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 遺跡の中で目覚めた君が、自らの記憶を取り戻すための旅に出てから、既に数十日の
時が過ぎていた。その間、君の素性に関する情報は何一つ見つからないままだったが、
幸いにも食糧を得、旅費を稼ぐためには事欠かない君の素養、つまり戦いの為の能力が、
この危険に充ちた世界で生きていくことに生き甲斐をもたらしてくれてもいた。
 生き甲斐すら無くしては、君もいずれはこのあてどもない旅に嫌気が差し、何処かで
のたれ死んでしまうか、あるいは名も無い町の名も無き住人の1人として人生を終えるこ
とで満足してしまっていたかもしれない。
 だが君はそのどちらも選ぶことなく、数多の危険を乗り越えてひたすら旅を続け、そし
て現在は、入り組んだ海岸線沿いに南北へと引き伸ばされるように広がった町、イスター
ヴェを訪れていた。

 イスターヴェは漁業の盛んな大きな町であり、漁の手伝いを始め、素性の知れぬ旅人に
さえ働き口は多かった(職に就く際の登録に必要だったため、君は"ルル"に勧められるま
ま「ファイロン」と名乗ることにした)その仕事のみならず、しばらくの滞在によって君の人と
なりや働きぶりが見込まれたことで、最近現れるようになった海賊に対して組織された自
警団への協力を勧められもした。
 もし自警団への協力を承知するのであれば、その働きに応じた手当を得られることにな
るが、代わりに情報収集のための時間を割かなければならず、当然ながら危険も増える。 
 ある夜、安宿の寝台に寝転びながら、今の君にとっての唯一無二の相棒である"ルル"
こと愛剣アールイヴァリルにそれを伝えてみると、「彼女」は君にしか聞こえない声を使っ
て返事をした。
 『あなたのご自由に。例え海水であっても私には真水と変わりはしませんから、通常の
武具に対するような気遣いは無用です。……けれど、お魚を切る為に使うのだけはおや
めくださいね』
 ルルとの自由な意思疎通が可能になったのは最近の話だが、そうなってみると彼女に
はどうやら確固たる「戦うための剣」としての誇りがあるのだと理解できるようになった。
 会話が可能になる以前の事を思い返してみると、山で捕らえた猪を捌こうとすれば腕が
痺れて動かせなくなり、薪を割ろうとすると刃が逸れてしまったりと、明らかに剣が意思を
持っていると認識するようになるまで、不可思議な現象が君を不安にさせたものだ。
 まだまだ謎が多い魔法の剣ではあるが、完全に一個の人格であることを認めた君は、
今や旧知の友であるかのように付き合うようになっていた。

 ともあれルルがこういう言い方をしたという事は、判断を君に任せても問題ないと判断し
たようだ。今やそれが伝わるくらいには共に様々な経験をしてきた。

 ・自警団に協力するなら(25へ
 ・余計な仕事は増やさないことにするなら(8へ)