304 君は朝露で輝く蜘蛛の巣を脳裏に思い描いた。それはイスターヴェに滞在するまでの 旅の間に幾度となく目にしてきた光景ではあったが、どうやら魔法の属精と関わりのない ものを強引に発現させるためには相応以上の力が必要らしかった。しかし今回に限って は充分以上の時間を費やしたうえで、導き手たるルルの干渉度を強めることによってど うにか発現に至る魔力の集中が可能になったようだ。 ルルに誘導されるまま、次第にイメージが広く深く明確になっていく。感覚が夢と現実の 境界に至り、四肢の重みさえ曖昧になった時、ルルの囁く声が力を増した。 『さぁ目を開いて』 まどろみから覚めた君が目を開いた時、その視界には視界一杯にまで拡大された蜘 蛛の巣が映り、瞬く間に遠ざかったかのような幻覚に君は足元をふらつかせた。 『見てください。これが今あなたの使った魔法の力です』 目がはっきりとしてくれば、そこには君を中心に張り巡らされた、細くともロープ以上の 強度を持つだろう凄まじい速度で流れる水の網があった。そして目に見える位置にいる 海賊全ての身体に絡みついていた。 『幸いこの遺跡の地下には豊富な水脈があったようです。それに海が近いことも魔法の 効果が増した理由でしょう』 君が使用した魔法は、本来ならば水精魔法に充分習熟した者が扱うべきものだ。だが 今回に関しては特例的な要素が重なったために使用が可能になったと言える。いずれ は苦もなく使用できる時がくるのかもしれないが、今のところはまだ無理だ。 ともあれ、この魔法の使用によりサイコロ1個分のMPが消費される。その結果MPが 0になった場合、気絶した君は海賊達に発見され、そのまま海に放り込まれてしまう。 ルルはおそらくまた眠りにつき、力の一切を封じたまま海賊に所有されることになるのか もしれない(14へ) 意識を失わずに済んだなら(251へ) |