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「そう……その男は海賊だけれど、私にとってはただの芸術家だった。戦うことも得意で
はないと言っていたし……でも運はよかったのね」
 その口調からわずかに安堵の気持ちが聞きとれる。彼女にとっては決して悪い監守で
はなかったということか。
「ここにある彫り物は全て彼が私を彫ってくれたもの。1つ彫るのに早ければ2日、時に
は数日をかけて、おしゃべりをしながらということもあったし、1日中無言のまま背を向け
て彫り続ける日もあった」
 言いながらスヴァルニーダは1枚の板を手に取り、君の方に表を見せた。そこには彼女
自身の肖像が彫り込まれていたが、先に説明されていたにせよ一目でわかるという事は
つまり、男の腕がそれなりのものであるということだろう。
「彼にとってはたぶん私がモチーフでありさえすればもう姿が見えているかどうかは無関
係なのかもしれない。でも私は、ただ彼がそこで私を彫っているというだけで何故か心が
落ち着いた。……考えてみれば、そんな時間はもう何年もなかった気がする」
 独り言のように言った後でしばらく沈黙し、スヴァルニーダは再び君を見た。
「ところで……さっきも言ったとおり、私にはここから逃げ出しても苦しいことの方が多い
としか思えない。それでもまだ?」
 君はまだスヴァルニーダを連れ出すための説得を続ける気があるだろうか。 
 
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