297 

【 時間点+1 】
 その部屋に整然と並ぶ幾つもの用途不明な塊の中で、君に用途の理解できる唯一の
物は壁に沿って並んでいる大きな棚だった。それだけは金属色ではなく、壁と一体化す
る白色の素材になっていて、棚の中を見るために君が表面に触れると、勝手に戸がスラ
イドして開いた。
 3段に分割された棚に残っていたのは、両手で軽く抱えられる程度の円筒が3つ。どれ
も円筒の中間から上半分を回転させることで蓋が開き、内側にはひと回り縮小された形
の透明な容器が収まっていた。中に入っていたのは、光をあてるとかすかに青く見える
透明な液体に漬けられた生物。その死骸だった。
『これは……あまり楽しいものではありませんね』
 渋面が見えるような声音でルルが呟いた。
 液体に漬けられていたのは、眼球が異様に大きく小さな翼のある巨大なネズミ、短い手
足の生えた蛇、乳首のような紫色の瘤が幾つもぶら下がった植物の3種類で、どれも不
自然で奇怪な印象を与える姿だ。
『それでも、あの若者による推測の裏付けにはなったかもしれません』
 この遺跡が今の時代よりも優れた生物研究を行っていたような場所だったとすれば、
様々な病に効果のある薬草を生み出していたとしてもおかしくはない。
 これらは一応貴重な古代遺産なのかもしれなかったが、目当ての物ではないという以
前に気分的な問題で持ち帰る気にはなれなかった君は、容器を棚にしまって部屋を出た。
279へ