シリコンで複製をしよう

written by t.akiba & studioKotatsugaHouse 2005.11.17
last update 2014.12.01


はじめに

2005年9月の「TAT-CON番外編第一弾 さわたりけんじの造形ライヴ」でいろいろ聞いて来た中で、シリコンで型取りするというのがありました。簡単そうだったので実際やってみたんですが、同様の事が書いてあるページがググっても出てこなかったので、忘れないうちに書いておきます。
当ページを見て行動したい場合、最後まで読んで失敗事例を頭に入れた状態で実施されると良いと思います。

シリコンはシリコン単体が「シリコン」、添加物が混じっていると「シリコーン」と言うそうなので、ここでは正確にはシリコーンと書くべきですが、あまりそう言う人いないんでシリコンと書きます。

このページでは割き型を紹介していますが、その他の手法をシリコン型でちょっと手抜きをするでいくつか紹介しています。合わせて読んでいただけると吉かと。
また、ここまで精度を出さなくとも手軽に複製したい場合は型想いで複製するのページも参照して下さい。

粘度埋め等の、いわゆる「普通の」型取りの方法は大日本絵画社の書籍モデル・テクニクス2を読んで下さい。あとHOBBY JAPAN社の書籍ノモ研1でも触れられていますね。
一般的な複製方法の基本的な事をトイズプレス社のMFLOG:03/REALに書きましたので、興味のある方はぜひ。
以前トイズプレスの書籍MFLOGで書いた文が現在トイズプレスのサイトで公開されています。一般的な複製方法を書いておきましたので、一読下さい。
あまり深く考えないで模型工作 第3回 ガレージキットの複製

注意


イベント前で切羽詰まってる人は確実に完成する方法を選択すべきです。やった事が無い方法をアテにするのは避けましょう。

複製技術を悪い事に使わないでください。

準備するもの





原型の用意


複製する原型を用意します。今回はPinky:stの顔パーツを複製してみます。
位置決めをしやすいように棒を瞬間接着剤で付けてみました。後述しますが、場合によっては要りません。接着する場合は確実に接着して下さい。


棒の端にどっちの方向が前とか書いておくと判りやすいかもしれません。
この時点で、型の分割はどんな感じで割ろうか考えておきます。キッチリ正確には出来ませんが。
あとで紙コップの中に原型を入れますが、底面からこれくらい離れている時はカップの上端が棒のこのあたりというような目印を付けておくとあとで便利かもしれませんが、シリコンの水面がどのあたりにくるかは慣れないとシリコンを入れなきゃ判らないと思うので、多分適当でいいです。


シリコンを混ぜる

シリコンは買うと通常シリコンと硬化剤がセットになってます。硬化剤を指定量混ぜると固まり始めます。どれくらい入れるのか、何時間で固まるのかは製品のラベルや説明書やパッケージに書いてあります。大きい模型店に行けば硬化剤だけ単品で売っている店もあります。
シリコンが製造されてから何年も経つと固まらなくなる事があります。硬化剤が古くなると駄目という説がありますが、古いシリコンに新しい硬化剤を混ぜた事無いんで詳細は判りません。


親切な製品だと100g等の切りのいい数字に対してこれくらい入れればいいという目安の線が書かれている物もあります。


シリコンの缶のふたを開けます。てこの原理でふたを少しずつ開けていきます。缶やふたが多少曲がっても多分平気です。


はかりにカラの紙コップを置き、風袋引きボタン(TAREボタン)を押すと指示が0gになります。
省バッテリ機能の関係で、紙コップを外して他の事をやっている最中にはかりの電源が切れる事がありますが、その時は別のカラの紙コップをはかりの上に置いて再び風袋引きして下さい。多少誤差が出ますが誤差範囲内です。


缶からシリコンを出し、スプーンで紙コップに移します。切りのいい数字だと硬化剤を指定量混ぜる際に計算しやすいと思います。写真の例だと、紙コップを置いて風袋引きし、シリコンを100g紙コップに移し、硬化剤を1g加えています。はかりは101gを表示しています。シリコンの白に硬化剤の赤で非常に美味しそうですね。
硬化剤の量がいくらか増減しても構わないらしいですが、硬化剤の容器の横の目盛りとずれてくると目安として使えなくなりますし、あとあと硬化剤が足りなくなる事も予想されます。


混ぜます。硬化剤の色の濃い部分が完全に無くなるまで混ぜます。コップの底の隅の方もかき出して全部混ぜます。時々硬化剤の混じってない部分が出て来る事がありますが、そういった部分が無くなるまで混ぜます。固まり始めるまで結構時間がかかるので、念入りに混ぜます。気泡が混じっても構いません。置いておけば気泡は上がってきます。


シリコンに漬ける


シリコンの表面に気泡が上ってこなくなるまで数分待ちます。
頃合いを見て、綿棒で原型にシリコンを塗ります。本当にありがとうございました。
奥まった溝等に気泡が残らないように塗りたくっていきます。塗ったら下に垂れるので、紙コップの上で塗ります。下にこぼれると勿体ないので。


シリコンの中に原型を漬けます。沈める時に原型の下や端に空気の気泡が入り込まないように慎重に漬けていきます。シリコンの中で原型を回したり動かしたりして気泡を抜くと良いですが、原型と棒の接着が甘いと棒がもげます。
別の紙コップを用意して糸状に垂らしていくと、もっと上手く気泡が抜けるようですが、試していないので今度やってみます。


このままでは棒の重さや原型の浮力によりシリコン中で原型が底に付いたり上に上がってきたりしてしまうので、何かで固定します。今回は針金にクリップで固定してみました。勘の良い人はここで棒が四角や角張っているほうが固定しやすいと気付きます。
たぶんこのページの中で、この固定が一番難しい箇所だと思います。まず何で固定したらいいのか。その固定治具は原型を支えられるだけの重さや強度があるのか、微妙な位置決めが出来るか、等の条件が絡んでくるからです。ガムテープで止めれば粘着面にシリコンが付着して粘着力が落ちる場合もありますし、細い針金なら時間が経つにつれて少しずつ曲がってくるかもしれません。
固まったあとのシリコン屑をいくらか持っている場合はそれを下に敷けば底に付くということは避けられると思いますのが、それは後述します。


上から見るとこんな感じ。原型の形にもよりますが、棒がシリコンの表面に対して垂直になっていると片寄りが判りやすくていいと思います。
このままシリコンの説明書に書かれている硬化時間の分だけ待ちます。12時間くらい。実際には8時間くらいでも固まってると思いますが、焦って失敗するより待った方がいいと思います。


準備する物で書いた固定治具の割り箸と角棒ですが、こういう様に使用するそうです。原型の付いた角棒を割ってない割り箸で挟み、クリップで挟んでいます。この方向でクリップを挟めば左右方向にも前後方向にもずれないと思います。あとは割り箸を紙コップにテープで固定するだけです。
角棒の面は原型の前後左右に対応させておくと型を割く時に判りやすいかと思います。


型の完成


シリコンが固まると、かくはんに使用したスプーンに付いたシリコンがきれいに剥がれます。
これがきれいに剥がれるからといって型が完全に固まったと判断するのは危険ですが。


シリコンと紙コップの間に空気が入ればシリコンは抜け落ちると思いますが、抜け落ちない場合は無理に外そうとしても紙コップが曲がるだけなので、それならいっその事紙コップをやぶいてシリコンを取り出します。


軸に付けた前後左右の目印を目安にカッターやデザインナイフで型を切っていきます。デザインナイフだと奥まで刃が入らないかもしれませんが、多少は気にしません。
原型に刃が当たると原型を傷つけるので、おそるおそる原型に刃がさわる程度に切っていきますが、考え方によっては型の完成とともに原型は不要となるかも。そこまで割り切った考えは難しいですが。


シリコンを割ります。多少刃が届かなかった所は引きちぎった感がありますが、問題ありません。
このカップ型の場合、二面型だけではなく三面、四面となっても構いません。
これで型の完成です。



先に綿棒でシリコンを塗っておいたのと、原型の下に気泡が溜まらないように気をつけていたので、原型にくっついた気泡はありません。
ちなみに目の所に黒い点が二つ見えますが、これは気泡ではなくて原型の塗料がシリコン硬化時にに持っていかれたものです。無理に剥がすと型に傷がつきそうだったので、そのまま残しています。


複製する

あとはリップクリームやワセリンを塗ったあとでエポキシパテをつめて複製するのも良し、

原型の下からレジンを流し込めるゲートを作って空気が上へ逃げられるようにし、レジンを流して複製するのも良し。
レジンでの複製の方法はレジンを流そうのページを参照して下さい。


この型を使う時は、全く同じ形の新しい紙コップに型を入れて使います。大量生産万歳。写真は説明用に透明のコップを使用しています。型の周り中360°から型を固定するので、普通の二面型のように輪ゴムでクランプして全体の締め付け圧を均一にして...なんて苦労しなくても、かぽっと固定出来ます。これが型が三面や四面になってもちゃんと固定出来る理由ですね。
型の切り方によっては原型に対して直角に型の分割面を入れられますし、しっかりホールド出来るので型ずれはもちろん、バリも少なめです。
もし型が漏れてて中身が流れ出しても、カップの中に溜まりますし。満ちてくればその水位まで中身は確保されます。

失敗事例

えー、楽しい失敗事例のコーナーです。
原型の材質にもよりますが、原型には浮力があります。ちゃんと固定しないとシリコンとの比重の関係で浮いてきたり沈んだりします。
写真は例として透明コップに白く色をつけた水で代用しています。

ちゃんと固定していない時でシリコンに対して原型が重かった例ですね。


これは逆に軽かった例。
最初はテープをコップの上で十時にしておけばいいかなとか思っていたんですが、はやり棒は固定していないと動いてしまいました。ガムテープで止めたら粘着面にシリコンがほんのり付いて付かなくなってしまいましたし。慌てました。


ある程度失敗したシリコンがある場合(泣)、ブロック状に切って、硬化前のシリコンを塗ったあとで底や壁面に置き、中央に原型をはめ込んで固定するという事が出来ます。一度固まったシリコンに硬化前のシリコンを混ぜると同化するみたいですし。
これで固定出来れば、固定の為に原型に付けた棒は不要になりますね。位置決め用マークは紙コップに直接マジック外側に書けます。


これは紙コップが自然に優しそうな森林を破壊しないカップで、内側にロウが塗ってません。なのでシリコンが繊維の奥まで染みてしまって、剥がせなくなってしまいました。

ええ、この失敗事例、全て体験済みですから。
あとシリコンが古すぎて二日経っても固まらなかった例がありますが。。。特殊事例なので省略。


硬化時間の短縮


一般にシリコンは温度湿度が高ければ、特に湿度が高ければ早く硬化するとされます。
以前から知られているシリコンの硬化を早める技としては、シリコン硬化中に型枠(当ページで言えば紙コップ)に濡れたフキンを被せるというのがあります。この時フキンはシリコンに接しないようにします。

硬化剤を多く入れるという技もあります。この場合、あとあと硬化剤が足りなくなりますので別途硬化剤だけを購入したり、特に急いでいない時には硬化剤を少しづつ減らす必要がありますが、硬化剤を減らしすぎると固まらない可能性がありますので、できれば店頭で硬化剤だけ売っているのを見かけたら予備で1本程度持っておくのがいいと思います。その関係で硬化剤だけで入手可能な製品を選択すると良いかと思います。

ただ、シリコンの硬化と湿度は無関係と主張する人たちもいます。このあたりは各自実験をして確認して下さい。


おわりに

こんな感じで、粘土を使わずに型が作れます。汚れる物が比較的少ないのもいいですね。

もちろん原型の形によっては不得手なものもありますが、使えるものも多いはずです。他の手法と併用させたり組み合わせたり、工夫しながらやってみると良いと思います。
ああでもない、こうでもないと考えながらやってみるのが楽しいんですよ。

実際にやってみて、見ながらやったら失敗したとかいった場合、連絡いただければ当ページに反映します。

文頭でも紹介しましたが、シリコンで型取りする方法があまりネット上に無いのはモデル・テクニクス2を持ってれば十分だからという説があります。いろいろ手法を知りたい方は、是非一読下さい。

最後になりましたが、興味深い技術を実演して下さいました、さわたりけんじさんに感謝します。
シリコンが固まらなくて落ち込んでいる時に技術情報を寄せていただいた蛸山涼さんにも感謝しています。
ありがとうございました。




おわり。



追記:2014.12.01 URL変更によるリンク修正。mflogの内容がトイズプレスのサイトで公開されているので、そこへのリンクを追加。
追記:2009.09.19 シリコン型でちょっと手抜きをするのページやmflog03へのリンクを追記。
追記:2007.01.24 注意と、レジンを流そうのページへの言及を追加。
追記:2007.01.14 参考書籍としてモデル・テクニクス2ノモ研1を紹介。タコブネさんへのリンク先の修正。
追記:2007.01.04 型想いで複製するのページへのリンクを追加。 追記:2006.04.16 シリコンを紙コップ内でかき混ぜるとき、コップの底の隅の方もかき出して全部混ぜますの記載をボールドに。参考にさせていただきました>井乃間さん
追記:2005.12.14 さわたりけんじさん、蛸山涼さんのWEBへのリンクを追加。ご意見ありがとうございました。>テツイヌさん
追記:2005.11.21 割り箸と角棒はシリコンに漬けるの5枚目の写真の様に使用するそうです。お手数かけました。>いぬくまさん
追記:2005.11.19 いぬくまさんより、四角い棒は原型に付ける方ではなくて固定する土台の方とのメールを頂きましたので反映。ご指摘、有り難いです。
追記:2005.11.18 いぬくまさんより、固定の棒は四角の方がやりやすいという事とシリコンを糸状に垂らしていく方法を教えていただいたので反映しました。情報ありがとうございました。あとシリコンブロックで原型をはめ込む時に位置決めを紙コップに書くというのと、用意する物に棒が抜けていたので追記。