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 君は室内に踏み込むと一気にカウンターを飛び越えた。そこで背後に目を向けると案の
定、料理人の親父が巨大な肉切り包丁を握ってこちらを睨みつけていた。
「お前がわしらの仲間を殺し回ってる奴か? 何のためにここまで入り込んだ?」
 君が娘の居所を訊くと、料理人は「なんだ、あんな娘のために金を出す奴はいないはず
だと聞いたが、奇特な奴もいたもんだ」と驚きを隠さなかった。
 そして君が微妙な表情でいるのを見ると「その顔じゃ知らんようだな。どれだけの報酬目
当てにこの海賊団を相手に回す気になったのか知らんが、あの娘にゃ身代金どころか無
事を願う知り合いすらいない。気味の悪い術を使うって流浪の民だ。海賊船くらいしか落ち
着ける場所もない娘に、命を懸けるだけの価値はあるまいよ」
 料理人の言う事が本当なら、娘は海賊に囚われているわけではないのかもしれない。だ
とすれば君の行動は無駄になるのではないか。そんな不安が胸をよぎる。
『魔法とは異なる「呪術」と呼ばれる術を使う人々がいるということは私も知っています。で
すが私の知る時代でその使い手とされた者の多くは、先天的に備えた特異な力を隠蔽す
るため「呪い」と称し姿を偽っていました。それは「呪術」によって世に害を為したことで「邪
術」とされる原因を作った者達がいたため。今の時代にあっても過去を知り「呪い」を操る
者が人里を避けるのは決しておかしいことではないかもしれません』
 ルルが語ってくれたら内容は、決して君の不安を打ち消すようなものではなく、むしろ意
志を挫かねないものだった。
「もし今すぐにこの船から去ってくれるなら、何も見なかったことにしてやってもいい」
 料理人は構えていた肉切り包丁を下ろし、君の答えを待っている。

  ・ 料理人に従って海賊船から去るなら(456へ
  ・ とにかく娘の居所を教えろと言うのなら(469へ