レジンキットの塗装をまとめていた2007年02月。
離型剤についてのあれこれをとあるひのコタツガに書いたところ、り〜ん・うぃずのひめかわさんより「フィギュマニ誌の完成品工房の方の記事で入歯洗浄剤を使っていると書いてあって、試したらメーカー製洗浄液と同等かそれ以上でした」(意訳)との情報が寄せられ、当方でも試してみた結果いい感じだったので公開した所、結構な反響を呼びました。
この入歯洗浄剤というレジンキットとは縁の無さそうな意外性。言い方は悪いけど、笑える情報に食いつきは上々でした。
まだ実験回数は少ないものの、特に問題点も見られない事から、現状での解った事をまとめてみます。
これを読んで不具合が出たり失敗したという方がいらっしゃいましたらメール下さい。検証の上、記事に反映します。
レジン製パーツを生産する際にはシリコン型に液体のレジンを注入し、硬化させた後にシリコン型からレジンを取り出すという手法が一般的ですが、この時にシリコン型を離型剤でカバーしていないとレジンがシリコン表面に張り付き、レジンを型から分離する際に少しづつシリコンを持っていってしまいます。複製を繰り返せば表面の引きちぎられた目に見えにくい細かい溝等にまでレジンが染み込んで硬化し、ある程度侵食していると目に見えるような大きさのシリコンを引きちぎってしまうという問題が出てきます。
そこで離型剤による油膜でシリコン型をカバーして表面を保護すると同時に、パーツを型から分離しやすくします。型に塗布するものなので、硬化後のレジンにも付着しています。
離型剤にはシリコン系やフッ素系など何種類か存在しますが、一般的なホビー用途にはその二種類とされています。
レジン複製を専門に行っている業者の場合は業務用の何か別の方式の物を使っている可能性がありますが、確認は取れていません。
方式がどうあれ、離型剤が付いている面に塗装を行おうとすると上手く塗れません。
写真は離型剤を落とさずに缶サーフェイサを厚塗りした例です。
レジンと塗料の間にある離型剤の膜が塗料の食いつきを邪魔し、乾燥後に塗料の膜だけ割れて剥がれてしまいました。
そもそも無色透明な離型剤に対してどうこうしようというのが難しい話で、目で見て確実に除去出来たと言うのが確認しづらいです。目で見えないが害をもたらすとされている物。そこにはオカルト的要素が存在します。それらを交えて一般的に知られている離型剤を落とす方法あれこれを書いてみます。
これらの説を生み出した要因としては、最初にも言いましたが離型剤が目に見えない事から、離型剤を除去出来ているだろうという憶測を頼りにしている点にあります。
また、離型剤を落とさないで塗装してもある程度の期間を置かないと影響が出てこない点、シリコン系とフッ素系では対処法が違うはずなのに同一の方法で全てを対処出来るはずだと思っている点、何かの要因で塗装がはげたのを全て離型剤のせいにしている点、キットにより使用されている離型剤の量が違うはずなのを無視している点、自分のやっている方法以外は認めない点、等があります。
キットを購入しても使用されている離型剤の種類は書かれていませんし、実は除去済みなのかも知れませんし、このあたりはどうにも解らない事だらけなのです。
いろいろ説はありますが、中でも一番怪しいのが当ページで解説する入歯洗浄剤でしょうか。
たしかにブレーキクリーナーを使えば一発です。最強です。しかし完全には落ちていないかもしれないけれど塗装に支障のないレベルになっていれば何だって構わないのではないでしょうか?
と言う事で、各種手法に対してどれくらい良く落ちているかはわかりませんが、入歯洗浄剤で離型剤を落とす方法の紹介をします。
入歯洗浄剤を使う利点と言えば、何よりもその扱いやすさでしょう。水にパーツと錠剤を入れて漬け置きするだけです。
また元々口に入れる物を対象にしている事から、他の洗剤や溶剤に比べて安全性があります。
入手のしやすさも利点です。スーパーやドラッグストアで入手出来るので、地域によっては年中無休二十四時間入手可能です。
そして安価な事も嬉しい所です。当方の購入時では近所のドラッグストアでタフデントが108錠入って522円でした。ドラッグストアの商品は時期や地域によって値段が大きく変動しますが、製品単価は同程度なものの、内容量を考えると安上がりになるはずです。
という事で、当ページでは小林製薬のタフデントを例に紹介していきます。アース製薬のポリデント他でも同様の効果は得られると思います。
まず始めに、取扱説明書や箱に書かれている使用上の注意を読みます。基本です。
そこには「入れ歯の洗浄以外には、使用しない。」と書かれています。他製品でも同様の事が書かれていると思います。今回はこの注意書きを破ります。これにより以降に起こった不具合や諸問題は実行するあなたの責任の元で行われます。メーカーや当ページの責任ではないです。なぜこんな事を言わなければならないかというと...時々信じられないような根拠で信じられないような事を言ってくる人がいるんですよ。わかってください。
上の方に「使用の是非について自分で判断できない方の手の届かない所に保管する。」とありますね。あなたはどうですか?大丈夫ですか?いや、バカにしているわけではありませんよ。時々いるんですよ(以下略)。
では、実験方法を説明します。先日ノンキシレン型のレジンで複製した際、余ったのをプラのコップに入れて硬化させた物があります。コップの底の形に整形されています。同程度の物を2つ用意しました。
これに同時にスプレー式離型剤をかけました。これで2つは同条件に離型剤がかかっています。
塗布量は普通こんなに吹かないだろうというくらい吹いています。
この画像には、見る人が見れば非常に間抜けなツッコミどころがありますが、それは後述します。
では、早速やってみましょうか。
入歯洗浄剤の説明書を読むと、150〜200ccで錠剤1つを入れろと書いてあります。なので今回は1錠入れます。パーツが多くて鍋のような大きい入れ物でなければ入らない場合、または一度に多量に洗浄したい場合は、使用する水またはお湯に対して同じ比率で錠剤を入れていきます。つまり1500ccなら10個入れる事になります。
水よりもお湯の方がよく落ちそうな気がしますが、比較実験は行っていません。
個人的には錠剤を直接触った時の手の臭いが嫌なので、直接触れないようにしています。でも製品的には全く問題ないはずです。
洗浄したいパーツと錠剤を水の中に入れます。錠剤から大量の泡が出てきて、いかにも何か落ちそうです。入歯洗浄剤の説明書を読むと10分程度と書かれています。それ以上漬け置いてもレジンに影響は無いので、ちょっと席を離す合間や就寝時を利用しての洗浄が出来ます。
製品によってはこの段階で良い香りがすると思います。この製品だとミント系の香りがします。ですが積極的に嗅いでいいかは説明書の指示に従って下さい。ミントの臭いがするだけで実際は漂白剤成分が出ている事があります。
カラーレジンの場合は、各色全部いっぺんに容器に入れて洗浄すると色移りする事があります。何度かにわけるか容器を別にしてください。この場合、水の使い回しも避けた方が良いでしょう。
時間が経過したら取り出し、水洗いします。
水洗いしないと入歯洗浄剤から出た白い粉が付いていますので、乾かないうちに水洗いをしておきます。
洗浄後のパーツは液の色が付くという事もなく、見た目は洗浄前とほとんど変わりません。肉眼で見ると油分が落ちているのが判るんですが。
ちなみにこの液体の色は、一晩経てば若干白く濁った透明になります。
では、洗浄前のパーツと洗浄後のパーツでどう変わるのか見てみましょうか。
結果の期待に対して手心が加わるとアレなので、裏に印をつけ後でどちらがどちらか判断できるようにし、作業中は区別できないように伏せて作業してみました。
サーフェイサを吹いて...
乾いたらマスキングテープを貼って指でこすって強めに張り付け...
一気に剥がしてみた!
左が離型剤を落とした方。右が離型剤が付いた方。
離型剤を落とした方も少し剥がれたけど、べつにこのページは製品を宣伝するページじゃないし捏造してもしょうがないので、そのまま写真を出しました。
しかしこれを見ても効果が出てると判ると思います。
別の実験。
同じものを(いくつあるんだ)同様に片方だけ離型剤を落とし、両方とも同じようにタミヤアクリルカラーのフラットのフィールドブルーをエアブラシしてみました。左の方が離型剤が付いた方、右の方が離型剤を落とした方です。
離型剤が付いた方は塗装がムラになっています。ふちの部分とか。
多分入歯洗浄剤に含まれる界面活性剤が離型剤を落としているのだろうと言われています。
そう考えると今まで言われるがままに中性洗剤でゴシゴシ落としていたのにも納得がいきますし、お風呂でお湯を使えばより一層落ちる事が経験的にわかると思います。
離型剤の缶を見ても成分がシリコーンとしか書いてなくて「もっと何か詳しく書かないの?」とか思ってしまいますが、今後他製品で落ちるかどうかを確認する際には界面活性剤が効果を及ぼすのかどうかがヒントになると思います。
各サイトさんで試された実験結果です。
Pinakothekさんのぴなぶろの2007-03-04でレジン製ドールのパーツを洗浄されています。
同人ゲーム 青田狩りblogさんの2007年02月27日から2007年03月06日まで、2007年05月12日から2007年05月20日まで、2007年10月06日。10月06日ではカラーレジンのものと無着色のレジンを一緒に混ぜて洗浄したら色移りしたとの報告があります。
さて、途中で書きましたダウトの件ですが、実は当方の所有している離型剤はペインタブルタイプ。paint-able type。色が塗れるんですよ。最近気付きました(爆)。本当はもっとドギツイ製品を使えば面白い結果が出ると思うんですが、2年使っててもまだだいぶ残っているので、別の製品を買えません。
実際に運用するに際してはコップでは容器が小さすぎると思いますので、鍋やボールに水を入れ、そこに水やお湯を入れ、水量に比例して錠剤を規定数入れていく事になります。
ボールにザルを入れ、ザルにパーツを入れて水を入れて錠剤を入れ、時間が経ったらザルごと引き上げて水洗い、というのが効率いいと思います。ラーメン屋が麺を茹でる時みたいに。
先に書いた「離型剤はキット入手後すぐに落とした方がいい」という説が本当だとすると、今後は離型剤落としはディーラー、原型師、複製屋、抜き屋の仕事になるかも知れません。今までは「離型剤落し作業はパーツを一つ一つ歯ブラシでこすらなければならない」とか「高価な離型剤落とし液を購入しなければならない」等の手間や金銭負担の高い作業をディーラー側に求めにくい雰囲気がありましたが、離型剤を落とす作業が手間のかからない、金銭的にも大した負担ではない方法になればディーラー側の仕事になるでしょう。だって生産後に時間経ったら離型剤がレジンに染み込んで塗れなくなっちゃうって言う人がいるんだから!
個人的には「多少は離型剤がレジンに染み込むかもしれないけど、離型剤を落とすのは塗装直前でもOK」という説を推しますが。なので誰がやってもいいです。手間じゃないし。
当方にネタを提供して下さったり〜ん・うぃずのひめかわさんに感謝します。ありがとうございました。
当ページを書くに際し、実際に試してみた各サイトの記述を大いに参考にしました。
また化学的な知識を教えてくれた金子氏にも感謝です。
そして元ネタのフィギュアマニアックス誌vol.14の記事「テクニカル・ナビ」を執筆された有限会社東工社の嶋田憲治さんに感謝します。
今後の予定としては、実際に試された方のレポがまとまっていれば発見次第追加していきますのでタレコミを募集しています。
離型剤に関しては諸説ありますが、何にせよ「塗料が乗りにくくなる原因の一つに離型剤の影響がある」という事は確かなので、各自いろいろ試してみてはいかがでしょうか。