474 【 時間点+1 】 スヴァルニーダと見つめ合い、その瞳がわずかに輝きを増したと感じた瞬間、君は違 和感の正体に気づいた。それは正面の薄闇に立つ娘から発せられる冷めた意識の波動。 もしやこの波動が「呪術」によるものなのだろうか。思わず君が身を引いたのと同時に彼 女は再び目を伏せ、長く息を吐いた。 『何か……されましたか?』 ルルには何も感じられなかったのだとしても、互いの様子から見て取れたのだろう。そ うでなくともルルとの精神的な繋がりを考えれば君の変調は即座に察せられるはずだが。 一息ついてスヴァルニーダは再び顔を上げたが、その時はもう先ほどの違和感は消え ていた。 「ごめんなさい。呪術に興味があるようだから、どんなものかわかってもらおうと……でも 残念ながら、あなたの心を知ることには失敗しました」 そう淡々と告げる娘から特定の感情は読み取れないが、他人の心を読むような術を用い たという意味だろうか。 『やはり信用してはもらえないのでしょうか……』 例えそうだとしても、彼女をここに囚われたままにしておいて海賊達に利用させるわけ にはいかない。またここまできておいて見捨てていく事などできないとも思う。彼女がその 気になるのならば幾度術をかけられようと構わないと心を決めた君は、そのまま目を逸ら さず目を合わせ続けた。そうしていると彼女は君の目の前まで歩き、檻を囲む鉄棒の間か ら静かに右手を差し出した。 「わかりました。ここより私が平穏に暮らせる場所があるというのなら、あなたに着いていっ ても構わない」 君は一瞬ここが海賊船の最下層であることを忘れかけた。ロウソクの明かりに全身が 初めて照らされる位置に進み出たスヴァルニーダの髪は、汚れているのが嘘のように白 く輝いて白磁器の肌に絡み、ただでさえ際立つ紅い瞳と唇が印象的な容貌も相まって、 人の心とは無縁な冷たき女神との契約であるかのように錯覚させた。 しかしそんな君の意識を取り戻させたのは人間の娘であるスヴェルニーダの言葉だった。 「……でもまずはここから無事に連れ出してもらえますか?」 この出会いが吉となるか凶となるかは君にもまだわからない。だが今はひとまずこの稀 なる出会いの成功によって「強運」に2点を加えること。これは上限値を越えても構わない。 (509へ) |