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【 時間点+2 】
 船体から突き出している大型の櫂はまだ動き始めていない。小船は君を掴まらせたま
まその側を過ぎ、船尾に設けられた乗降用の梯子の下に寄っていくと、梯子で待機して
いた海賊から投げ渡されたロープで繋がれた。
「1人か……とにかくお頭が報告を待っている。急げ」
 梯子の男が告げ、船を漕いできた海賊は仲間に手を借りつつも慣れた様子で梯子に
取り付き、甲板へ登っていった。もう一人は沈鬱な表情を隠さず船の固定作業を開始し
ようとする。甲板の端から垂らされた数本の鉤爪付きロープは、小船を甲板に近い高さ
にまで持ち上げて固定するために使うようだ。君はその作業の間ずっと船の縁からぶら
下がっているわけにもいかない。
『しばらく海の中に潜っていてはどうですか?』
 そういえばルルに「水中に落ちても死ぬことはない」と言われた覚えがある。君はその
言葉を信じていたが、問題は背負い袋の中身の方にあった。しっかり封がされていれば
なんとかなるだろうが、肝心の種子をどういう形で持ってきていただろうか。例え間違っ
た対処をしていても今は何かをしている暇などない。仕方なく君は海面から離れつつあ
る小船から手を離した。頭が海中に没する際、不思議な感覚が全身を走り抜ける。
『息をしても大丈夫ですよ』
 立ち泳ぎをしながら恐る恐る息を吐き、口元から水泡が吐き出されるのを見ながら覚
悟を決めた君は少し息を吸ってみた。すると驚くべきことに水を飲み込む感覚の代わり
に冷たい空気が鼻腔に吸い込まれていった。
『動作は地上のままというわけにいきませんが、呼吸の方はしばらく問題ありません。今
のうちに移動しましょう』
 ルルに促されて君はひとまず海賊船の船腹に張り付いた。しばらくこの場所から甲板
に上がることは出来そうもないが、船が動き出すまでにはどうにかしなければ。君にここ
まで仲間を減らされた今、この瞬間に別の海へ向かってしまってもおかしくはない。
 君は船底を回って船の反対側に向かった。そこにも乗降用の梯子が設けられ、周囲に
海賊の気配はない。慎重に甲板へと上がった君は、本来の入り口ではないだろう小さな
戸口を見つけ、身を屈めてら船内に入り込んだ。
 なお、密封されないまま海水に浸された食品や、遺跡内で入手した動植物の類は全て
この時点で本来の価値を失っている。それでも所持し続けるかどうかは君の自由だ。
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