335 町に戻った君は、ひとまず目的を果たしたという達成感を胸に、依頼主であるアデルの もとに向かった。 君を出迎えたのは青年とその婚約者の娘の2人。彼らは君の無事を喜ぶとともに、それ が彼らの欲していた薬を生み出すものであるかは定かではないものの、目的の種子が入 手できた事に感激しながら君を夕食に招き、結婚を控え倹約を旨としていた恋人同士とし ては明らかに豪勢と言える料理を振舞っては口々に感謝の言葉を口にするのだった。 君が研究結果の出る時期を訊ねると、それは花を咲かせてみるまでわからないという話 で、アデルは念のため全ての生育段階におけるサンプルを取り、最も効能の高い薬を調 薬するつもりだと告げた。 『どんな植物なのかもわかりませんから、育成には充分な注意を払うようにと、彼に』 ルルからの注意を代弁すると、仮にも古代遺跡で研究されていた素材が入手できたとい う成果があれば、国の公な施設を用いることができるだろうということだった。そのために も翌朝にはイスターヴェを発ち、国の首都へ向かうつもりだという。 その後、希少な種子の存在をもって古代遺跡の発見を証明し、国の調査が始まった後 に発見者へ送られる褒賞金がそのまま君への謝礼になる約束だ。 しかし今、君はその謝礼を貰うべきではないような気がしていた。おそらく君が遺跡内で 得た幾つかの物品はそれなりの金額で売ることができるはずだ。これはルルの予想だが、 もしかするとその金額は褒賞の額を優に上回るかもしれない。偶然であろうと研究の成果 だろうと、幸運にも古代遺跡を発見したというだけのことが、稀少且つ実用性のある古代 遺物の価値を越えることはないだろうと思える。 『これから最もお金が必要なのは彼らだと思いますよ?』 ルルにとって人間の結婚というものがどのように思われているのかはわからない。それ でも結婚に伴う出費が日常生活とはかけ離れたものだということは知っているのだろう。 君は褒賞金をアデル達のために活かしてもらうことにした。 首都から国の調査団とともにイスターヴェへと戻り、褒賞を受け取ったところで君に連絡 するとアデルは言ったが、その時君がイスターヴェにいなければそう知れるはずだ。 それを告げる代わりに、もし記憶を蘇らせるような薬ができれば何を置いても駆けつけ ると君が冗談を口にすれば、アデルも頑張ってみると応じた。 アデルの恋人の作った素朴だが美味しい食事を終えた君は、ほろ酔いの満足した気分 で宿屋に帰った。(507へ) |