449 【 時間点+2 】 船体から突き出している大型の櫂はまだ動き始めていない。小船は君を掴まらせたま まその側を過ぎ、船尾に設けられた乗降用の梯子の下に寄っていくと、梯子で待機して いた海賊から投げ渡されたロープで繋がれた。 「1人か……とにかくお頭が報告を待っている。急げ」 梯子の男が告げ、船を漕いできた海賊は仲間に手を借りつつも慣れた様子で梯子に 取り付き、甲板へ登っていった。もう一人は沈鬱な表情を隠さず船の固定作業を開始し ようとする。甲板の端から垂らされた数本の鉤爪付きロープは、小船を甲板に近い高さ にまで持ち上げて固定するために使うようだ。君はその作業の間ずっと船の縁からぶら 下がっているわけにもいかない。 『しばらく海の中に潜っていてはどうですか?』 そういえばルルに「水中に落ちても死ぬことはない」と言われた覚えがある。君はその 言葉を信じていたが、問題は背負い袋の中身の方にあった。しっかり封がされていれば なんとかなるだろうが、肝心の種子をどういう形で持ってきていただろうか。例え間違っ た対処をしていても今は何かをしている暇などない。仕方なく君は海面から離れつつあ る小船から手を離した。頭が海中に没する際、不思議な感覚が全身を走り抜ける。 『息をしても大丈夫ですよ』 立ち泳ぎをしながら恐る恐る息を吐き、口元から水泡が吐き出されるのを見ながら覚 悟を決めた君は少し息を吸ってみた。すると驚くべきことに水を飲み込む感覚の代わり に冷たい空気が鼻腔に吸い込まれていった。 『動作は地上のままというわけにいきませんが、呼吸の方はしばらく問題ありません。今 のうちに移動しましょう』 ルルに促されて君はひとまず海賊船の船腹に張り付いた。しばらくこの場所から甲板 に上がることは出来そうもないが、船が動き出すまでにはどうにかしなければ。君にここ まで仲間を減らされた今、この瞬間に別の海へ向かってしまってもおかしくはない。 君は船底を回って船の反対側に向かった。そこにも乗降用の梯子が設けられ、周囲に 海賊の気配はない。慎重に甲板へと上がった君は、本来の入り口ではないだろう小さな 戸口を見つけ、身を屈めてら船内に入り込んだ。 なお、密封されないまま海水に浸された食品や、遺跡内で入手した動植物の類は全て この時点で本来の価値を失っている。それでも所持し続けるかどうかは君の自由だ。 (457へ) |