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 肩で息をしながら君は暗い地面に転がる海賊達の死体を見やった。彼らは仲間の仇で
ある君を発見するや憤り、目論見通りにこの洞穴まで追いかけてきた結果、命を失った。
さすがに残り2人ほどになると君の力に恐れをなして腰が引けていた様子でもあったが、
むざむざ逃亡させて君の情報を海賊船に連絡させるわけにはいかなかった。もしかしたら
生き残りの海賊を全てここで逃がしたとしても、再びこの地にやってくる気は起きないかも
しれない。そうであれば海賊を撃退するという目的も果たしたことになるが、やはり1人の
娘を救えなかったという後悔の念が消えてしまうことはないだろう。
 そんな気持ちを察してくれたのか『さぁ、早く海賊船に向かいましょう。もちろん船が漕げ
ないなんてことはないですよね?』と問う普段と変わらぬ声音がありがたい。
 そう。ここからが重要なのだ。上手く海賊船に忍び込み、娘を連れて脱出できるかどう
か。人を斬るのに疲れたのなら、斬らずに済むよう知力を尽くして行動するしかない。
 君は波飛沫の散る岩壁に繋がれた小船に飛び乗り、両手に櫂を握りしめると力強く漕
ぎ出した。(276へ