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【 時間点+5 】
 甲板を見ながら小船を海に降ろす手順だけを説明すると、料理人はすぐに食堂へと戻っ
ていった。君は付近に海賊の姿が無いことを確認してから作業を始めたが、思っていたよ
りも海賊の気配がない。それが君によって減らされた海賊の現状をも表していた。君は侵
入時に目にした工程を逆に辿る形で小船の固定を解き、そこに乗り込んだ。
 両手に櫂を握り、一気に海賊船から離れようとした君は少しだけ躊躇い、その目を海賊
船のどこかにいるのだろう娘へと向けた。本当にこのまま戻ってしまっていいものか。もし
自分がこの世界における拠り所を得ていれば、と後ろ髪を引かれなくもなかった。それで
もやはり流浪の身であることを考えればこうする以外にないのだろうと自らを納得させ、小
船を漕ぎ出した。この場所からは古代遺跡へ戻るよりも直接イスターヴェの西にある海岸
へ向かう方が早い。
『それほどの距離ではないですが追われたら厄介ですし、警戒はしておくべきですね』
 海賊船を少し離れたところでルルが言う。
 君は残った気力を海賊に対する警戒に費やし、何事も無く町に到着できることを祈った。
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