☆はじめに
水月の原画とシナリオコンビ(他色々)が移籍して作った第一作です。
水月はどこかの田舎町を舞台にオカルトと友情と恋愛と萌えを交えて作られたF&Cとしては珍しい佳作です。
正直に言えばオカルトものとしても恋愛ものとしてもやや粗の目立つ出来でしたがそこを補ってあまりあるキャラクター造形とそのシナリオを幾重にも引き立てる原画の魅力がありました。
声無しでありながら圧倒的なキャラ萌えとF&Cにしては濃いめのエッチシーン、そしてどこか不思議な雰囲気が夏に良く合っていて非常にのめり込んでプレイしたことを覚えています。
その原画とシナリオがF&Cを抜けたと聞いたときは大いにがっかりしたものです。
そして移籍して第一弾、これは果たして水月よ再び、と言う自分の希望を満たしてくれるものでしょうか?
☆内容など
主人公は幼い頃に両親を亡くし、祖父母に育てられた三年生。
主人公が卒業する高校はこの春、生徒数減少に伴い統廃合されることになっている。
学校が無くなると言うことと卒業を控えて少し感傷的なある冬の日が舞台です。
主人公にはすぐ下に妹がいるがその妹は幼馴染みの家に預けられ、そこの娘として育てられた。
主人公は取り立てて将来的なビジョンはないけれど、既に唯一の家族となってしまった妹を引き取り何とか自活できないかと模索する日々。
詳しいことはメーカーサイトを見ていただくとして・・・
メーカーサイト
ヒロインは三人。
主人公の妹、桜。
度を超したブラコンで世間的な意味での兄と妹という関係が理解できていない。
感覚的には幼児と歳の離れた兄という感じ。
主人公の良くできた同い年の幼馴染み、紅葉。
紅葉は桜が預けられている家の一人娘。ただし紅葉の両親は桜と紅葉を分け隔て無く可愛がっているし、出来れば主人公にも身を寄せ、実の両親のように考えて欲しがっている。
紅葉は桜の姉であり主人公の世話をかいがいしく焼く幼馴染み。
家事全般が得意で優しく良くできた女の子。
あまりに近しい存在であるため人前でもべたべたしてしまうが特に違和感は覚えていない。
主人公も気恥ずかしく思ってはいるがそこは甘えてやはりべたべたしてしまう。
周りからは既成のカップルとして認識されているが二人が実際にどう思っているか、その関係が卒業を控えてどうなるかは物語次第。
主人公の幼馴染み、仲良し男子三人組の一人の妹、可憐。
可憐は主人公の幼馴染みである邦彦の良くできた妹。
桜とは同級生で、桜の親友でもある。
眉目秀麗で才色兼備、秀才の兄と並び良くできた女性。
主人公のことは子供の頃から知っている上に桜からよく自慢されているため少し憧れている。
この三人を幼馴染みの邦彦、龍馬を交えて主人公の亡き両親、出生の秘密、紅葉の両親や学園に伝わる「桜結び」の劇の謎などを通して最後の学園生活、学園の最後を描いた一作です。
基本的なテーマは主人公と妹、桜の関係とそのあり方で、その関係が紅葉や可憐とのつきあいを通してどう変化するのかを描いていきます。
☆グラフィック
グラフィックは水月と同じ人です。
ただ水月の時はそれなりに頭身があった気がしますが今回は最年長である紅葉ですらかなりの幼児体型で、おしなべて登場する人物は(男性を除き)非常に幼い風貌をしています。
とは言え原画の出来もグラフィック化の技術も申し分なく、この原画家さんの絵が好きならば問題ないと言えます。
グラフィックは綺麗でシナリオの雰囲気にも合っていると思いますが全体を通してイベント画像は少なめな印象です。
萌え系イベントの殆どは一般会話に内包されているため立ち絵の場面が多く、それでもさして不満は感じませんがそれでも何カ所か「ここはイベント画像が欲しかった」と思う点はありました。
まぁそれでも大きな不満とはならないと思います。
しつこいようですが紅葉も桜ももの凄い幼児的な描かれ方なのでロリが嫌いで受け付けないって人はまぁ止めた方が良いかも。
☆サウンド
声は無し。今時珍しいです。
ゲームの雰囲気や展開的に声はあった方が良いと思ったのでこの点に関しては非常に残念。
音楽はゲームに合っていて良かったと思います。
音楽はピアノ主体のアコースティックな感じの曲が多く、叙情的でゲームの雰囲気に合っていますし逆に音楽が雰囲気を作り出しているとも言えます。
声がないので音楽をじっくり聴く形になるので優しい感じがする曲は良かったと思います。
☆システム
ゲームシステムは最近ではやや珍しくなってきた完全ノベルタイプです。
画面全体に半透明の幕が掛かりその上に画面いっぱいに文字が載るタイプは最近では珍しくなってきました。
文字送りなどはそう不便でもなく、慣れれば特に違和感を覚えることはないと思います。
ただせっかくの綺麗な絵を見るのにやや手間がかかるのは難。水月の時もそうでしたがノベルはこの辺がちょっと面倒くさいですね。
難易度的にはさして高くなく、選択肢もそう分かり難いものはないと思います。
狙ったヒロインのハッピーエンドを見るのはそう難しくはないでしょう。
☆総
このゲームのメインテーマは主人公と妹桜のあり方です。多分。
幼くして両親を亡くし、距離は近くても別々の家庭で育ち漸く自由に行き来できるようになった仲の良い兄妹。
ただその妹は寄る辺なき幼子のように純真に、無垢に、そして見境無く兄を慕う。
その愛は既に兄妹のそれと違う。
否、兄妹の愛とか親子の愛とか男女の愛とか、愛に種類がないのが桜の愛。
それに気がついて主人公は桜との距離を取ろうとします。
それは所謂世間の目を意識して、とか自分が何らかの理由でそばに居れなくなったら、本当に好きな人が出来たら、そうした近しい未来を常識的な考えで見たときのことを考えて。
そうした状況で主人公は卒業を迎えます。
そして出会う学園に伝わる劇「桜結び」そしてそこから偶然知ることになる主人公の出生の秘密、桜の秘密、街と学校と主人公の両親の秘密などなど。
どこか暗く陰惨な過去と、今を生きる主人公、主人公を愛し支えようと懸命な紅葉、主人公に憧れる可憐、そして桜。
儚く脆い桜の花びらのような世界の中で何かが壊れ、何かが生まれようとしている、しかし主人公は無力。
そんな雰囲気を湛えたシナリオの中で主人公が葛藤しそして桜との関係、紅葉との関係、可憐や幼馴染み、見守ってくれている紅葉の両親達を想いなにをするのか、何を掴み何を失って卒業していくのかを描いた一作です。
原画やサイトの紹介から受ける暖かな雰囲気とはうって変わってそこには確かな闇と想いがあります。
ただほわほわした春の桜のようなゲームかと思ったら意外と深刻というか嫌な面もあったりして面食らいました。
ただ桜バッドエンド(と言うか桜Bルートというか)以外は主人公とヒロインはお互いに愛し愛され、結ばれてお互いをかけがえのないものとして想い、卒業していきます。
水月の時にもあったような闇とそれに抗う主人公達、と言った構図は姿を変えて存在しますが、紛れもなくそれはハッピーエンドなのでしょう。
・・・と少し情緒的になりすぎた感があって止まらなくなってきたのでこの話はこの辺で。
ゲーム自体は上でも書きましたがヒロインと、兄離れできていない年齢よりも幼く見える妹との関係に悩む主人公の話です。
優しく包み込むような紅葉ルートは色々辛いこともあったけれど、好きな人と幸せに生きていこう、と思う話です。
可憐は色々なしがらみや偏見に邪魔されてもお互いをかけがえのない人として生きていこうとする話。
そして桜のハッピールートは兄と妹から二人の人間へと成長していく(と言っていいのか?)話かなぁ。
いずれのルートも悩んだ挙げ句幸せになろうとする話なのでやっぱり幸せになって欲しいと思わせる話でした。
作中色々と暗い過去や忌まわしい出来事が暗に語られますが実際に具体的に描かれることも登場することもなく、全てはおぼろげな闇の中です。
ですので取り立てて気分の悪い思いをすることもないと思います。
ただ少し上でも書きましたが桜にのみ破滅的なバッドエンドが存在します。
選択肢的にはどちらかというと自制しているのに悪い方に流れるというちょっと理不尽な流れになっていましたが。
このシナリオのみ全てを失い全てが闇に帰る話です。なんだかやるせない気がしました。
まぁ狙わないとこの話には乗らないし、選択肢的には理不尽な選択肢になるので普通にやるとハッピーエンドになると思いますが。
後、このゲームで特筆すべきはハッピールートの紅葉のいちゃいちゃ感でしょう。
紅葉ルートのみ主人公と紅葉の間には何らの障害も存在しません。
紅葉も紅葉の両親も、そして桜さえも二人の関係を祝福し後押しをしています。
その中でこれまでも心のどこかにあった想いを形にしてお互いに示し合う中盤、それは何ら劇的ではなく、さりげなさ過ぎてこの二人でないと気付かないくらいの告白を経て春の日へと繋がっていきます。
そんなバカップルでもあり微笑ましくもある紅葉ルートはかなり強烈です。
水月の花梨と雪を足したような萌えを感じました。
紅葉ルートだけでもほぼ満足になるので可憐がややかすみ気味なのが残念。
可憐ルートは下手に闇とか化け物(暗喩です)とか出さない方が良かった気がします。
可憐と桜の主人公を巡っての葛藤や想いをメインに据えるだけでこの話的には十分だと感じました。
変に「化け物」等を出して、しかもその暗喩を明かさずに終わらせてしまっては些か尻すぼみな感がぬぐえません。
確かにそこら辺を勘ぐったりするのも楽しそうではあるのですが、このゲームの趣旨からすると少し外れ気味な感じがします。
可憐エンドは私好みのハッピーエンドで、そこには可憐の兄妹愛や和解なども描かれて美しいのですがそれでこれからどうするねん、と言った辺りの疑問は誰しも抱くところであり投げたエンドでもあるのでその辺が残念です。
桜に関して言えば正直私は妹萌えの人ではないし、桜の挙動や言動はブラコンと言うよりも気の毒な人にしか見えないし、主人公があまりに「桜は妹だから」と言い続けるのでプレイヤーたる私もその気になってしまいあまり攻略ヒロインに見えないです。
それを受けた上で桜ルートに入るからこそこのテーマが生かされるとは言えるのですが・・・
桜ルートはどちらかというと禁親愛への禁忌よりも幼児への性行為というような背徳感を感じるのでそっち方面向きなのかも。私はどちらも属性がないのでひたすら居心地が悪かったですが。
結局桜という妹との葛藤を味わいたい人よりも紅葉といちゃいちゃしたい人向けのゲームです。
ヒロインが三人と少ない気がしますが定価も安いのでこれはこれで良いかな。
終わった後にアレはこう、コレはああだと考える余地もあるしキャラ萌えはするし水月ほど陰惨な話でもないのでその点は安心です。
☆お気に入り
キャラ的には完璧な可憐が甘える所など可愛いのですがやはり紅葉でしょう。
☆ハッピーエン度
キャラによりやや偏りがあるので分けます。
桜 :☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
紅葉:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
可憐:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
☆点数
80
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