271 「そう……その男は海賊だけれど、私にとってはただの芸術家だった。戦うことも得意で はないと言っていたし……でも運はよかったのね」 その口調からわずかに安堵の気持ちが聞きとれる。彼女にとっては決して悪い監守で はなかったということか。 「ここにある彫り物は全て彼が私を彫ってくれたもの。1つ彫るのに早ければ2日、時に は数日をかけて、おしゃべりをしながらということもあったし、1日中無言のまま背を向け て彫り続ける日もあった」 言いながらスヴァルニーダは1枚の板を手に取り、君の方に表を見せた。そこには彼女 自身の肖像が彫り込まれていたが、先に説明されていたにせよ一目でわかるという事は つまり、男の腕がそれなりのものであるということだろう。 「彼にとってはたぶん私がモチーフでありさえすればもう姿が見えているかどうかは無関 係なのかもしれない。でも私は、ただ彼がそこで私を彫っているというだけで何故か心が 落ち着いた。……考えてみれば、そんな時間はもう何年もなかった気がする」 独り言のように言った後でしばらく沈黙し、スヴァルニーダは再び君を見た。 「ところで……さっきも言ったとおり、私にはここから逃げ出しても苦しいことの方が多い としか思えない。それでもまだ?」 君はまだスヴァルニーダを連れ出すための説得を続ける気があるだろうか。 ・ まだ説得を続けるなら(505へ) ・ もう諦めてこの場を去るなら(524へ) |