FOLKLORE JAM
HERMIT


 ☆はじめに
絵は良いのにシナリオが今ひとつ・・・そんな感想を持つことが最近多くなってきました。
幾人かいる(不遇)伝説の絵描きさん、その内の一人が恐らく「厘京太郎」氏であろうことは比較的賛成して貰えるのではないでしょうか。
その厘氏が所属していたBeFを出て作ったのが本作「FOLKLORE JAM」です。
シナリオの担当は今年遊んで結構好きだった「ショコラ 〜maid cafe "curio"〜」の人なので更に期待。
果たしてその新規ブランド第一作はその駄作伝説に終止符を打つほどの出来だったのでしょうか?

尚、ついでながら書き添えておきますがBeF時代のシナリオライターの人も決して嫌いではありませんでした。
ハッピーエンド指向やメーカーサイトでの掲示板のやりとりなどを見るにつけサービス精神もある人だと思っています。

ただ短い。シナリオが滅茶苦茶短い。出会って一週間もたたんうちにろくすっぽイベントも描かずに惚れたはれたの言われてもなぁというのが正直なところ。
(BeF)最後の方はエロが薄いと言われて話が濃くならずにエロだけ濃くなるという雰囲気重視のゲーム(のはず)が普通のゲームの革を被った抜きゲームみたいになってしまったのが残念。
とは言えこういう感想を持つ者は少数派なのかも知れませんけど。

折角良さそうな雰囲気や舞台、キャラ設定(性格など)があってもそれを生かす構成になっていなければプレイヤーはシナリオに入っていけません。

そう言う意味では昔のライター氏に基本シナリオを書いて貰って、それを「あらすじ」に使って肉付けをしていくのも良いかなぁなどとも思います。
まぁ今となっては意味のないことかも知れませんが。
 ☆内容など
主人公はとある地方都市に住む高校二年生。
幼馴染みで一つ年上の女に尻に轢かれ、顎でこき使われながらも普通に過ごす毎日。

ところが何を思ったかその女が信じもしないのに「この街のオカルト物件について調査する」などと宣言して「オカルト研究会」を発足させ主人公をムリヤリ引きずり込んだところから物語は始まります。

登場するヒロインは4名。
前出、幼馴染みで年上で、成績優秀、頭脳明晰、独立独歩唯我独尊のタカビー女「維月」。
日本屈指の巨大新興財閥現当主の娘にして霊感少女「古都」。
殴れるものなら怖くない、無敵破壊娘「ひなた」。
主人公が通う学校の生徒会長にして維月と並ぶ学園二大女傑「碧衣」。

この4人をメインヒロインにして主人公達が住む町「神凪市」を舞台に古来から伝わる言い伝えや伝説、現代に残るオカルト、政治的な影などを絡めて一夏の出来事を描いたアドベンチャーです。

詳しくはメーカーサイトを見てください
   メーカーサイト

 ☆グラフィック
グラフィックはBeFの看板原画家(と言うかこの人しかいなかったけど)、厘京太郎氏。
かちっとした面長の絵柄は健在。

ただし、服装のデザインや髪型などちょっと尖っていて少し世界観というかシナリオに合わない気もします。
元々可愛い、と言うタイプの絵ではないのですがやや体つきがごつすぎる気もするし相変わらず硬質な色塗りがそれに拍車をかけています。

絵は綺麗ですが、可愛い、萌えるといった要素とは無縁なのでその辺は注意。
原画買いなら元々の絵柄を知っているのでしょうから問題ないと思います。

ただしシナリオ量の割にCGは少なめ。
ここできちんとしたイベント画像があれば・・・と思うことは多かったのでその辺は残念です。
 ☆サウンド
BGMはこれまた特に印象には残っていませんがゲームに合っていたように思います。
オカルトをネタに使っているので所々おどろおどろしいシーンもありますが、ちゃんとそれっぽい音楽が鳴っていました。

音声はサブキャラも含めてフルボイス。
サブキャラに関しては下手と言うほどではありませんが、男も喋るし、システムで特定の声をカットすることも出来ないのがきつい。
演技の巧拙が気になったのは維月くらいでしょうか。維月は声と声質とキャラ設定が今ひとつ合っていなかったように思います。


 ☆システム
システムはオーソドックスな行動選択型ADVです。
場面場面での行動選択とオカルト研究会時の行動場所指定の2種類ありますがどちらも特に問題にはならないと思います

セーブ、ロードの数は足りないと言うほどもなくどこでも使えるので使い勝手は良好です。

既読未読判別スキップ、ホイールによるテキストバックログ搭載でプレイのしやすさは問題ないです。

敢えて言うと右クリックでウィンドーが消せないのが面倒か。
 ☆総
お気に入りの原画マン、と良さそうなシナリオライターのコンビと言うことで地味に期待していた一作ですが果たして感想は?

結論から言えば半々、でしょうか。

まず良くなっていた点から書きます。

シナリオ量、これは過去のゲームと比べるまでもなくこちらの方が多いです。
特に各ヒロインをクリアする毎に物語の根幹にあるものが見えてきて最後に大きな本流が明らかになると言う作りはなかなか凝っています。
各ヒロインのシナリオもそれなりにボリュームがあり、くっつくまでの展開も比較的違和感が無く納得のいくものです。
ただヒロインの数が実質4人と言うことを考えれば一人当たりのボリュームはそこそこでもゲーム全体のボリュームはそれほど多くありません。
この辺は次回作があれば改善して欲しいです。

次に今ひとつと感じた点。
これはキャラ立てと物語の作り、です。

キャラ的な面で言うと登場するメインヒロインが弱い。もの凄く弱い。
ヒロイン達を印象づけるシナリオもちゃんと用意されているし口数も多くキャラの性格をプレイヤーに周知する手間もちゃんと払われている、にもかかわらず弱い印象があるのは一重にメインとなる「維月」が喋りすぎる所為。

そしてこの「維月」がどこかで見たことがあるような「高飛車、唯我独尊、完璧、性格のゆがんだ才女」である為最初から飛ばしまくって好きになれない。

制作者側の意図がどうであるかは判りませんが「GS(ゴーストスイーパー)美神極楽大作戦!!」というマンガに出てくる主人公そっくり。
守銭奴じゃないですが。

頭ではこの「強いヒロインと情けない主人公」が二人だけは理解し合っている「強く結ばれた仲間」という構図なのは判っているのにどうもすっきりとその設定を楽しめない。
維月と主人公のコンビの描き方がどうも上手くいっていないのか白々しさが先立つものになってしまい、維月が好きになれない。

その為全てを持って行ってしまう維月の陰に隠れてその他のヒロインがどうも冴えない。

更にもう一つは物語の作り。

先に書きましたがこの話は根幹となる神凪市の創世の物語と古来から残る支配層の確執をバックに主人公達が辿るオカルト物件とそれを暴こうとする維月の行動を絡めた物語です。

各ヒロインのシナリオをクリアする毎に神凪市の伝説と新旧支配層の確執、主人公の過去や意外な力といったものが明らかになって最後は全てが判るという構成になっています。
が、いくつか明らかになっていない点と、少し都合良すぎるんじゃない?と言う点とそりゃいくらなんでも便利に使いすぎだろうという点が多くてシリアスなシナリオが手放しに素晴らしいと言えなくなっています。

「YU-NO」と「水月」を足したような話をずーっとスケールダウンしたという印象でしょうか。

ただ、軽いオカルトネタを都市伝説や伝承に絡めて描いたお話はなかなか楽しかったし、細かい点に目を瞑れば好きな人なら楽しいと思います。

突飛で少し取っつきにくいヒロイン達も逆に言えば「この子が惚れてくれたらどうなるんだろう」という楽しさを感じる要素となります。

そう言う意味では次作以降に期待できる作りと言えるのではないでしょうか。

ただこういう作りにするならリフレインブルーなどのように攻略順に規制をかけた方が良かったのではないかと思いますね。
個人的には「ひなた」→「古都」→「碧衣」→「維月」→「?」の順番をお勧めします。
最後の「?」はどのみち最後にしかクリアできません。これだけはシステムに制限がかかっているようです。

総論として、オカルトネタのサスペンスドラマ風ADVの恋愛要素入り、が好きなら買って損はないかと。
原画マンのファンで原画買いしても上記要素が好きなら損したとは思わないと思います。
酷い話もないし、女の子も酷い目に遭わないし(キーワードで言えば陵辱、寝取られ等はありません)、そう言う意味でも安心。

逆に萌え、恋愛、エロなどをメインにしたいのならば様子を見た方が良いかも知れません。

 ☆お気に入り
キャラ的には碧衣、ひなた。
維月はもっと上手く導いてくれたら凄く良かったのになぁ。
 ☆ハッピーエン度

    ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ☆点数

    75