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 海賊の船長であろう男の問いに君は無言で返した。何故ならここで自分の身を有利に
するような返答を返せなかったせいだ。仮にこの世界で過ごした数十日の知識を全てか
き集めた程度のものでは、冷酷な海賊相手に何の影響も与えないだろうし、この短い期
間で君自身にさえ謎だらけの事実に到ってはどのように伝えればいいのかすらわからな
いからだ。ただひとつわかっていることは、君が囚われた娘を救いに来たということだけ
だった。
「答えられぬというならばこの船の者ではないな。お前が忍び込んだ目的は?」
 君が娘を救いに来たという事実を告げると、船長は口の端を笑みで歪ませた。
「あの娘が海賊に囚われているのだと思ったか。ならばお前の行動は無駄に終わるかも
しれんな。なんといってもあれは人に忌み嫌われ続けた一族の娘。だが少なくともここに
いれば、素性など気にする者はいないのだからな」
 船長の言葉は真実味を帯びていたが、君自身が娘の口から事情を聞かない限り、まし
てや海賊の言い分を信用するわけにはいかない。君は返事を承知のうえで娘の解放を
船長に頼んだ。
「あの娘はこれから我らのために役立ってもらうつもりだ。例え金塊を積まれようと手放
すわけにはいかんな」
 つまりは力尽くで奪うしかないということだろう。だが船長の持つ武器だと思われる物が
ピタリと君の額に向けられていて精神力を奪われていくのに加え、船長自体も長く分厚い
外套と革製らしい短衣を見に着けていることから相応の防御力があるに違いなく、外套
に半分隠れてはいるが腰に佩いた長曲剣の柄も見えていた。その威圧感だけでも遺跡
で倒した2人の手慣れを上回っていることから、ルルに教えられるまでもなくまともに挑ん
ではならない相手だと君は理解した。それでも戦うのならば一体どう立ち向かうべきだろ
う。

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