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「そう……その男は海賊だけれど、私にとってはただの芸術家だった。戦うことも得意で
はないと言っていたし、運はよかったのね」
 その口調からわずかに安堵の気持ちが聞きとれる。彼女にとっては決して悪い監守で
はなかったということらしい。
「ここにある彫り物には全て私の姿が刻まれているわ」
 そう言いながら寝台の周りに置かれた板をぐるりと見回したスヴァルニーダは、おもむ
ろに1枚の板を手に取ると「これがいい」と呟き、胸に巻きつけた布の間に押し込んだ。
 それから君は海賊の懐から見つけ出した鍵で檻の錠前を開けた。スヴァルニーダは檻
から出ると倒れている海賊の方にに目を向け、祈るように顔の前で手をかざして何かを
囁いた。
 そういえば君がここに降りてきてからどのくらい経ったのだろう。スヴァルニーダの説得
に予想外の時間をかけてしまったのは確かで、侵入が察知されていないか不安が過ぎる。
 脱出経路を脳裏に描いていると、スヴァルニーダが君を見ていた。
「……ではファイロン様。ここより先はあなたが頼りです」
 君はスヴァルニーダの差し出す手を握ると、船倉中央の階段へと向かった。(501へ)