さらに白く見えたような気がしたが、おそらくロウ
ソクの炎が揺らめいたせいだろう。
『もし彼女の持つ力を海賊が利用しようと考えているのなら、奴隷として扱わずにただ捕
らえておくというのもわかります。私の知る限り「呪術」の使い手を公言する者は皆「邪術
師」とされて災いとともにあり、権力や暴力を欲する者の傍らには幾度となく彼らの姿が
ありました。今の世では「呪い師」と呼ばれる初歩の占術を扱うだけの無害な術者ばかり
になってしまったようですが』
 どれだけの年月を眠っていたのかわからないが、ルルの記憶にさえ存在しないのであ
れば、もはや正統な「呪術」を受け継いだ者など今の世ではほとんど生きていないのかも
しれない。あるいはスヴァルニーダのように自ら人目に触れない生き方を許容し、いずこと
も知れぬ場所でひそかに暮らしているのかもしれない。
 ともあれ、この場で君が彼女に告げるべき言葉はあるだろうか。

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