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 君が身体の異常を伝えると、スヴァルニーダはまず患部に近い箇所に右手を、自らの
胸に左手を触れ、深呼吸をして集中すると指先で見えない文字か記号のようなものを描
き始めた。間もなく彼女の手が触れている部分が温かく感じられるようになり、熱いと感
じた直後から急速に冷えていった。その瞬間君はスヴァルニーダに伝えた問題が消滅し
ているのに気づいたが、手を離した彼女の口から小さな呻き声が洩れたのも聞いた。
「……これは他人の異常を術者が代わりに負うことができるもの。こうしてしまえば私の
身体で自然に治るから気にする必要はないわ」
 スヴァルニーダの呪術により、君の負傷(最大HPの半分までのダメージ))、毒、病気
あるいはそれ以外の状態異常のうち、最も重症なもの1つが彼女の身体に転移される。
『このような形で自身を犠牲とする術なんて、私の知る魔法には存在しません。ですが彼
女のように血統による資質があるわけでもなければ、非常に制御が困難な術であること
は推測できます』
 教えられるまでもなく、確かにそれは「呪い」という形で民間における娯楽の一端を受け
持ち、広く行使されているようなものとは根本的に異なった、軽々しく世に出るべきではな
い力だということを君は知った。そして少なからず、初めて会った人間にこのような術を使っ
た術者への困惑を隠し切れない君を一瞥し、スヴァルニーダは告げた。
「呪術という呼び名自体、それに、今のような事ができるなんてことも知っている人間は、
ほとんどいないはず。……ただの「呪い師」として生きるなら、そこが海賊のもとでも変わ
らないわ」
 術の行使自体による負担か、君から転移させた症状の影響か、スヴァルニーダは額や
頬に汗でへばりついた髪を払ってまた檻の奥に戻ろうとしたが、わずかに垣間見えた胸
元に奇妙なアザのようなものが浮かび上がっているのを君は見た。
 スヴァルニーダの背に向かって思い出したように礼を言いながら君は思う。あまりにも
異質な能力を目にして自分が感じたことこそがもしかしたら「呪術」の本質なのではない
だろうか。
 改めて行動を選びなおすこと。(502へ