綾香T
 「とに、やっとまいたみたいね。ホント、セバスったらしつこいんだから やんなっちゃう。少しくらいは、放っておいてほしいわ。」
 私は、やっとのことで執事長のセバス・チャンをまくことに成功したのだった。
 窮屈なお城の生活は、決して心地よいものではなかった。嫌いなわけではないのだけど、好きなことを好きなようにできないことは 辛いことだ。
 拳法だけが、私の生き甲斐なのよ。
 「それにしても、随分森の奥まで来ちゃったな。」
 森の奥深くまで逃げ込んだのはいいけど、帰り道がわからなくなっちゃった。
 「ま、なんとかなるかな。 ・・・・・・うん?」
 帰り道を探そうと考えていた時、私は人の気配を感じた。
 「 ・・・誰かいるみたい。野盗の4・5人ならどうてことないけど、それ以上だときついわね。」
 私は、警戒をしながら その気配を感じる方へと向かった。おかしな気配ではないようだ。殺気立ったものではないことが、根拠である。
 「 ・・・人の声が聞こえる。」
 どうやら、拳法の鍛錬をしているみたい。それも、一人じゃなさそう。
 「こんな人気のないところで、やってることなんて。」
 私は、興味がでてしかたなかった。人目を忍んで鍛錬するということは、それなりの理由があるはず。そう、理由が・・・
 「ハアッ!」
 「やぁっ!」
 二人? 組み手をやってるのかな。
 私は、忍び足でその声のする方へと 近づいていった。
 「いた。」
 若い男女が、組み手をしている。
 「動きが単調だ。もっと、こう・・・ 変化を。」
 「はい、兄様。」
 なるほど、兄妹か。それにしても、見たこともない衣装ね。初めて見るわ。どこから来たのだろう。
 「それに、あの型・・・ 」
 二人の組み手の型・・・ 私は知っている。多少変形ではあるけれど、私のよく知っている型だ。
 「そろそろ終わるか、葵。」
 「今日は、早いですね。」
 「まあ、お客様がお待ちのようだし。」
 えっ? も・・・ もしかして、気づかれてた?
 「そこの木陰の人、でてきてもらえないかな。」
 その男の人は、私の方を向いて 声を発した。覗いているのを気づかれていた。
 「ばれていたのね。」
 私は、彼らの前へ姿を現した。
 「覗きとは、あまりいい趣味とはいえないぜ。」
 不貞不貞しい態度。私が、この国の王族と知ったら 他の男どもと一緒で態度は豹変するんだろうけど。
 「たまたまよ。
 それより、その拳法 どこで覚えたのよ。その衣服からすると、この国の人ではないのはわかるけど どうやって修得したのよ!」
 「おいおい、いきなり 初対面の者に向かって藪から棒になんなんだよ。失礼な奴だな。」
 「その型は、多少変形してるけど 王族のみに伝わる天輝拳よ。それを、王族以外の者が使えるはずないの。」
 私の武器でもある天輝拳。それを、王族以外で修得した者がいるなんて 始めてみた。それよりも、いてはいけないのだ。
 「天輝拳? なんだそりゃ? 俺達のは、一族に伝わる天影拳っていうんだ。一族っていっても、いまとなっては俺と葵の二人っきりになっちまったがな。」
 「天影拳? 天輝拳から分かれたのかしら。でも、そんなこと聞いたこともないし。」
 私は、益々彼らに興味がでてきた。
 「用がないんだったら、俺達はもう行くぜ。じゃあな。」
 「ちょ、ちょっと待ってよ。」
 「なんだよ。まだ、なにかあるのか?」
 不満のある反応。仕方ないわね。
 「ごめんなさい。自己紹介が、まだだったわね。私は、綾香・来栖川っていうの。」
 「綾香か。さっきの話しと来栖川って名から、お姫様のようだな。そんなお姫様が、こんなところに一人で来るなんて この国は平和なんだな。」
 嫌みだわね。この男が持っているお姫様像が、なんとなくわかる。
 「そうでもないわ。盗賊だって出るし、魔に連なるものだっているもの。でも、私にはそれらを退けるだけの 力があるの。」
 「 ・・・なるほどな。」
 私のことをジッと見て、何が判るというのかしら。
 「私は、名のったわよ。」
 「俺は、藤田浩之。」
 「妹の葵です。」
 浩之に、葵か。妹の方は、素直そうないい娘みたい。
 「ねえ、どこから来たの? それに、天影拳のことも教えてよ。」
 「まあ、いいけど。だけどな、お姫さんを迎えに 誰か近くまで来てるぜ。」
 「え? うそっ?」
 「向こうから来るな。」
 私は、指し示された方に耳をとがらせた。
 「なんとなく・・・ わかる。まだ、あきらめてなかったのね。それにしても、すごい耳をしてるのね。あれが、聞こえていたなんて。」
 「聞こえてはいないさ。なんとなく感じたんだ。」
 彼は、素っ気ない素振りで 答えた。
 私の彼に対する興味は、益々膨れ上がるばかり。この気持ち、拳法を習い始めたばかりのころに似ている。次が知りたい。もっと先を知りたいと、拳法に恋し始めた頃に。
 「じゃあな。あんまし、人に迷惑かけんなよ。」
 「失礼します。」
 二人は、まったく関係がないとばかりに 私に背を向けて歩き出した。
 「どこに泊まっているのよ!」
 私は、彼らにまた会いたい一心で セバスたちに気づかれるのもかまわず 大声を上げていた。
 「神岸寺に、ご厄介になってます。」
 彼の妹が、答えてくれた。彼にもう一度会いに行こうと、私は決めた。

浩之T
 「綾香か・・・ 。」
 俺は、先ほど別れたお姫様の事を考えていた。今まで旅をしてきて、初めてあったタイプのお姫様のことを。
 素っ気なくしてしまったが、本当は気になっていた。それが、どういうことかわからなかったから あのような態度をとっちまった。
 「兄様、この国なのでしょうか? ・・・兄様?」
 俺は、妹が何を言ったのか わからなかった。
 「ん・・・ ああ、どうした葵?」
 「もう、兄様 何を考えていたんですか? 私たちが探していた国は、ここではないのでしょうかと言ったのですよ。」
 そうだった。俺たち兄妹が、旅していた理由。その終着点が、ここかもしれないのだ。

***
 一族が、ひっそりと暮らしていた山里を 突然に襲った悲劇。
 俺たちが見たのは、山が崩れ 膨大な土砂に埋もれて 村のあった痕跡もない変わり果てた姿だった。
 薬草を取りに、山を二つ越えたところまで出かけていた俺たち兄妹だけが その惨劇に遭わずに済んだ。
 俺たちは、ただ呆然として その村があったであろう場所を見つめていた。
 やがて日も暮れて、俺たちは 村の守り神として祀っていた高台の社へと 移動した。
 静寂の中、燭台に明かりを灯し 俺たちは何も考えられずにいた。
 「葵。。。」
 やっとの思いで声をかけたが、返事がない。完全に抜け殻と化した妹が、そこにいる。現実から逃れたい時に、そうなってしまうのだろうか。
 何もする気力がない。
 だが、腹だけは空く。
 社の中に妹を残して、俺は 食料を探しにでた。社の中にいる分、葵を一人にしても平気だろう。
 別に、食料の当てがある訳じゃなかった。ただ、被害を免れた畑があればという安易な考えもあった。
 月明かりの下、荒涼たる土地を進む。地中には、村人の躯があるのだろうが 俺には彼らを捜し出す術はない。この辺り全体が、一つの墓となってしまったのだ。
 父も母も、幼なじみも、総てそこにいる。それは、否定できない現実なんだろう。
 俺は、現実を見据えながらも これからのことを考えるしかなかった。妹と二人っきりとなってしまった今、ここに留まるのか それともここを去って 見知らぬ土地に流れていくのか。
 いろんな考えを巡らしながらも、被害を免れた段々畑を 見つけることができた。
 「そういえば、鍋・塩とかは 祭事用のが社に保存されていたな。」
 畑にあるものを、適当に見繕うことにする。芋とか豆が、主だ。
 「これだけあれば、十分だな。」
 そう言って集めた野菜を抱え上げた時、人の気配を感じた。
 「誰かいる。」
 わずかな気配のする方を向くと・・・ 知った顔が、目に飛び込んできた。
 「じいさんっ!」
 「はっはっはっ。ここまで近づかんとわからぬようでは、まだまだだな。それより、よく生きていてくれた。」
 「山二つ先まで、薬草を取りに行っていたからな。それより、じいさんこそ よく生きてたな。てっきり、みんなと一緒に逝っちまったと思っていたぜ。」
 「儂も、運良く村を離れていたんじゃよ。だが、他の者は皆・・・ 」
 「ああ、わかってる。」
 あちこち、歩いて探し捲ったんだろう。泥だらけで、傷だらけだった。
 「お主だけか?」
 「いんや、葵を社に残してきた。」
 「そうか。」
 その言葉以降、お互い話すこともなく 食料を抱えて葵の待つ社へと向かった。
 (じいさんは、何を考えているのだろうか。)
 じいさん・・・ 祖父に対する考えだった。先代の村長でもあり、代々家に伝わる拳法の継承者の一人でもある。俺はと言うと、まだ修行中の身である。
 「浩之。」
 先にその沈黙を破ったのは、祖父だった。
 「ん?」
 「お主、覚悟はあるか?」
 祖父の意味は、わかっていた。一族に伝わるものを継承する事。妹を守っていく事。
 「逃げるのも、性にあわねぇしな。」
 俺は、さも当たり前のように答えた。
 「らしい答えだな。だが、儂も年じゃ。どれだけ生きていられるか、わからん。短期間で、徹底的に伝えるから 物にせいっ! 中には、命を懸けなければできぬものもある。それでも、伝えていかなければならぬほどのものがあるのじゃ。」
 「死なねぇよ。死ぬわけにゃいかねぇよ。」
 ・
 ・
 ・

 その日から一年で、総てのものを引き継いだ。
 天影拳の奥義。また、一子相伝、口伝のみで伝えられてきた秘拳を。
 秘拳を継ぐために、死と隣り合わせの儀式も受けた。それらが、総て身につけられたのだ。
 「天性の才があったにしろ、ここまでとは 儂の想像を遙かに凌いでいたわい。 ・・・グッ。」
 安堵したのか、祖父の身体が崩れる。
 「じいさん! 死んでる場合かっ!!」
 「最後まで、口の悪い奴め。」
 そう言った祖父の顔は、穏やかだった。
 「最後まで伝えることができて、満足じゃよ。よう、ここまで保ったもんじゃ。」
 一気に力が抜けていくように、床に横たわる祖父。
 「そろそろ、迎えが来たようじゃの。 ・・・浩之、旅立て。儂らに縛られることはないでの。後は、己が道を進め。そこで、我らが伝えしものが絶ち消えても それもまた天命。」
 「そうだな。」
 「わかっているなら、それでいい。
  ・・・儂の墓は、無用ぞ。村の皆と共に眠るでの。」
 「ああ、わかってるぜ。」
 葵は、二人のやり取りを聞きながら 俺の後ろで声を殺して泣いていた。
 祖父が死ぬ。それによって、この世に血の繋がった者は 二人だけになってしまうから。
 そして、深夜 祖父は息を引き取った。
 夜が明け、祖父を葬ると 俺たちは当てのない旅にでた。
 とりあえず、西へ。古文書にあった”天影を伝えし者、遙か日の落ちゆる地より来たる”と言う言葉だけを頼りに。
 あれから2年。商隊の護衛をしながら、ここので流れてきた。
 ”思ったより早かった。”それが、今日綾香というお姫様に 王家の拳法にそっくりだと言われて感じたことだった。
 たった2年で、目的を達してしまうかと思うと つまらないとも感じる。
 だが、葵のことを考えると 腰を落ち着けて生活するべきかとも思う。葵は、優しい娘だから 俺に任せるとしか言わないし・・・ どうすっかな?
 当面は、綾香の言っていた天輝拳との比較や 俺の先祖と綾香の先祖の接点を調べることになりそうだ。とは言っても、綾香は この国のお姫様だから そう簡単には会えないだろうしなぁ。知り合いだと言って、お城に近づくのも こっちの身が危険なような気がする。
 ま、今日のように 城を抜け出してきた時にでも 会えればいいか。こっちの居場所は、知ってるからな。それに、また会える気がする。

綾香U
 「ふぁ〜あ、眠れなかったな。あいつの事で、頭が一杯で 眠くなかったのよねぇ。なんでだろ?」
 ・・・もしかして、これが恋ってやつ?
 そんなっ、昨日初めて会ったんじゃない。それも、ほんのちょっと話しただけなのに。
 でも、あいつの事が 気になってしかたない。あいつ本人になのか、それとも あいつが使う拳法に惹かれるのか わからないんだけど。それを確かめる為にも、あいつに会うことが一番だと思うけど 昨日の今日だから セバス・チャンから逃げ出せるかしら。。。
 私は、悩んだ。城の脱出方法は・・・ なんとかなるだろう。それよりも、あいつが天影拳・・・ 天輝拳の型に あまりにも似ていた。それが、今も私を悩ます元凶だ。
 「う〜ん・・・ 。」
 王家不出の拳法を見る機会は、民衆には そんなにあるもんじゃない。セバス・チャンのように、教育係として 王家以外の者が修得することは 稀である。しかも、王族以外に奥義は許されていない。と言うことは、あいつが奥義を使えるのなら 王家の血筋ということになる。
 でも、”藤田”なんて分家なんてないし・・・ ふぅ〜。
 「とりあえずは、家系図でも見てみるかな。」
 私は、書庫に行ってみることにした。
 「焦って城を飛び出しても、いいことないしね。」
 私は、焦る気持ちを抑えながら 城の中を歩いた。
 スタスタスタ・・・
 スタスタ・・・ スッ
 「 ・・・セバス、いい加減にしてくんない?」
 「姫様、今日は逃がしませんぞ。」
 「とに・・・ 今は、その気ないから。」
 そう言って、私は書庫に入った。セバス・チャンも、入ってくる。
 家系図は、来栖川大系の棚にあるはずだから 簡単に見つけだせるとふんでいた。 ・・・けど、見当たらない。どうして?
 「セバス、家系図がないんだけど 知らない?」
 「そこの棚にありませんか?」
 「無いから聞いてるの!」
 「 ・・・無いですな。」
 一通り、二人であちこちと探してみるが 見当たらない。
 そうこうしているうちに、セバス・チャンは 書庫からでて 通りかかった文官を呼び止めた。
 私はというと、家系図の他で 何か参考になるものがないか 物色している。が、家系図である程度気になる人物に当たりを付けないと難しいことを 大量の書籍を目の前にして思い知った。
 「姫様、芹香様が お持ちになっておられるようです。」
 「姉さんが?」
 人のことは言えないけど、あんなもの持っていくなんて 姉さん何する気なのかしら。
 「そのようで、ございます。」
 「じゃ、私は姉さんのところへ行くから 後片づけお願いね。」
 そう言って、私は書庫を後にした。姉さんの部屋に行くということで、セバス・チャンも私の言い付けに 素直に応じてくれたみたい。
 それにしても、方術師の姉さんが 家系図になんの用だろう? 皆目、見当もつかないわ。
 姉さんの部屋は、私の部屋の隣だから 結局戻ることになったわね。
 スタスタスタ・・・
 スタスタ・・・ ピタッ
 コンッコンッ
 「姉さん、居る?」
 私が声をかけると、ちょっとの間をおいて ギィ〜と扉が開いた。
 「綾香?」
 「うん、おはよ 姉さん。」
 コクッと、姉が頭を縦に振る。
 「姉さん、家系図持っていったでしょ? 私も、ちょっと調べたいことがあるから 見せてもらえないかな?」
 「いいですよ。」
 「ありがと、姉さん。」
 私は、姉さんの部屋に足を踏み入れると 机の上に広げられた物を目にした。そこには、私の探していた物があった。
 「姉さん、使っていたんだ。」
 「二人で使っても、大丈夫だと思います。」
 「そうねぇ〜、姉さんは 何を調べていたの?」
 「私ですか? 私は、ご先祖様で 行方が判らなくなった方がいらっしゃらないか 調べていたのです。」
 「奇遇ね。私も、同じ事を調べようとしていたのよ。
 でも、姉さんは なぜそれを調べようと思ったの?」
 「占いで、”遙かなる時を越えて、王家の血を分けし者 戻りぬ。”と でたのです。
 直接の血筋全てが記されている家系図ならば、なにか判ることがあるかと思いました。でも、隠し子とかいらっしゃったら 判りませんけど。」
 「まいったわね。姉さんの占いって、ホントに当たるんだから。」
 私は、占いが 昨日会った兄妹のことを指していると思った。いや、確信している。
 「昨日、それらしい兄妹に会ったのよ。その二人が、天輝拳にそっくりな拳法を使っていたの。アレンジとか加わって、違っていたけど 基本は同じだと思うわ。」
 「そうでしたか。それで、綾香は どうしたいのですか?」
 「わからない。でも、彼に興味が湧いたことはたしかなの。だから、姉さんと同じように ご先祖様で行方のわからない人がいらしたら その人が彼と繋がっているんじゃないかと思ったの。」
 私は、姉さんに話すことで 何かを期待し始めている。それは、彼に会いに行けるチャンスが生まれるんじゃないかってこと。
 今、私一人で セバス・チャンの目を盗んで城を抜け出すことは 無理っぽいのよね。
 でも、姉さんと一緒なら 合法的に城を出られるかもしれないってこと。
 「そうですね・・・ 400年程前の方で、行方がわからない方がいます。えっと・・・ この本に、その方の事が書いてあります。名前は・・・ 浩之と言うらしいです。」
 「ひろゆき?」
 驚いた。ご先祖様と同じ名前だなんて、偶然よね。
 「はい。その方が、旅に出たまま帰らなかったとなっています。その方は、拳法の達人でもあったようです。
 旅に出た理由が・・・ その前年にあった”封魔戦”にあるようです。えっと・・・ その戦では、天輝拳でも歯の立たない魔物がいたそうです。」
 「でも、その戦は 勝ったはずよね。」
 「ご先祖様、浩之さんの恋人でもあった”方術師あかり”という方が 禁断の秘技を使い 命と引き替えに魔物を封印したのです。頭を失った魔物たちは、総崩れとなり一掃されたとなっています。
 恋人を失った浩之さんは、自分の不甲斐なさと封印した魔物クラスに対抗しうる力を求めて旅立ち 帰らなかったようですね。」
 「と言うことは、私が知り合った兄妹は ’辿り着いた先で血を残したご先祖様の子孫’という可能性もあるわけね。」
 「そうですね。でも、それを証明するものがないかもしれないですよ。」
 「証明か・・・ 彼が、天輝拳の奥義と似た技を使えれば 少しは認められるかもね。」
 そう、彼の腕前がどれほどのものか せめて知りたい。
 「では、会いに行きましょうか。綾香のことだから、居場所を知っているのでしょ?」
 「う・・・ ん。」
 姉さんと一緒なら、堂々と城を出られる。喜んでいいことだし、望んでいたことだ。
 でも、この不安はなに?
 私が気になるくらいだから、姉さんだって気に入るはず。
 それが、不安なの?
 私の内に、やるせない気持ちが湧いてくる。
 「何を恐れているのですか?」
 私が、恐れている? まさか?
 「ううん、なんでもないわ。
 それじゃ、セバスに馬車を出してもらいましょ。彼らは、神岸寺にいるわ。」
 とにかく、彼に会うのが先だと思う。
 それにしても、天の采配ってやつなのかな? ご先祖様と同じ名前。それに、泊まっているのが ご先祖様の恋人”方術師あかり”を祀ってある神岸寺というんだから。
 じゃ、私と彼の出会いは なんなんだろう?
 関係は・・・

浩之U
 「兄様、どうかされたのですか?」
 「ああ、ちょっと考え事をな。 ・・・葵、この国をどう思う?」
 「そうですね・・・ 好きです。なんていうのかな? 故郷に似ているからって言うんじゃなくて、匂いかな?」
 「なるほど。葵が気に入ったなら、この国に腰を落ち着かせようかと 思っているんだがな。」
 「兄様・・・ 好きになさってください。私は、兄様さえいてくだされば どこでもいいのですから。」
 葵の答えは、いつも同じものだ。俺は、葵の為にと言ったが 今回ばかりは少し違っていた。
 「そうだな・・・・ 。」
 俺は、食事の後片づけをしながら 自分の心の中を妹に話せずにいた。俺のちょっとしたわがままで、妹の未来を棒に振るわけにはいかない。過保護すぎるかな?
 それに、決心したわけじゃない。推測域からでていない求めることの答えが、決心してないわけでもある。
 いろいろな考えが巡る。
 俺は、どうしたいんだろう?
 妹には、幸せになってほしい。
 だから、どうしたいと言うんだ?
 わからない。
 「浩之くん。」
 「はい、太士さま。」
 いつもの葛藤をしている俺に、神岸寺の住職”源五郎太士”が 声をかけてきた。
 「この後、暇はあるかな?」
 「薪割りと水運びがありますけど、その前でよければ。」
 異邦人の俺たちを快く受け入れてくれた人だが、未だに このような方が住職をやっているのか 疑問に思う。
 その体つきから、ただ者ではないことはわかる。が、今までひょうひょうとかわされてきた。それが、今日になって 急に何か含みがあるように 声をかけてきたのだ。
 緊張が、さっきまでのモヤモヤを吹き飛ばす。
 「迷っているようだね。私と一手、組まないか?」
 「はっ?」
 「君を見ていると、血が滾るのだよ。今まで押さえてきたが、我慢できなくなってな。それとも、私では不服か?」
 「あっ・・・ いいえ。そういうことでしたら、お相手いたしますけど・・・ 。」
 「手加減は、無用ぞ。奥義を出さねば、勝てぬと思え!」
 威圧感が、俺を襲う。ビリビリとした気で、鳥肌が立つ。
 「わかりました。でも、怪我をしてもしりませんからね。」
 「ははっ、言ってくれるわ。では、半刻たったら 裏庭にまいられよ。」
 「はいっ。」
 去っていく住職に、俺は懐かしさを感じていた。今は無き故郷で、叔父貴に稽古を無理矢理つけられた時も あんなビリビリとした気迫を感じたもんだ。手加減無しの組み手に、何度も気を失ったことか・・・ 。今なら、返り討ちにできるだろうな。
 「兄様・・・ 。」
 「ただ者じゃなかったな。こちらも、気を抜けないぜ。」
 俺を見上げている葵も、しっかりと感じているようだ。俺の袖を握って、険しい顔をしている。
 俺は、葵の頭に ポンッと手を載せ ぐりぐりとする。
 「やだっ、兄様っ!」
 「だいじょうぶだっ。怪我させないようにするぜ。けどな、俺の読みが正しければ 奥義をの一つもださないと勝てない。」
 「ただの組み手でしょ?」
 「向こうは、そうは思ってない。それに、俺は葵を守る為にも どんな事にでも負けられない。俺たちを受け入れてくれた太士の恩義に答える為にも、手は抜けないぜ。」
 それだけじゃなかった。太士は、きっと何かを知っている。もしくは、繋がってるものを持っているように思う。
 とにかく、手を抜くことは 命取りになりかねない。その気持ちが、気力を充実させていく。

 そして、半刻後 太士の待つ裏庭へ向かった。
 久しぶりの気の高まり。商隊の護衛をしていた時、盗賊の相手をしても たいして緊張もしなかった。
 ところがだ。太士の相手をするだけなのに、ここまで胸が騒ぐ。極めた者同士感知できる感覚、というものだろうか。
 「待っていたよ。」
 そう言った太士は、溢れるのを止める事もできないほど 氣が満ちている。
 「はじめましょう。」
 胸が、高鳴る。
 空気が、張りつめる。
 音が、無くなる。
 俺と太士は、裏庭の中央で相対する。
 風もないのに、ざわめく木々。
 虫の声も、すでに鳴き止んでいる。
 どちらから合図するでもなく、スッと構えに入る。が、それ以上は動けない。
 対峙する相手を、見据える。
 瞬きも、許されない。
 そして、対峙すること数分・・・ 転機はやってきた。
 「浩ゆ・・・・・ 」
 同時に動く。
 「真空刃!」×2
 同じ技が、炸裂する。
 同時に手刀より放たれた真空の刃が、中間地点で対消滅する。
 「やはりな。」
 太士が、納得している。それは、お互いの手の甲に光る法印を見てのことだろう。
 俺の手甲に光る法印、それは 真空刃を放つために真空を作り出す 法術印であった。法術と拳法の組み合わせ、それが 他に類を見ないものであるはず。
 「真空技は、天輝拳独自の技である。それを使えるということは、少なくとも天輝拳の流れをくむということでもある。が、もう一つ秘密がある。
 それは、この法印だ。」
 そう言って、太士は 法術印の光る手の甲を 俺に見せた。
 「普通の入れ墨によるものでなく、氣による入れ墨。それが、天輝拳奥義の秘密。また、その印があることは 来栖川王家のものである証でもあるのだよ 浩之くん!」
 瞬間、再び 真空刃が俺に放たれた。
 俺を切り裂こうとする真空の刃を 俺は無言でたたき落とす。
 真空が、消滅する時 回りの空気を巻き込み 吹き上げる。
 「気の高まりに反応して、印は光り輝く。その輝きは、強さに比例する。
 その針の先のように鋭く、研ぎ澄まされた技の冴え 私より遙かに上か・・・ 。」
 やはり、太士は 俺の力量を試そうとしていた。
 「今度は、俺から行くぜ。天影拳脚技”分影”。」
 俺は、不規則な動きを 前後左右に繰り返す。法印を合わせた高速移動で、分身を作っていく技だ。分身には、気配も残していくため あたかも分離しているのかとさえ思わせる。
 「分身術か。」
 俺は、速度を上げ 分身を増やす。
 刹那、太士の背後に回り 太士の首筋に手刀を合わせる。
 「太士、俺の勝ちですね。」
 「ああ、まったく見えなかった。」
 太士は、氣を抜き 戦闘態勢を完全に解いた。
 「強いな、君は。何が、君をそこまで強くしたのだろうな。」
 「浩之っ!!!」
 「え!?」

綾香V
 私は、悩んでいる。
 いままで味わったことのない感情が、私を苦しめる。
 馬車の中では、私は無口だったと思う。
 だって、セバスが私の方を 不思議そうに見ているもの。
 城の北東を守護するかのように建てられた、神岸寺。そこに、私たちが会いたい人がいる。
 セバスが、疑いもなく馬車を出してくれたのも 住職が私たち姉妹の叔父だから。私たちは、叔父が好きだった。セバスと違って、どこかつかみどころない人だったけど 私たちのことをよく理解してくれる人だった。だから、城を出て北東の守護として神岸寺に移った後も 私たちはたまに会いに行っている。
 「私は、ここでお待ちしております。」
 セバスは、正門をくぐったところで待っていると言った。
 そこに、出迎えの修行僧がやってきた。
 「芹香さま、綾香さま、ようこそお出でくださいました。」
 「こんにちは。叔父様は、いらっしゃるかしら?」
 「お師匠様は、お客人と裏庭で手合わせをすると おっしゃってました。」
 それを聞いて、私は心が躍る。見たかったものが、見れる。押さえきれない、この気持ち。手に入らなかったものが、目の前に出されようとしている そんな気持ち。
 「ありがと。姉さん、裏庭だってさ。」
 「 ・・・はい。」
 「私は、ここでお待ちしております。」
 「セバス、あなたにも 見て確かめてほしいわ?」
 「何を、で ございますか?」
 私は、セバスに 彼を見てほしかった。たぶん、裏庭では 私の考えていることがおこる。
 それを見れば、きっと驚く。そして、認めてほしい。セバスが認めれば、お城に彼を招き入れることができるわ。
 「それは、叔父様たちの組み手を見れば 判ると思うわ。特に、相手のをね。」
 「はあ。綾香様が、そうおっしゃるのでしたら。」
 セバスは、今ひとつ納得していないようね。それは、仕方ないけど きっと驚いて腰を抜かすわ。
 「じゃあ、行きましょ。」
 私は、すぐにでも駆け出して行きたい衝動を抑え ゆっくりと歩き出した。
 私の脳裏を、寺の裏庭で起ころうとしていることが 浮かび上がって離れない。
 でも、対峙する二人の姿しか 浮かばない。
 私たちは、勝手知ったる寺の敷地内を歩く。本道の裏へ行くために、宿坊の横を抜ける。
 そこに、鍛錬場として使っている 裏庭がある。
 「感じる。」
 静かに高まり、膨れ上がる二つの氣を 感じた。
 「む・・・ これはっ!」
 セバスも、気づいたようね。一つは、叔父様の気だってわかる。もう一つの気は、彼のなの?
 この感じ・・・ 殺気が、全然ない。叔父様のは、肌がピリピリするくらいあるのに。
 「セバス、どう思う?」
 私は、セバスに率直に聞いてみた。この国の最高師範としての彼の意見を、聞きたい。
 「源五郎殿の氣に、衰えはありませんな。それどころか、相手に触発されたかのように 力強いものを感じます。
 相手の気は・・・ わかりかねます。源五郎殿の氣に耐えるのでなく、弾くでなく・・・ 緩やかに受け流しているかのようでもあり・・・ 余程の手練れの者か、実力の差か? 源五郎殿を相手に、実力の差があるとは 思えぬ。これは、絶対に確かめねばなりますまい。」
 セバスも、興奮している。私の興奮も、頂点に達しようとしている。
 宿坊の角を回ると、目の前は開かれた。目前に、彼の妹の葵がいた。そして、彼が修練場で叔父様と対峙しているのが 見える。
 「浩之!」
 私は、無意識のうちに 彼の名を叫んでいた。
 私の声が、合図だったかのように 二人は瞬時に技を繰り出した。それも、私のよく知っている技を。
 対消滅した技が、空気を動かし 私の頬を撫でる。
 私は、もっと近くで見たくて 身を乗り出そうとしたけど 肩をセバスに捕まれて動くことができない。
 私の肩を捕むセバスの手に、熱いものを感じる。
 「姫様・・・ 」
 セバスは、二人を凝視したまま 私を制止したのだ。
 私もセバスも、格闘家として 身体の芯が熱く滾っている。汗ばみ、頬を汗が垂れていく。
 「あっ。」
 叔父の真空刃を、なんなくたたき落としたようにも見える。そして、浩之が技にはいる。
 「分身術か。」
 そう、セバスが呟いた瞬間 浩之は叔父の後ろに回っていた。
 勝負が着いた瞬間でもあった。
 つ・・・ 強い。あの叔父が、こうも簡単に負けてしまうなんて 信じられなかった。
 「浩之!!!」
 私は、また 彼の名を叫んでいた。
 「えっ?」
 やっと、彼も気づいてくれた。
 ズイッ
 私の前に、セバスが立ちふさがる。
 「きさま、何者だ?」
 激しく沸き上がる氣を吹き出しながら、セバスは 一歩一歩浩之に近づいていく。
 「やめなさいっ、セバス・チャン!!!」
 私は、あわてて 今にも襲いかかろうとしているセバスを 止めにかかった。
 触れたセバスの身体が、熱い。
 私の制止など聞こえないのか、前に力強く進もうとする。
 セバスは、私が服をつかんだまま 引きずって進み始める。
 姉さんも、私にしがみついてきたけど セバスの動きを止めることができない。いったい、どうしたっていうのよ セバス・チャン。
 「やれやれ・・・ たく、ジイさん お姫様が困っているぜ。」
 そう言った彼が、軽く腕を振った。
 「ぬおっ!」
 強い風が、吹きつけた。
 「ジイさん、いい加減にしとかないと お姫様たちが気の毒だぜ。」
 「なに? ・・・あっ、姫様 何を?」
 やっと気づいてくれた。
 「いったい、どうしちゃったっていうのよ。目の色が、尋常じゃなかったわよ。」
 初めて見たセバスの行動に、私は 信じられない思いがあった。
 それは、目の前にあるものを 消し去ろうかとさえする気迫だった。
 「も、申し訳ございませんでした 姫様。」
 「んもう、しかたないわね。」
 「 ・・・ ・・・ 。」
 「姉さんも、心配してるわよ。」
 「芹香様、申し訳ございませんでした。」
 ふう、やっと いつものセバスに戻ったみたいね。
 「セバス・チャン、ご苦労。彼のことは、私が試しておいた。心配しなくても、大丈夫だ。彼は、本物の使い手だよ。」
 叔父様は、そう言ったけど・・・ 私も、それは見ていた。だけど、叔父様もセバスも 私の知らないことを確かめようとしていたのではないのだろうか?
 「そうですか。ですが・・・ 」
 セバスの厳しい視線が、彼に注がれる。
 何を、そんなに気にしているの?
 「 ・・・じゃあ、彼を お城に招待してもいいってことかしら 叔父様?」
 私は、ここに来た目的の一つを 口に出した。叔父様とセバスの様子から、それも可能だと思えたから。
 「綾香様、それは・・・ 。このような得体の知れない者を、城に招き入れることはなりませぬぞ。」
 わかっていた反応ね。
 「姉さんの占いで、ここに来たの。それは、きっと彼のことを指し示していたと確信してる。
 それに、彼は 城の中に入れるだけの資格を持っているはずよ。そうですよね、叔父様。」
 「ああ、そうだな。だが、彼に行く気があるかどうかだ。」
 「そうねぇ。 ・・・あっ!」
 姉さんが、彼の・・・ 浩之の手を取っている。
 「私たちと、一緒に来てください。」
 赤くなって、戸惑っているあいつが 可笑しい。でも、ちっとも面白くない。
 「あ・・・ ああ。」

浩之V
 落ち着かない。。。
 調度品に、フカフカのベット・・・
 俺には、似合わない物ばかりだ。それに、葵が一緒にいない。今まで、別々の部屋で寝る事なんて無かったからな。
 おまけに、離れた部屋にいるらしい。それは、人質でも取られた気分にもさせる。
 俺がいる部屋を囲むように、見張りがいる。それも、理由の一つだ。
 綾香たちの居城に招待され、国王に紹介され 城に泊まることになった。
 それは、まあいいとして・・・ 危険物扱いされているようなのが 気にくわないぜ。
 俺は、求めているものが見つかればいい。それだけなのに。
 国王や綾香、源五郎様の話から 天影拳の本家が 天輝拳にあるらしいということはわかった。それが、俺の求めている物だと わかっている。だけど、物足りない。見つからなければ良かったと思うのは、俺の身勝手かもしれない。簡単に見つかってしまったことと思えるのが、不安だし 面白くない。
 「 ・・・たく、苛つくぜ。」
 居心地の悪さが、息苦しさを増していく。
 身体を動かしたい。動かさなければ、いられない。
 だが、この客間では 腕を振るのが精一杯だ。足でも振り上げようものなら、調度品を破壊してしまいかねない。
 「しょうがねぇな。」
 面倒臭いが、仕方ない。
 ガチャッ
 扉の外には、扉を挟むように衛兵がいた。
 「なにか?」
 「ああ、身体を動かしたいんだが 修練場へ案内してくれないか?」
 「わかりました。執事長様に聞いてきますので お待ちください。」
 「ああ、早くしてくれ。」
 俺は、部屋の中に戻り 返事を待った。少しでも問題を起こせば、綾香に迷惑をかけかねない。
 「綾香か・・・ 」
 夕食の時、初めて見たお姫様らしい綾香の姿。綺麗だったと思う。
 森の中で会ったお転婆が、あんな風になっちまうんだもんな。詐欺だぜ。
 「俺、あいつに惚れたかな。」
 この言葉は、たぶん本心からでたと思う。だけど、あいつはお姫様で 俺は浪人。いくら、この国の秘拳と繋がりがあるらしいことが解ったとしても 身分違いもいいところだしな。この場にいることさえ、場違いなんだよ。
 「イラつくぜ!」
 今まで無かった程、イラつく。いや、初めてだろう。あれから、ずっと必死に生きてきたような気もするし。葵を守ることが、全てだった。天影拳の源流を探すのだって、旅をする為の言い訳だったかもしれない。
 「 ・・・らしくないな。何、弱気になってるんだ 俺。悪い方ばっか、考えているじゃないか。」
 ふと、冷静になってみた。やれることもやっていないんだから、弱音を吐いてる場合じゃないんだ。
 こうやって、急に考えを変えられることも 俺のいいところだと思うぜ。たぶん。
 コンッコンッ ガチャッ
 「許可がでましたので、案内いたします。」
 ジジイの許可がでたか。後は、邪魔されたくないと思うぜ。
 「ああ、頼まあ。」

 俺は、修練場に入って やっと落ち着くことができた。
 不思議だ・・・
 俺は、ここを知っている・・・ ような気がする。
 なぜだ・・・
 気持ちが、完全に落ち着くと 懐かしさが溢れ出す。
 身体に、力が満ちていくようだ。
 「ハアァァァァァァァ・・・・・・ 」
 ゆっくりと、息を吐く。身体の隅々まで、力が行き渡る。
 客間でのイラつきが、嘘のように 微塵も感じられない。
 自然と、身体が動く。
 軽い。
 信じられないほど軽い。
 気持いい。
 本当に不思議だ。
 身体が、この空間に馴染んでいるようだ。
 目をつぶっていても、この空間が全てわかる。
 なぜだ?
 だが、そんなことはどうでもいい。
 全ての思考を止めて、身体のみ動く。
 修練場の中を、縦横に動き 飛び回る。
 身体に染み込んだ技が、次々と繰り出される。解き放たれたかのように、大きく 小さく。
 今までにない感覚だが、何か物足りなさも感じる。
 何かが足りない。というより、何かが無い。そこに、あるもの・・・ いたはずの・・・ 。
 俺は、回りを見渡し そして止まった。
 目を瞑り、呼吸を整え 思い出すように探る。
 ここで、いつも俺を見ていた人がいた。
 あてもないのに、思い起こすように 記憶を探る。
 あるはずのない記憶。
 でも、そこにいたんだ。
 俺は、そこを見た。
 奥へと続く扉を。
 「えっ!?」
 俺は、自分の目を疑った。
 いるはずのない女性。
 だけど、女性のシルエットが浮かび上がるその場所に 俺の目は 釘付けになった。
 また、懐かしさを感じる。
 触れたい・・・ と思うが、怖い。消えて失うんじゃないかとさえ、思う。
 絶望と喪失感・・・ こんなに恐れたことは、あの時以来だ。
 俺が、動けずにジッと見ているのを その女性は気づいたのか ゆっくりと動き出した。そして、一つの影が 二つになった。
 それでも、俺は 一人を見ているような感覚さえあった。
 「あかり・・・ 」
 え? 
 俺は、今 何て言ったんだ?
 知らない名前を口にしたような気がする。
 それに、誰に言ったんだ?
 俺は、どうかしてしまったのだろうか・・・
 「ひろ・・・ ゆき・・・ 。」
 女性の声が、俺の発した名前に応えたのか?
 「浩之、やっぱり来たね。」
 知っている声だ。
 「綾香・・・ なのか?」


綾香W
 彼は、何も言ってくれなかったけど どう思っていたのかしら?
 でも、彼のために特別おめかししたわけじゃないし・・・ 。
 それよりも、やっぱり 姉さんの瞳が気になる。彼を、ずっと見ていた。
 どんな男の子にも、興味を示さなかった姉さん。その姉さんが、瞳で彼を追っていた。
 ”どうしてなの?”
 そう、姉さんに聞いてしまいそうだった。聞いたら、姉さんは どう答えただろう?
 ”私が、先に彼に目を付けたのよ。”と、姉さんに言いだしそうだった。
 私は、どうしたらいいんだろう・・・ 。
 私は、どうしたいんだろう・・・ 。
 私は、何をすればいいの?
 「怖いよ。」
 私は、両腕で 自分の身体を抱き締めた。
 彼の答えを知るのが、怖い。
 姉さんの気持ちを知るのが、怖い。
 私のこの気持ちが、実らないことが怖い。
 「私の気持ち?」
 私の気持ちって・・・ それは・・・ 今、ハッキリとわかったわ。
 「私は・・・ 彼が好きなの。好きになっていたの。」
 この気持ちが、はっきりとわからなくて 怖がっていたんだ。
 ”馬鹿じゃないの?”
 そんな声が、聞こえそうなくらい 簡単なことだったかもしれない。
 「あはは、何やってんのかしらね。」
 自分が、可笑しかった。
 私が、私でいられなかったんだ。
 「自分が見えてないなんて、武術家として 失格ね。でも、すっきりした。」
 自分がするべき事が、わかったから。
 「まず、手を延ばそう。それからよ。」
 私は、居ても立ってもいられなくなった。
 とにかく、彼に会おう。
 「 ・・・綾香。」
 「えっ? ・・・姉さん?」
 コクッ
 「いつから、いたの?」
 「ずっと、いました。」
 「 ・・・ずっといたって・・・ 私の言っていたこと、聞いていたの?」
 コクッ
 姉さんに、ずっと聞かれていた。私の悩みを・・・ 想いを・・・ 。
 身体の芯から、恥ずかしさがこみ上げて 熱い。そして、自然と涙が溢れてきた。
 「姉・・・ さん。ね・・・ え・・・ さん。」
 止めどなく、涙が溢れてしまう。
 どうしてなの?
 私は、どうして泣いているの?
 きっと、姉さんは 困った顔をしているに違いない。
 でも、涙で 姉さんの顔が見れないの。
 ふかっ
 「え?」
 柔らかいものが、座り込んでしまった私の頭を 包み込むように押しつけられた。
 温かい姉さんの胸・・・ それが、私に感じられるものだった。
 姉さんが、私を抱き締めている。
 温かい・・・
 落ち着く。
  ・・・昔にも、こうして姉さんに抱き締められたことがあったな。
  ・・・ ・・・ああ、そうか。私が姉さんを見ていたように、姉さんも私を見ていてくれたんだ。私には、それがわかっていなかった。なんで、そんなこともわからなかったんだろう。
 私たちは、生まれてから ずっと一緒だったのに。。。
 「落ち着きましたか?」
 姉さんの優しい声が、心に響いてくる。
 「う・・・ ん。」
 私たちの表面的性格が違うのは、誰もが知っている。だけど、内面的性格が同じだということを 誰も知らない。同じなのは、姿・形だけだと思っているはず。
 私と姉さんは、別の道を歩いているように見えてるけど 最初で繋がっている。いつも、それは感じていたことだと思う。
 今、しっかりとそれを感じる。
 「姉さん・・・ ごめんね。私、自分のことしか考えてなかった。」
 フル フルッ
 「姉さん?」
 「どうして、謝るのですか? 綾香は、何も悪いことをしていないですよ。」
 「だって、私は自分のことしか考えてなかったのよ。」
 「気づいたのでしたら、それでいいのですよ。誰にも、迷惑をかけていないのでしょ。」
 私は、馬鹿だ。独り占めしようとしていたことが、恥ずかしい。
 ”一緒に幸せになろうよ。”
 その一言が、なぜ考えられなかったの? 私たちは、二人で一人なのに。。。
 「姉さんも、彼のこと・・・ 浩之のこと、好きになったんだよね?」
  ・・・コクッ
 「 ・・・はい。この気持ちが、恋という感情でしたら 私は浩之さんを好きです。」
 わかっていた言葉だけど、ちょっとショック。
 「私も、浩之が好き。姉さんの気持ちと一緒ね。」
 「そうですか。それは、よかったです。」
 「うん、そうだね。」
 姉さんと気持ちが一緒でも、心はモヤモヤしている。
 私は、姉さんに嘘をついている。私だけの浩之にしたいことを、あきらめられないの。
 偽善者ね。
 わかっているのに、変えられない。
 でも・・・ 彼に会えば、変わるかもしれない。
 「姉さん、浩之に会いに行きましょ。」
  ・・・コクッ
 ジッと、私を見てから答えた 姉さん。やっぱり、私の気持ちを見透かされているように 見える。
 「でも、どこに行けば・・・ 。」
 浩之が泊まっている客室は、見張りがいるから 入れてもらえないだろうし・・・ 。
 彼だったら、どうするかな? 
 私だったら・・・ きっと、ジッとしていられなくて 身体を動かす。
 客室じゃ無理だから、外・・・ いや、修練場ね。見張るのも楽だし。
 「行こう、姉さん。」
 私は、姉さんの手を取った。私が、いつも使っている秘密の抜け道を通って 修練場の倉庫へ行くの。誰も知らない、偶然みつけた 私の部屋の秘密の通路。たぶん、脱出路の一つなんだろうけど 忘れ去られていたのかな。
 私が、姉さんを抜け道に連れ込んでも わかったような顔をしている。気づいてたんだろうな。

 隠し通路を歩いて数分、修練場の倉庫へと出た。石壁にカモフラージュされて扉た、開ける。
 ゴトッ
 「?」
 途中から感じていたんだけど、扉を開けて はっきりと感じた。誰かが、修練場にいる。それも、知っているけどわからない。だって、とても懐かしくて優しい氣だもの。
 「えっ?」
 ギュッと、姉さんが 私の手を握っている。こんなことは、初めて。
 「姉さん?」
 「 ・・・とても懐かしい感じなのですけど、とても怖いです。」
 そう言った姉さんは、涙を流し始めた。泣いている姉さんを見るなんて、何年ぶりなのかな。
 これも、私の感じた氣と関係があるんだろうか?
 「どうしたの、姉さん?」
 そう聞くのが、私には精一杯。
 「わかりません。わかりませんけど、心が震えるほど懐かしい感じなのですけど・・・ 怖いのです。胸が、締め付けられるほど 悲しい感じもします。でも、安心した気持ちもあります。
 こんなに複雑な気持ちは、どのように表したらよいのか わからないのです。」
 その気持ち、私も感じている。
 私たちを悩ませる存在。悩ませる・・・ 人。
 「行きましょう、姉さん。」
 私たちは、答えを見つけるために 修練場へと続く扉に向かった。
 どんどんと身体一杯に伝わってくる。
 扉に差し出した腕が、震える。
 扉の向こうを見るのが、怖いような気がするけど 見なくちゃいけない。
 ゆっくりと・・・ 扉を引く。
 射し込む月光の青白い光の中に、その人はいた。
 私は、金縛りにあったかのように動けず その人から目を離すことができない。
 向こうも、ジッと動かずにいる。
 「あや・・・ か。」
 姉さんは、私の顔の横を通り過ぎると 修練場へと踏み出していった。
 その時、その人は声を出した。言ったことは、わからなかったけど その声は聞き覚えがあった。
 「ひろ・・・ ゆき・・・ 。」
 私たちを悩ませる人。
 「浩之、やっぱり来たのね。」
 私の考えは、間違っていなかった。でも、この氣・・・ は、今朝のと違う。
 「綾香・・・ なのか?」
 「うん、私と姉さん。」
 「芹香さんも?」
 「浩之さん、いいですか?」
 「ん・・・ ああ。」
 私と姉さんは、浩之に近づいて行った。
 ああ・・・ ダメ。また、涙が溢れてきちゃう。こんなの、浩之に見せられないよ。
 「綾香、私も同じです。」
 そう言った姉さんは、私の背中を軽く押してくれた。
 「うん。」
 溢れた涙が、頬をつたる。誤魔化す、隠す必要のない涙。
 私たちは、浩之の向かいに 腰を降ろした。涙を拭うこともなく。
 「 ・・・綾香、泣いているのか? 芹香さんも?」
 驚くこともなく、私たちを見ている浩之。
 「うん。私にもわからないの。ここに来たら、いろいろ複雑な気持ちになって・・・ どうしたらいいのか わからないのよ。」
 「そうか・・・ 。で、俺にどうしてほしいんだ?」
 彼は、私たちの気持ちを受け止めてくれるのだろうか? 彼は、私たちの望んでいることを してくれるんだろうか?
 「私たちがしてほしいこと、してくれる?」
 私は、顔を伏せてでしか言えなかった。
 「私と姉さん・・・ 浩之にしかできないこと・・・ して・・・ ほしいの。
 でも、その前に聞いてほしいことがあるの。答えてほしいことがあるの。」
 「 ・・・俺で、いいのか? 俺に、答える資格があるのか?」
 「うん。」
 「はい。」
 私たちの心は、決まっている。
 「わかった。綾香が泣いた理由も、見つかるかもしれねーしな。」
 私が泣いた理由・・・ 自分でもわかってないことを、どうすれば見つかるのかな?
 「 ・・・と、その前に ちょっと話しをいいか?」
 「うん?」
 「俺は、この修練場に来たのは もちろん初めてなんだが ここのことが手に取るようにわかるんだ。目を閉じてさえ、ここの間取りどころか いる位置さえわかる。演武をしてさえ、目を瞑っても 壁にぶつかることさえない。身体に、ここの全てのことが 染みついているような感覚なんだ。故郷に、こことそっくりな建物なんてなかったし。本当に、不思議だぜ。」
 「それって・・・ ?」
 「綾香たちがでてきた扉のとこで、いつも誰かが 俺を見ていたような気もした。だから、綾香たちがいた時 錯覚かく思ったぜ。」
 「うん。」
 「綾香たちだってわかった時、ホッとしたが 残念でもあった。大切な誰かを、忘れていたような・・・ そんな感じだった。」
 浩之も、私たちと同じ わからないけど忘れていた 思い起こせないことを感じていたんだ。
 「浩之さんは、輪廻転生ってわかりますか?」
 「知らない。」
 姉さん、何言ってるの?
 「人は、死んでも また次の時代に生まれ変わるのです。そのかわり、前の記憶は持っていません。また、周りの人も また姿・形を変えて関わってくると言われています。
 私たちが、浩之さんと前の時代で関わっていたとしたら どういった関係だったのでしょうね。」
 「前の・・・ 時代か。もし、魂が前の時代のことを思い起こそうとしていたのなら 俺がここで感じたことは 簡単に納得できるだろうな。」
 姉さんは、何かを知っているのだろうか? それって、ずるくない・・・ ?
 「 ・・・ま、そんなことはどうでもいいさ。俺たちが、現在(いま)いるってことが 真実なんだから。」
 「浩之さんなら、そう言ってくれると思っていました。」
 「・・・」
 私は、嬉しくて声が出なかった。姉さんに対して、嫉妬を感じていた私の心を 綺麗に拭い払ってくれた。
 ありがとう、浩之。私は、イヤな女の子にならずに済んだかもしれない。
 「浩之・・・ 。」
 「ん?」
 「好きよ。」
 「なっ・・・ 何言ってんだよ。」
 「冗談なんかじゃないわ。あなたのことが、好きなの。ね、姉さん。」
 「はい。」
 「えっ?」
 素直に言えた、私の気持ち。
 「私の胸の中は、他に何もいらないくらい あなたのことで一杯なの。」
 素直に伝えた私の想い。
 「でも、それは私だけじゃなかったの。姉さんも、浩之のこと・・・ 。」
 「はい、私も 浩之さんのことが好きです。」
  ・・・あんなに照れてる姉さんを見るの、初めて。本当に、今日は 姉さんの知らなかった顔をよく見れる。
 「お姫様が、そんなことを軽々しく口にしていいのか?」
 「そんなことは、関係ないっ! 私たちは、女として あなたが好きになったの。それとも、肩書きのある私たちじゃ 浩之には迷惑なの?」
 私だって、普通の女の子として見られたい。
 それよりも、浩之にそんなことを言われたのが悲しい。
 「すまん。俺の前にいるのが、綾香だけだったら 迷わずに応えれた。
 でも、芹香さんを見て わからなくなったんだ。」
 「そんな・・・ 」
 それって、ショック大きいよ。
 「綾香が、嫌いになったわけじゃない。どちらかというと、自分の気持ちに気づかされた。綾香のことが好きになっていたんだって。」
「そうなの?」
 「ああ、綾香のことが好きだ。でも・・・ 」
 「でも?」
 「芹香さんのことも、好きになったみたいだ。綾香と同じくらいに・・・ どちらかを選ぶことができないくらいにな。」
 「そんな・・・ ずるいよ。」
 あ・・・・・・ 思わず口にしてしまった。
 「ずるいかもしれない。でもな、俺には 綾香と芹香さん 二人が一人にしか見えないという感じなんだ。どうしてだかわからないんだが、目を閉じて 氣だけを見ているとハッキリとわかる。」
 「それで、正解です。ですから、悩まなくてもいいのです。」
 どういうことなのよ、姉さん。知っているなら、教えて欲しいよ。
 私一人、のけ者にされている気分よ。
 「綾香にも、きっとわかります。今は、少しだけ我慢してください。」
 「ずるいよ、姉さん。」
 二人の考えていることが、わからない。私のこの行き場のない気持ち、どうすればいいのよ。
 不安で、身体が震えるよ。
 ギュッ
 震える私を、力強く抱き締めてくれる彼(ひと)・・・ 。温かい・・・ 優しい波動が伝わってくる。
 「俺にも、わからないんだ。だから、答えを見つけるために 二人を好きになっちゃダメか?」
 「・・・」
 私だけを見てと言いたい・・・・ けど、できない・・・ わからない。
 でも・・・ こんな風にしてくれるなら、どうでもいいやって気になる。
 「 ・・・ダメか?」
 「 ・・・・・・ウウン。今だけは、許してあげる。」
 「すまんな。」
 「あやまらないで。後悔するから。」
 後悔するのは、私? 浩之? 後悔したくないよ。この一瞬は、本物だから。
 「・・・ 」
 「ふふっ、好きよ 浩之。」
 震えの治まった私は、浩之の身体を抱き締め返した。
 「浩之・・・ 私たちを抱いて!」
 「えっ?」
 「私たちを抱いてください。それが、あなたにしかできない 私たちのお願いです。」

浩之W
 俺は、いま綾香の部屋にいる。
 もちろん、彼女たちの願いを聞き入れることにしたから ここにいるのだ。
 「あんなので、本当に誤魔化せたのか?」
 「姉さんの術だから、大丈夫よ。」
 「たしか、式神だったな。」
 「うん。あれを見破れるのは、この城に何人もいないわ。」
 「そっか。」
 あの手の術を見るのは、初めてではない。故郷のあった倭の国にも、旅の途中の国にも 似たようなものがあった。だが、あれほど高度な術は 初めてだな。ほとんどは、獣や鳥の類の形をしていた。が、芹香さんが操る式神は 俺そっくりの影武者だった。人型を操ることは、獣型を操るのに比べ 複雑な表情や動きが要求されるのだ。
 「結界を張りました。これで、誰もこの部屋へ入ることはできません。」
 結界を張られたこの部屋は、俺たちだけの空間になった。どんなことが行われようが、外からは知ることができない空間だ。
 「もう、後戻りはできないぜ。」
 「うん。浩之に、私をもらったほしいから。」
 「私もです。」
 二人が、俺に身を寄せてくる。
 「ねえ、浩之は経験あるの?」
 「ん、まあな。仕事内容に、ご婦人の相手というのが 含まれていたこともあったからな。」
 「それだけ?」
 「 ・・・とに、女っていうのは 本当に知りたがりだな。初めては、幼なじみとだよ。お互い好きだったというか、興味本位ってやつからだな。でも・・・ 山津波で死んじまったよ。たぶん。」
 「ごめん。私たち初めてだから・・・ 不安だったの。でも、あなたがわかっているなら 任せられるわね。」
 綾香の緊張が、わずかばかり緩んだみたいだ。
 それにしても、俺の方が緊張してるんだぜ。ただでさえ、姉妹二人一緒に相手をしなければならないのに。
 「あのな・・・ 俺のしたいようにしたら、二人とも壊れちまうぜ。」
 「こ・・・ 壊れるって?」
 「痛さの余り、二度と抱かれたくなくなるとか 子供ができない身体になるとかだな。」
 「えっ、そんな・・・ 。」
 「ま、そんなことは万に一つかな。」
 「非道いです、浩之さん。」
 雰囲気が、ガラッと変わって 不安な面もちを濃くする二人。
 そんな二人を見て、やっぱり世間知らずのお姫様なんだって感じる。女性にとって、好きな人に抱かれるって意味を 本当に解っていない。
 「好きになった人に抱かれるってことは、身体だけじゃないんだ。心も抱かれるってことなんだ。」
 「心も?」
 「ああ。心も一緒に抱かなければ、それは快楽のみを求めるだけの行為でしかない。」
 「・・・」
 「そんな俺がいいのか?」
 「 ・・・ううん。でも、浩之がそれを望んでも 私は受け入れるわよ。あなたに心が無くても、私が心で包んであげる。」
 瞳を潤ませた綾香が、俺の服をギュッと握りしめた。
 「信じたのか? 俺が、そんなことをしないことくらい わかっていたはずだろ?」
 「わかっていたわよ。わかっていたから怖いのよ、バカ。」
 俺も、素直じゃねぇよな。
 俺は、クイッと綾香の顎に手をかけ 顔を持ち上げた。
 「あっ・・・ 。」
 驚いて、一言声を漏らした綾香の口を 口で塞ぐ。驚きで大きく開いていた目も、ゆっくりと閉じていく。綾香の口を吸うようにすると、綾香も返してくる。
 「んっ・・・ んんっ・・・ 。」
 舌を綾香の口の中へと突き出すと、綾香も歯を開けて舌を絡めてくる。この行為だけでも、ゾクゾクする。
 そんな時、俺の服をクイックイッと芹香さんが引っ張った。
 「あっ!」
 俺が、口を離すと 綾香は名残り惜しそうな声をあげた。
 俺は、惜しむ間もなく 顔をあげて待っている芹香さんに 口づけをした。
 綾香と顔立ちが似ているが、やっぱり感触が違う。綾香より、少しばかり柔らかいような気もする。
 「ん・・・ む・・・ 。」
 芹香さんにも、綾香にしたように口を吸うと 同じように返し、舌を差し出すと舌を出して来て 俺の舌と絡み合う。ただ、その動きはゆっくりとして 芹香さんが折りを確かめ 感じるような仕草に思える。
 見た目より芹香さんは、積極性があるんだろうか。
 ゾクゾクした刺激が、背筋を走るたび 芹香さんを抱き締めてしまいそうだ。
 「んっ・・・ んっ・・・ 。」
 芹香さんなりに、必死に俺を求めているようだ。その分、情熱が強く伝わってくる感じがする。それに、縋り付いてくるようにも思える。
 「浩之・・・ 私、どうしたらいいの?」
 俺の耳元で、懇願するように綾香が呟く。
 二人とも、できあがっているけど どうしていいかまったくわからないようだ。そこら辺の知識が、本当にないようだな。この分じゃ、恋愛もまったくしたことがないな。
 「ハア・・・ 。」
 俺が、ゆっくりと唇を離すと 芹香さんはゆっくりと息を吐いた。
 「二人とも、いままで恋をすることもなかったんだろ?」
 「はい、ありません。」
 「うん。きっと、浩之が初めて。」
 真っ赤になって答える二人。
 「自惚れかもしれないが、俺のために取っておいてくれたと思っておくぜ。」
 「自惚れじゃないわ。私は、そう思うよ。きっと、姉さんもね。」
 「はい。ですから、これから浩之さんが教えてください。」
 「ああ。」
 その瞬間、また見知らぬ女性の幻を見た。
 「?」
 だけど、その女性は とても優しい顔をしていた・・・ と思う。
 「どうしたの?」
 俺を、不思議そうな顔をして 綾香が見た。
 「二人が、無性にほしくなっただけだ。」
 俺は、幻の女性の微笑みが 残っていた迷いを消してくれたと思えた。
 「うん。」
 綾香も、芹香さんも、俺に微笑んだ。
 「男と女が愛し合うには、素っ裸になるんだ。」
 俺は、腰紐を解きにかかった。それを見た二人も、ためらうこともなく 腰紐を解きにかかった。
 身体を覆っていた物が、一枚また一枚と剥がされていくたびに 俺の目は二人のその美しい肢体に 目を奪われていった。
 そんな俺の目を気にしながらも、全てを脱ぎ終えた二人は 衣服を隅に片づけると 隠すことなく俺の前にその美しい白い裸体を見せた。
 二人の身体は、今まで見た女性の裸体の中でも 一番綺麗だと思った。二人は、甲乙付けがたい美しさを持っている。どちらかが、一番とは言えない。
 「ねえ、何かいって・・・ 。」
 綾香が、何も言わない俺に耐えられなかったようだ。
 「ん・・・ ああ、二人とも綺麗な身体をしているもんだから 言葉を失っちまったんだ。」
 「ありがと、とってもうれしいよ。
  ・・・その・・・ 浩之も・・・ かっこいいよ。初めて見たけど、男の人ってそんな風になってるんだね。」
 綾香は、物珍しそうに俺のモノを見つめていた。
 「私も、生モノは初めてです。」
 「ね・・・ 姉さん、生モノって・・・ 。」
 「方術で使う薬の中には、材料に動物の性器を乾燥させたものもあるのです。綾香だって、見たことあるはずですけど?」
 「え?」
 「黒い棒状のです。綾香が、変な形ねって いっていたのですよ。」
 「あ、あれがそうだったの?」
 「はい。」
 ある意味、微笑ましい光景だ。
 「とに、しょうがねえな。そらっ、ベットにいくぜ。」
 俺は、二人の肩を抱いて ベットへと導いた。
 「あっ。」×2
 触れた両手は、わずかに上昇している体温を 敏感に感じた。
 ギシッ
 二人は、ベットに上がると 股を擦り合わせるように閉じて ジッとしてしまった。表情は、困った顔をしていて どうしたらいいのかわからないといったように見える。
 「浩之・・・ 私の身体、変だよ。」
 「そんなことはないぜ。」
 「だって・・・ お・・・ おしっこの出る辺りが ヌルヌルしてきて・・・ どんどん溢れてくるの。」
 「私もです。」
 「? ・・・はあ・・・ 俺のモノの先を見てみろよ。」
 「えっ?」×2
 二人の視線が、ギンギンに立っている俺のモノの先端を刺した。雫となって滴り落ちていく先走り液が、先端の割れ目からにじみでているのだ。
 「男はな、興奮が高まると こうなるんだ。それが、女にもいえる。男のこれを受け止める為に、そうなるんだよ。」
 「そうなの?」
 「嘘を言って、どうなる。ま、これからじっくりと教えてやるぜ。」
 俺は、そう言うと 二人の間に割って入った。そして、両腕で二人に腕枕をした。柔らかな黒髪も、気持いい。
 「安心します。」
 そう言った芹香さんは、身体を少しだけ動かし 俺の胸に片手を載せた。
 「はあ・・・ 浩之さん・・・ 私・・・ 。」
 どんどん興奮度が増し、両足を擦り合わせて もじもじする芹香さん。
 「私だって、そうよ。」
 綾香も、芹香さんと合わせ鏡のように 同じ行動をする。
 「わかってるぜ。 ・・・ゆっくりでいいから、俺のモノを触ってみろよ。これから、二人の膣に入るものなんだからさ。」
 さっきから、小刻みに動いている俺のモノ。二人が、触れるのを待っているのだ。二人に触れるのを、望んでいるのだ。
 俺の胸に添えられた二人の手が、ゆっくりと下に降りていく。恐る恐るといった感じで、二人の手が・・・ 俺のモノに触れた。
 ビクンッ
 瞬間的に反応して、大きく動く。
 「きゃっ!」
 手を弾かれた綾香が、声を大きく上げた。
 芹香さんはというと、驚いて目をパチクリとしている。
 それにしても、これほど反応するとは・・・ 恐るべき俺の分身。
 なでなで・・・
 ちょっと体勢が苦しいけど、二人の頭を撫でてやる。それを、気持ちよさそうにする二人。それは、俺にかかる吐息で なんとなくわかる。
 そして、二人の手が また恐る恐る俺のモノに触れてきた。
 今度は、意識してモノの脈動を押さえる。
 二人の細い指が、俺のモノに絡まるように包んでいく。
 「 ・・・固いわ。姉さん、どお?」
 「こんなモノに触るのは、初めてです。不思議です。」
 液で、ヌルヌルになっているモノを 二人は弄びはじめる。
 「うっ、気持ちいいけど 止めるんだ。でちまうぜっ!」
 俺は、このまま果ててしまいそうだ。
 「でるって?」
 綾香は、動かすのだけを止めて 聞いてきた。
 「子種さ。」
 「ふぅ〜ん、そうなんだ。
  ・・・ねえ、先に姉さんにしてあげて。」
 「綾香・・・ いいのか?」
 「うん。姉さんだから・・・ 姉さんだから、我慢できるの。」
 声が、わずかに震えている。どんな気持ちで、綾香はいるのだろう。
 「綾香、私は・・・ 。」
 「姉さん・・・ これ以上、私に言わさない・・・ で。お願い。」
 綾香のいろいろな想いが、伝わって・・・ 切ない。
 「わかった。」
 俺は、一度だけギュッと綾香の頭を抱くと 頭の下から腕を抜き、俺のモノを絡めている二人の手を解き 芹香さんに覆い被さった。
 「浩之さん・・・ 。」
 芹香さんも、覚悟を決めたようで ジッとしている。
 俺は、芹香さんの秘所へと 手を運ぶ。
 「 ・・・あっ。」
 随分と濡れている。感じやすいのと、気持ちの高ぶりで ここまで濡れてしまったんだな。
 「あ・・・ ああっ。」
 指を這わす秘所は、熱を熱いくらいに帯び 開いている。上下に指を動かすたび、鳴く芹香さん。
 包皮から飛び出した肉豆。
 「芹香さんの肉豆、けっこうでかいな。」
 「ひゃうっ!」
 肉豆をちょっとばかし摘むと、芹香さんは悲鳴を上げた。
 「ひっ・・・ 浩之さん。。。」
 「さあ、足を開いて。」
 俺の言葉に、力無く足を開いていく。
 俺は、身体をずらし 挿入に適した位置を確保する。これから、繋がるんだ。だが、処女相手なんて 久しぶりだからな。
  ・・・綾香を見ると、俺たちに背を向けている。身体を丸め、我慢しているのか 小刻みに震えているようにみえる。
 ダメだ。。悩むと、萎えちまう。
 「いくぜ。」
 コクッ
 俺は、モノに手を添えると ぱっくりと口を開いている膣口に当てた。
 グクッ
 「 ・・・んっ・・・ 。」
 ズズズッ・・・ ピチッ・・・ ピチチッ
 「んあっ・・・ いっ・・・ くうっ!」
 ピチッ! ズブゥ〜〜〜
 「ん〜 〜 〜 〜 ・・・ 」
 処女膜が裂け、俺のモノを膣内へと受け入れてしまった 芹香さん。
 「入ったぜ。」
 痛さに、顔を歪めている。普通の人よりも表情に欠けるが、それでも痛々しさは 十分に伝わってくる。
 「はい。痛いですけど、入っているのを感じます。」
 「ああ。」
 ズブッ!
 「あはぁっ!」
 処女膜を通過したくらいで動きを止めていたのを、さらに奥へと進めると 芹香さんは声を上げた。
 き・・・ きつい。なんて締まりだ。まるで、幼子とやているみたいだ。あくまでも、想像だけど。
 ズズッ
 「浩・・・ 之・・・ さん。」
 息も絶え絶えで、俺の名を呼ぶ。
 「全部入ったぜ。」
 「本当・・・ ですか?」
 「ああ、本当だ。痛かっただろうけど、よく我慢したな。」
 「私、浩之さんと一つになっているのですね。」
 ホッとしている芹香さん。結合部では、きっと破瓜の血を流し 痛みで疼いているのだろうに、涙一つみせない。だが、我慢しているのは 一目見てわかる。
 「このようなことをするなんて、知りませんでした。身を裂かれるような痛みがあったのに、とても幸せなのです。」
 そう言った芹香さんは、俺を強く抱き締めた。
 「これで、終わりじゃないぜ。」
 「はい。浩之さんの好きにしてください。私は、大丈夫ですから。」
 ズププッ
 「うっ・・・ 。」
 奥まで入ったモノを引きにかかると、芹香さんは声を再びあげた。傷口を擦られたのだから、当たり前か。
 「いた・・・ い。浩之さん、痛いです。」
 ズクッ
 「あうっ・・・ ああっ・・・ 」
 痛みに顔をしかめながらも、微笑んでいる芹香さん。
 ズププッ・・・ ズッ・・・
 ズニュゥ〜・・・・・・ ズズッ・・・・・・
 「あっああああ・・・・・・ ふわぁあああああぁぁぁぁ・・・・・・ 」
 腰の回転をあげると、もう声を抑えることもなくなった。
 隣で身を堅くしている綾香は、両手で耳を塞いでいる。けど、それも無駄だろう。声という振動は、否応なく身体に染みわたっていく。
 ズチャッ ズチュッ ズチャッ ズチュッ
 水っぽい音が、結合部からするようになると 芹香さんの反応も違ってきた。
 「へ・・・ 変です。痛いのに・・・ もっとしてほしいのです。あっああああっ!」
 「それは、きっと気持いいってことだ。」
 「き・・・ 気持いい? あんっ、ああ・・・ 気持ちいいです。」
 腰を動かす俺に、わずかながら 自分から腰を動かすようになった。
 「もっ、もうすぐだ。もうすぐ・・・ イクぜ。」
 「は、はい。」
 俺は、芹香さんが快感を得始めているのをいいことに 腰の動きを速めた。
 「あうっ、うあああ・・・ 。」
 「くっ・・・ 。」
 もう限界だった。二人の手による刺激から、ずっとモノの感度はあがりっぱなしだったからな。
 「うくっ!」
 腰を激しく打ち付け、俺のモノを入るだけ 奥に導く。俺のモノは、芹香さんの子宮口を突き上げ 子宮内へと入ろうとする。刹那、俺の精液は 熱い激流となって モノの中を突き抜ける。そして、子宮口を突き抜けた俺のモノの先から 子宮壁へと直接精液を叩き付けた。
 「うああああぁぁぁぁっ!!! あ、熱いぃ〜〜〜っ!」
 初めて男の精を受けた芹香さんは、悲鳴をあげた。
 ビクンッ ビクンッと俺のモノは脈動を続け、次々と精液を流し込む。
 芹香さんは、ハアハアと息を乱しながらも 全てを受け取る為に 両腕を俺の身体に回し、両足をも俺に絡めて 身体全体で抱き締めてくる。
 そして、とうとう受けきれずに わずかな隙間から外に流れ出し、芹香さんの尻の穴を 尻を伝い垂れ落ちていく。

 綾香X
 横で、浩之が 姉さんを抱いている。私が、認めた事。私が、認めたはずの事。
 姉さんの声が、聞こえる。いつも、小さな声しかださない姉さんが あんなに大きな声をあげている。
 浩之と繋がっているからなの?
 聞きたくない。
 胸が苦しいから・・・ 
 胸が痛いから・・・ 
 耳を塞いでも、伝わってくる。
 声の振動が、身体に伝わってくる。
 ”やめてっ!”
 そう、大声で叫びたい。
 二人に飛びかかって、引き剥がしたい。
 普段の私だったら、悩む前に行動していただろう。
 なのに、できない。
 姉妹だからって、そんな簡単じゃない。
 わからないから苦しい。
 私は、耐えるしかないの?
 この身を焦がされるような想いに耐え、苦しむしかないの?
 早く私を自由にして!
 早く私を抱き締めて!
 早く私を・・・ あなたのものにして・・・ 。
 「綾香。」
 温かい手が、震える私に触れた。
 「浩之?」
 「ああ。」
 もう、耳を塞がなくてもいいのね。それとも・・・
 「すまんな、辛かっただろ?」
 ああ、終わったんだ。気持ちは楽になったけど、それだけじゃない感じ。
 「ううん。私が、選んだことよ。。。」
 「やせ我慢は、よせ。あんなにも、震えていたじゃないか。俺には、綾香の気持ちはわからないが お前の痛々しい姿になにも感じないほど 卑怯じゃないぜ。」
 私を見ていてくれたことが、嬉しい。私に、優しくしてくれたことが嬉しい。
 「うん、辛かった。だから、お願い・・・ 抱き締めて。」
 私は、浩之の方を向くと 両腕を広げていた。今、私がもっとも好きな人に 抱き締めてもらいたいから。私が、もっとも好きな人を 抱き締めたいから。
 私に応えるように、浩之が近づいてくる。
 私は、彼に微笑みかけた。
 笑えた。
 でも、涙が零れた。
 「んっ・・・ 。」
 浩之は、私を抱き締めると同時に 口を塞いだ。それは、自然な行為。私には、嬉しいこと。
 だって、声を上げて泣き出しそうだったもの。
 浩之の温かい温もりが、伝わってくる。
 さっきよりも、ずっと強く。
 心が、癒されていく。
 私は、今本当に幸せなんだ。それが、本当にわかる。
 さっきまでの孤独な闇が、嘘みたい。不安だった心が、無かったみたいに。
 好きなことに抱き締められ、私を包んでくれているからかな。
 私が、女だって 初めて実感できた気がする。女でよかったと。
 「 ・・・ふぅ・・・ 。」
 ゆっくりと離れた唇は、始まりの合図。鼓動が速まる。
 「綾香・・・ 。」
 「・・・」
 私は、浩之を見つめた。その視線を、浩之の顔から下に移すと 男性器を見据えた。
 姉さんと繋がっていたモノ。私と繋がるためのモノ。
 変テコな形をしているけど・・・
 チュプッ
 「なっ!」
 私が、前屈みになって浩之のモノをくわえると 浩之は声を上げた。びっくりさせたのかな?
 くわえたモノは、ちょっと苦いけど 我慢できないほどじゃない。
 チュプッ チュプッ
 私が舐るたび、ビクビクとする。面白い。
 「綾香、無理しなくていい。」
 私は、無理なんてしてない。ただ、こうしたかっただけ。
 「んっ・・・ んんっ・・・ 。」
 口の中で、大きく固くなっていく。
 「んっ!」
 チュポッ
 浩之が、無理矢理 私を引き剥がした。
 「気持ちよくなかったの? 私じゃ、ダメなの?」
 「馬鹿なこというんじゃねぇ。」
 「だったら・・・ 。」
 「俺ばかり、気持ちよくなっても仕方ないんだ。」
 「あっ。」
 私は、浩之に仰向けに押し倒されてしまった。
 「あっああっ。」
 すかさず、浩之の手が 私の胸を弄び始める。痛いほど固くなった乳首を、摘まれる。クリクリと、こねくり回す。
 「あっ、そんなぁっ!」
 浩之が、乳房にむしゃぶりついた。
 「あんっ・・・ ああ・・・ 浩之。」
 気持いい。吸われて、舐められて、そんなことが気持いいなんて 知らなかった。
 浩之の口の中が、温かい。浩之の手が、熱い。
 私は、また この温かさを感じることができたんだ。 ・・・また?
 「んああっ!」
 私には、ちょっとした疑問が浮かんだ時 強く吸われてしまった。
 「やさ・・・ しくしてよ。」
 「ああ、悪ぃ。他のことを考えてそうだったんでな。」
 「んもう、意地悪。」
 「知らなかっただろ。」
 「バカ。」
 私は、何を考えたんだろう。今が大事なのに。
 「ね、もっと気持ちよくして。」
 もっと、私に触れてほしい。もっと、浩之を身体中で感じたい。
 「あ・・・ ああ・・・ 。」
 ゆっくりと浩之の手が、私のあそこに触ってくる。最初は、あそこの毛をサワサワと撫でるように。くすぐったいけど、あそこにジンとくるものがある。
 そして、指が私の割れ目に達した。
 「ん・・・ くふぅ・・・ んああっ。」
 自分でも、洗う以外触れることはないところに触られ 私の身体はビクンッと反応する。指先の動きが、伝わってくる。ムズムズするけど、気持いい。
 「あ?」
 汗じゃないなにかが、垂れていく。
 「どうした?」
 私の声色の違いを、浩之は気づいた。恥ずかしいじゃないの。
 「ん・・・ と・・・ 気持ちよくて、ちょっと・・・ 漏らしたかなって。」
 あ、そんなこと言わなくてもいいのに 恥ずかしい。。。
 クチュッ
 「えっ!?」
 浩之が、一気に股の奥へと手を差し込んできた。
 「あっ・・・ ちょ・・・ と、汚い・・・ よぉ。」
 浩之の指が、私のあそこをヌルヌルと上下に動く。
 「いや・・・ ゾクゾクする。漏れちゃうよぉ〜。」
 スッ
 あ、もっとしてほしいのに 浩之の手が離れちゃった。私が、嫌がったからかな。
 「ほら、見てみろよ綾香。こんなにも濡れてるぜ。」
 「えっ、なにそれ?」
 浩之の指に、粘りけのあるものがベッタリと付いている。
 「わからないか? 綾香のいやらしい液だ。」
 「そんな・・・ 。」
 「最初に説明しただろうが。俺のモノを受け入れる為に濡れるって。忘れたのか?」
 「あっ、そう言えば そんなことも言ったわね。」
 「だろ。そらっ、もっと気持ちよくしてやるから 足を開けよ。」
 「 ・・・うん・・・ 。」
 私は、浩之の言葉に逆らえないのかな。勝手に、足が開いていくよ。そりゃ、気持ちよくはなりたいけど 死ぬほど恥ずかしいんだよ。
 でも・・・ 姉さんにもできたことなんだよね。
 「ひゃっ!」
 浩之の手が、私のあそこを包むように 触れてきた。
 「少しでも解しておかないと、辛いぜ。」
 「びっくりしただけよ。嫌じゃないの。」
 浩之が、次になにをしてくれるのか 期待している。でも、それは口では言えないよ。
 「そっか。」
 浩之の手が、あそこ全体を揉むように 不規則に動く。揉むように、擦るようにされるのが もどかしいような気がする。
 「んっ・・・ ああ・・・ 浩之・・・ 。」
 浩之の手の動きから、私のあそこがベチョベチョになっているようすが わかる。あそこを滑るように指が擦るたび、私は気持ちよくなる。そして、更に濡れるのね。
 ツプッ
 「ああああああっ。」
 割れ目を擦っていた指が、私の中に入ってきた。
 「な・・・ なにしたの・・・ 浩之?」
 「なにしたって・・・ 知らないのか?」
 チュプ チュプ
 「あっあっあっ、 ・・・知らないわよ。」
 指が入ってるとこって、あそこだよ・・・ ね。私には、月に一度 血が出てくる穴という程度の感覚しかない。そこに、指を入れられている。
 「まだ、指先しか入ってないぜ。」
 「そ・・・ なの? ・・・はあ・・・ はあ・・・ ああっ。」
 私には、浩之の太い指が たくさん入っているような気がするのに。
 「ここに、俺のが入るんだぜ。」
 そうなの? そうなんだ。私って・・・ 何も知らないんだ。
 「 ・・・うん。」
 なんか、意地を張るのも馬鹿らしい。
 「もっと、いろいろなこと・・・ 教え・・・ て。」
 「ああ。」
 そう言うと、浩之は止めていた指を抜き 移動し始める。
 「はあ・・・ 。」
 「待ってろって。」
 「え?」
 私は、溜息を吐いたのかな?
 そんなつもりは、なかったと思う。
 でも、そうだったかもしれない。
 「もっと、刺激が強いかもしれないぜ。」
 浩之は、私の足の間に入って グイッと脚を広げた。
 「ええっ?」
 私は、反射的に脚を閉じようとした。
 「閉じるんじゃないっ!」
 浩之は、脚の間に身体を入れて 閉じさせない。
 「恥ずかしいよ。」
 「俺のモノを銜えたくせに。」
 「うっ・・・ わかったわよ。」
 私が力を抜くと、足を広げられてしまった。私のあそこが、浩之の目に曝されている。自分でも見たことのない場所を、見られている。
 ダメ・・・ 見られていると思うと、さらに濡れてきちゃう感じ。
 「変・・・ じゃない? 私のそこ。」
 「綺麗なもんだ。」
 「本当?」
 「ああ。だけどな・・・ 」
 「だけど?」
 ああ、やっぱり変なんだ。きっと、汚いんだ。
 「ちょっとばかり、豆がでかいな。芹香さんそっくりだぜ。」
 クリッ
 「ひゃっ、ひゃあああああああぁぁぁぁ・・・ 」
 浩之になにかを摘まれて、身体中をビリビリとしたものが走り回る。
 「あっ・・・ あっ・・・ あっ・・・ 」
 頭の中が、真っ白な感じ。今まで、一番ジンジンきてる。身体中の筋肉が、ピクピクいって言うことを聞かないよ。
 「処女には、きつかったな。」
 私には、もう何も浩之にあがらうことはできない。だって、身体が言うことをきかないもの。それに、浩之が何を求めてきても 拒まないよ。
 クニッ
 ペチャッ
 「あっ・・・ 。」
 あそこを左右に開かれ、恥ずかしいところを広げられた。どんな感じなのかな。。。それに、舐められた。私の神経の全てが、そこに集まってしまったみたい。浩之の細かい動きの一つ一つを、感じてしまう。
 「んんっ・・・ ああっ・・・ ん・・・ 。」
 ペチャペチャと、浩之が 私のあそこを舐めている。
 「はあ・・・ いい・・・ 気持ち・・・ いいよ、浩之。」
 「・・・」
 「はあぁ・・・ あああ・・・ んんっ・・・ 。」
 浩之の舌が、あそこから溢れる液を ぬぐい取るように動く。その心地よい行為に、酔いしれている。
 「んんん・・・ いい・・・ いいよぉ・・・ はあああぁぁぁ〜・・・ 。」
 快感が、私を支配していく。どんどん上がっていく感じ。
 「はぁぁぁ・・・ 浩之・・・ 浩之ぃぃぃ・・・ 私・・・ 私ぃ〜。」
 何かがこみ上がって、飲み込まれていく・・・ と、思った瞬間 浩之は舐めるのを 指で弄るのを止めてしまった。
 なぜなの?
 もっと、私を気持ちよくさせてよ。もっと、続けてよ。
 「浩之?」
 私は、浩之が弄ってくれるのを 心待ちにしている。
 「準備は、できたみたいだな。」
 浩之は、私を見てそう言った。
 「綾香のここが、ヒクヒクして 早くしてほしいっていってるぜ。」
 そうなの。早く弄ってほしい。
 「うん。」
 そう答えるのが、精一杯。
 「それじゃ、覚悟しろよ。」
 その言葉の意味は、この一瞬ではわからなかった。
 浩之が、体を起こし 私の両脚に手を架けてさらに広げた。浩之に向かって、あそことお尻を突き出すようなかっこうをしていると思う。
 浩之は、膝立ちになって 私を押さえ込むように倒れてきた。
 「あっ?」
 私のあそこに、何かが触れてきた。私の割れ目に・・・ 穴に・・・ 触れ・・・ 入ってくる。
 ズッ
 「うああっ!」
 さっきの心地よい感じとは裏腹に、激痛が走る。
 ズズッ
 「いた・・・ い。痛いぃぃぃ〜〜〜・・・ 」
 私の股間の奥で、何かが音を立てて弾けた。
 「うあああああっ!」
 私は、悲鳴をあげた。それでも、浩之は止めようとせず 前に奥へ進んでくる。
 脈打つ痛みが、あそこから広がる。いったい、何をしたの? いったい、何が起こったの?
 ズッ・・・・・・
 浩之が密着して、やっと止まった。私の中にある、この’異物感’は何?
 「はあ、はあ・・・ ん。」
 痛さに喘いでいる私に、浩之は口づけをくれた。
 「んっ・・・ んっ・・・ 。」
 私は、救いを求めるように 浩之の口に吸い付く。
 身を裂かれるような痛みは、少しだけ和らいだだけ。
 「んんっ・・・ んっ・・・ んんんっ・・・ はあっ。」
 浩之は、私の口から 唇を引き離してしまった。まだ、物足りない。離れてしまった唇が、寂しい。
 「俺のモノが、全て入ったぜ 綾香。すごく痛がったが 大丈夫か?」
 浩之の言葉で、やっと私を貫いているモノの正体がわかった。
 「だいじょう・・・ ぶ、なわけないよ。すっごく痛い。でも・・・ 浩之の全てを感じる。」
 「俺も、綾香の全てを感じるぜ。」
 「私たち、やっと一つになったんだね。」
 「そうだぜ。」
 浩之は、私の手を取った。
 「触ってみろよ。」
 浩之に引かれるまま、私は繋がっている部分に 手を延ばした。手探りで、そこを目指す。
 「あっんっ。」
 浩之が、私の手が探しやすいように 身体をわずかにずらす。その動きが、痛さをぶり返す。
 私と浩之の身体の隙間から、手を差し込み 私のあそこを探る。私に射し込まれた浩之のモノ。私は、それを受け止めている。
 「 ・・・本当に入ってる。」
 あらためて、嬉しさがこみ上がってくる。
 「これで、私はあなたのものになったのかな?」
 私は、嬉しくって 微笑んでいると思う。
 「そうだな。」
 チュッ
 浩之は、優しい ちょっとだけ触れる口づけをくれた。
 「お願い・・・ 続きをして。」
 「ああ。」
 私は、さっきより強い痛みが襲おうと 我慢できる覚悟はできた。浩之と一つになって、浩之に愛してもらって・・・ それだけで十分だから。
 ズルッ
 「あうっ・・・ ん・・・ ん。」
 鋭い痛みが、走る。思わず、唇を噛んで 声を抑える。
 ズルゥ〜
 浩之のモノが、抜かれていく。痛いけど、思ったほどじゃない。
 ズズッ
 ズルゥ〜
 引き抜かれては、押し込まれる。痛いけど、ゾクゾクしてものが混じる。
 「んふっ・・・ んっんっ。」
 私の膣を、浩之のモノが擦るたび 甘い感覚がこみ上げる。私の知らなかった世界が、開かれていく。
 ぢゅぷぷぷ・・・
 ずるるぅぅぅ・・・
 「んああっ・・・ んんっ・・・ 」
 私は、夢の中にいるのかな・・・
 チュプッ チュプッ ・・・
 私の中で、何かが変わる・・・
 チュプッ チュプッ チュプッ
 「あっ、ああっ・・・ あああ・・・ 。」
 もう、痛みより 気持いい。私の膣を暴れ回る、浩之。
 ズニュッ ズニュッ ズニュッ ズニュッ
 浩之のモノの動きが、速くなった。私の膣から、いやらしい液がたくさんでているんだ。だって、あんなにも水っぽい音がするもの。
 「綾香・・・ 。」
 「浩之・・・ 。」
 「限界だ。」
 「 ・・・うん。」
 私は、浩之をギュッと抱き締めた。逃げないように。。。
 「くっ・・・ !」
 浩之が呻いた時、一番奥までさし込まれた。
 「あああああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜 」
 私の奥で、熱いものが注がれ満たされていくのを感じるのが 不思議。もう一つ、おへその下辺りが 温かい。心臓ができたみたいに、ドクドクいってる。
 「浩之・・・ 愛してる。」
 自然とでた言葉だった。

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