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 扉に耳を近づけることで聞こえてきたのは、複数の足音に混じる粗野な男達の話し声
だった。その大半は仲間が何者かに殺されたことに対する怒りと嘆きに満ち、船長と呼
ばれている海賊の首領によって敵討ちを命じられるよう願っていた。
 君はその気配が遠ざかっていった後、ゆっくり扉を開けて通路に人気が無いことを確
認し、海賊の一団が去る後ろ姿を目で追った。
 君が重要区画の鍵を持っている以上、彼らは荷物が山と積まれた広間か、海側に向
かう通路にしか進めない。そして海賊達が向かっているのは広間ではなかった。人数
は少なくとも10人はおり、まだ見ぬ首領の存在があることもあって迂闊に戦うわけには
いかないことを考えると、最初に考えていた脱出路としての地下洞穴までの間に海賊が
いないのは都合がいい。
 イスターヴェに対する海賊の脅威を取り除くという意味では確実に撃退させられなかった
のが悔やまれるが、君の倒した海賊はおそらく全体の半数ほどにはなるはずだ。普通の
賊ならばこの付近から去ってもおかしくはない。
 海上で再び出会う可能性もあるため、残りの戦力を測っておこうと目を凝らした君は、そ
こで予想外のものを目にした。赤銅色の肌をした筋骨逞しい男達の中に、場違いにも華
奢で白すぎる肌を大きくさらすような衣服を身に着けた娘が1人混じっている。
『奴隷……でしょうか』
 君の考えを代弁するようにルルが小さく声を洩らした。
 この世界に奴隷という制度があるということはこれまでの旅で聞き知っていたし、ルルに
よって過去の事例を聞かされたこともあったが、彼女がそうであれば実際に目撃するのは
初めてのことだ。
 君がイスターヴェで聞いた海賊の情報の中に住民がさらわれたという話はなかった。な
らばこのあたりにやって来る以前から囚われている娘なのだろうか。
『難しいことになりましたね……』
 おそらく君はここまでの通路を逆に進む事で確実にイスターヴェへ辿り着き、アデルの
依頼を果たせるだろう。だがその場合、奴隷のように見えた1人の娘を救う機会を失うか
もしれない。あるいはあの娘が望んで海賊の仲間になっているのだとしたら、彼女を救お
うと危険を冒したことは全て無駄になるだろう。
『私はあなたがどういう選択をしようともそれを支援します。我が剣の主ファイロン』

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