「時間に遅れちまったな。綾香のやつ、うるさいからな。」
 俺は、あわてていた。学校帰りのデートだ。
 「志保のやつ、妙な詮索しやがって・・・ 。」
 志保に捕まらなければ、こんなにも慌てる必要はなかった。まあ、俺の相手があの”来栖川綾香”とは まさか思ってはいないだろう。気づかれてもいないはずだ。ただ、最近 俺があかりの側にいないことが不満のようだが。
 「はあはあ・・・ 綾香とつき合うようになって、多少体力がついたと思ってたんだけど・・・ 甘かったようだ。苦しいぜ。」
 息が切れて、苦しい。
 「?」
 待ち合わせ場所に、綾香の姿が見えない。
 「おっかしいな。綾香のやつ、どっかに隠れてやがるのか?」
 あたりを見渡すが、それらしい姿がない。寺女の制服を着た少女が、一人いるくらいだ。
 「浩之さん。」
 その少女が、声をかけてきた。よく見ると、それはセリオだった。
 「セリオだったのか。気づかなかったぜ。」
 完全にわからなかった。耳を覆っているセンサーで、区別できるはずなのに。
 「綾香お嬢様は、急用ができたとのことで 会いに来られなくなりました。それで、私がお伝えに参りました。」
 「そっか。」
 時間に遅れた言い訳をせずに済んだことで、ホッとする。
 「確かにお伝えいたしましたので、私はこれで失礼します。」
 セリオは、いつもの如く 機械的に物事を進める。
 「なあ、セリオ。」
 「はい、なんでしょう。」
 「おまえが、綾香の変わりにつき合っちゃくれないのか?」
 「私が、お嬢様の変わりですか。」
 「そうだぜ。俺は、この後の予定が空いちまったからな。そこで、セリオさえ良ければ 俺の相手をしてくれないかってことだ。」
 俺は、ジッとセリオを見つめた。セリオも、俺を見つめている。
 ・・・なにか、いつもと感じが違うように 思える。だから、俺はセリオを誘っているのか?
 「はい、かわりました。この後のスケジュールに重要と思われるものがありませんので、変更は可能です。では、予定をキャンセルして 書き換えます。」
 そう言うと、セリオは 黙ってしまった。たぶん、サテライトシステムを使って 研究所にアクセスしているんだろう。
 「スケジュール変更、終わりました。これからの予定は、全てクリアーです。」
 「そっか。じゃ、とりあえず・・・ そうだな、話でもしながら散歩でもするか。」
 「はい。」
 綾香とだったら、いろいろと行けるところはある。だが、今の相手はセリオだ。どこへ行こうか、迷っちまうぜ。
 悩みながら歩き始めた俺の後を、付いてくるセリオ。
 「 ・・・セリオ、一応デートなんだから それらしくしてくれないか?」
 「デートなんですか。」
 「俺が、セリオを誘って セリオはOKした。これが、デートじゃなくてなんだって言うんだ?」
 「 ・・・そうですね。」
 ニコッ
 えっ? いま、微笑んだのか?
 「どうしたのですか?」
 「い、いや。じゃ、行こうか。」
 「はい。」
 セリオは、返事をすると 俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
 「お、おいっ。」
 「なにか変ですか? データでは、このようにすると なっていますけど。」
 「その・・・ ま、いいか。」
 いつもと・・・ そう、いつもと感じの違うセリオに 俺は戸惑っている。
 そういえば、さっき笑ったよな。たしかに、笑ったように見えた。俺の気のせいか?そんなことは・・・ ないと思う。
 「どうかしましたか?」
 悩んでいる俺の顔を覗き込む、セリオ。
 「あ、ああ・・・ なんでもない。ところで、セリオは どこか行きたいところがあるか?」
 「行きたいところですか。これといって、私の希望はありません。」
 「そっか。セリオにゃ、趣味なんてないだろうし。」
 俺は、やっぱり普通の女の子と違うんだということを 改めて実感した。その点、マルチが特殊だったのだろうか。。。
 テクテク・・・ テクテク・・・
 テクテクテク・・・
 会話もなく歩いた先は、あの公園だった。そう、初めて綾香と会った近所の公園だ。あの時から、綾香との付き合いが始まっていたのかもな。そうだ、初めて会った時の印象と変わらない綾香と 付き合っている。
 だが、いま俺の横にいるのは セリオだ。それも、雰囲気の変わった・・・
 俺は、率直に聞いてみることにした。
 「セリオ・・・ 今日のセリオ、いつもと違う感じがするんだがな。」
 「そうですか?」
 セリオは、俺を見て ちょっと首を捻った。
 「ああ、なんていうか 感じが変わったというか 雰囲気が前と違うんだ。」
 「雰囲気ですか?」
 「ああ。」
 「そうですね・・・ 外観的変更はありませが、OSのバージョン変更がありました。装備されていて、有効に機能していなかったものを スムーズに動かせるプログラムが組み込まれたにすぎないのですけど。それで、雰囲気が変わったとおっしゃるなら そうかもしれません。」
 それだけで、そんなにも違ってくるものなのか?
 ちょうどベンチの前まできたので、腰を下ろした。セリオも、俺の横に座る。
 そんなセリオを、俺はジッと見つめてしまう。綾香の時とは、違う胸の高鳴りを覚える。
 「どうしたのですか、浩之さん?」
 「い、いや、その・・・ なんだ・・・ セリオを見ていると、マルチはどうしているのかなと思って。」
 なんとなく照れくさくって、話を他にふっちまった。
 「研究所で、毎日楽しそうに掃除をしています。」
 「はは、あいつらしいな。
 ・・・なあ、セリオ。今のOS、もしかしてマルチ見たいに人間臭くなるプログラムが入っているんじゃないか?」
 「Hプログラムのことですか。人間の方々とのコミニュケーションを円滑にするために、表情などを作るプログラムです。試作タイプの私たちのみに装備された機能を動作させるものと 聞いています。」
 それで、納得できた。今日のセリオの雰囲気が、違うと感じたことを。
 やっぱり、セリオは微笑んでいたんだ。いつもの能面のような表情ではなく 生き物のように自由な表情を作ろうとしていたのだ。
 「でも、まだまだ経験不足で、ご迷惑をおかけしているかもしれませんね。」
 「そうだな。」
 なんか落ち着かない。どうしたというんだろう。
 「どうかしましたか? 今日の浩之さん、少し変ですよ。」
 「ああ・・・ 自分でも判らないんだ。」
 「そうですか。
 そういえば、もともと私とマルチさんのOSは 同じ物なのだそうです。そして、Hプログラムもです。いままで、その使い方が判らなかったのです。あと、私たちそれぞれの仕様にあわせて少しオプションプログラムが違っていただけなのです。」
 「そうなのか。なんとなく判るような気がするぜ。」
 マルチとセリオ・・・ マルチが特別だったかもしれないが、セリオも人間臭さを覚えることで 親しみやすくなっていくのだろうか?
 「浩之さん・・・ 私は、人様の役にたっているのでしょうか? だとしたら、私は喜んでもらえているのでしょうか?」
 唐突に、セリオが発した言葉・・・ 悩み。
 生まれて数ヶ月しかたっていないのに、俺でも難しい悩みを抱えているのか。
 「それは、俺が答えることじゃないぜ。それに、その答えがでるのは たぶんまだ先じゃないかな。ま、俺は セリオがいてくれて嬉しいけどな。」
 ポッ
 「ありがとうございます。」
 頬を朱色に染める、セリオ。かわいいと思うぜ。
 「セリオ、俺の家に来ないか?」
 「はい、ご命令ならば。」
 「これは、命令じゃないんだ。お願いだ。」
 「はい。なんとなく、理解できました。」

 「そこらへんにでも、座っててくれ。」
 「はい。」
 俺は、セリオをどうしようというのだろう。
 俺の胸は、高鳴りっぱなしだ。
 「セリオ、”恋”ってわかるか?」
 「恋ですか。少しお待ちください。」
 キーン・・・
 「来栖川データベースに接続・・・ 」
 そんなものが、データにあるのか?
 「データは・・・ ありませんでした。あ・・・ 一つだけ・・・ これは・・・ マルチさんのデータ?」
 「・・・」
 「胸が苦しいです。ドキドキして・・・ 。でも、なんだかとっても温かく感じます。これが、恋なのですか?」
 「そうかもしれない。だけど・・・ 」
 「違うのですか?」
 「それは、マルチのデータだ。セリオが育てた恋ではないぞ!」
 「え?」
 強い口調で答えた俺に、セリオは驚いている。
 「なあ、セリオ。恋というものは、俺達人間でも 最初はよくわからないものなんだ。後になってから気づくことが、ほとんどだと思う。今のセリオが感じているのは、マルチのであって セリオの本当の恋じゃないんだ。」
 「私の本当の恋ですか?」
 「ああ。」
 「私にみつけられるでしょうか? 不安です。」
 そう言うと、 セリオは目を伏せた。いかにも、寂しそうだ。
 「だいじょうぶだ。マルチの姉妹なんだから。それに、いま恋というものがどんなものだか 知ったんだからな。」
 俺は、自分のことを忘れたように セリオを励ましていた。
 忘れたわけではない。自分の変調が、恋だと気づいたからだろう。
 「わかりました。」
 本当にわかってくれたのだろうか? 人間でも、難しいことなのに。でも、なにも知らなかったからこそ・・・ マルチの気持を知ったからこそ、興味があるのかもしれない。マルチの・・・
 「どうかしましたか? だいじょうぶですか?」
 「あ、ああ。ちょっとまたマルチのことを思い出してね。」
 「マルチさんのことですか。」
 「俺は、マルチに何かしてやるって言ったんだけど・・・ 俺は、何もしてやれなかった。マルチの気持を知っていたはずなのに・・・ 。」
 俺は、いつの間にか泣いていた。
 自分の心がわからない。なぜだろう・・・
 俺は、マルチを愛した。そして、あの笑顔だけを残して いなくなった。
 綾香が、寂しさをぬぐってくれた。そして、綾香の強さと隠れた優しさにひかれた。
 そして、今・・・ 俺は、マルチと同じ純真なセリオに・・・ 。
 「浩之さんは、マルチさんのこと 本当に好きだったんですね。私に、マルチさんを重ねているのですか?」
 セリオは、持っていたハンカチで 俺の頬をつたう涙をぬぐった。
 「セリオ・・・ 。」
 「私では、マルチさんの代わりはできませんか?」
 「・・・」
 「私・・・ マルチさんが、羨ましかったです。私と同じロボットなのに、いろいろな人に好かれて・・・ 浩之さんに愛されて・・・ 。」
 「セリオ、知っていたのか?」
 「マルチさんのデータは、浩之さんのことでいっぱいです。マルチさんの気持を知って・・・ 私も、そうなりたいと・・・ 思いました。おかしいです・・・ 私、壊れたのでしょうか? いままで、そんなこと思ってもみなかったのに。」
 ハンカチを持った手が、震えている。
 ガバァッ
 俺は、セリオを抱きしめた。
 「浩・・・ 之・・・ さん。」
 セリオも、両手を廻してくる。
 「セリオ。」
 俺は、セリオの唇に唇を重ねた。
 「んっ・・・ 。」
 目を閉じて、俺に廻した両腕に ギュッと力が入るセリオ。
 それは、ロボットではなく・・・ 一人の人間の女性としての姿だった。
 「あっ。」
 どちらからともなく、重ねた唇を離す。
 「セリオは、セリオとしか見ていないぜ。マルチの代わりとしてじゃなくてさ。」
 なでなで
 「浩之さん。」
 頭をなでてやると、マルチと似たような幸せそうな顔をする。そこらへんは、さすがに姉妹といったところか。
 プルルルル・・・ プルルルル・・・
 ちっ、いいとこなのに 無粋な電話だ。無視するに限る。
 「浩之さん、電話です。」
 「いいんだよ。」
 プルルルル・・・ プルルルル・・・ プルルルル・・・
 しつこいっ! これは、きっと志保だ。あやつしかいないと、確信できる。
 「浩之さん、私がでます。」
 「俺が、でるよ。」
 しかたなく、玄関にでて電話を取る。
 「はい、藤田です。」
 「なにやってんのよっ! この志保ちゃんを待たせるなんて、人間の屑よ!!」
 ムカッ
 「現在、電話にでることはできません。ご用のある方は、またかけてください。」
 「あっ、ちょっと ヒロ。待ちなさい・・・・・・・ 」
 ガチャッ
 気分が、盛り下がっちまう。
 「浩之さん・・・ 私、そろそろ研究所に戻らないといけません。」
 「そっか。もう、そんな時間になっちまったか。」
 俺も、やっと素直になれて これからって時なのに・・・ 残念だ。
 「バス停まで、送るよ。」
 「いいえ、大丈夫です。」
 ニッコリと微笑む、セリオ。もう、驚くことはない。
 「浩之さん、またお会いできますか?」
 「あ、ああ。セリオの為だったら、いつでもOKだ。」
 「ありがとうございます。嬉しいです。」
 頬を染めるセリオ。少しずつ、少しずつ、人間らしい表情を見せていく。
 「それでは、失礼します。」
 玄関の扉の向こうへ、消えていくセリオ。
 パタッ
 扉が閉まり、静寂だけが残った。
 「セリオ・・・ 。」

 セリオの試験期間は、一ヶ月。
 明日から、俺は修学旅行だ。その間、会えないことを考えると セリオに会えるチャンスは一週間くらいってとこか。それで、俺は何ができるのだろうか? また、同じ過ちをしてしまうのではないか?

 「はぁ〜、疲れた。 ・・・それにしても、あかり達には悪いことしたな。」
 旅行の間中、俺はセリオのことを考えていた。
 様子のおかしい俺を、あかりが心配して ずっとくっついていた。あかりは、いつも深くまで聞いてこない。ただ、俺がなにかを言うまで 見守っているように黙っていた。
 ”すまん、あかり。”と、言ってやれるのが 精いっぱいだった。
 「つまらないぜ。」
 自分の部屋に帰ってきて、他人に干渉されない安堵感からか 睡魔がやってくる。
 ゆっくりと、瞼が・・・・・・

 ピン・・・・・・・・・・・・・・      ン
 ピン・・・・・・・・・・・・・・     ポン
 ピンポーン・・・・・・・ ピンポーン!
 寝ていた俺を、揺り起こす呼び鈴。
 身体が、重い。
 ピンポーン!
 「はいはい。」
 ガラッ
 「やっほー、浩之!」
 窓から外を見ると、綾香が来ていた。そして、セリオも。
 「居るんなら、さっさとでてきなさいよ。」
 「怒鳴るなって。今行くからよ。」
 綾香が来た。セリオを連れて。俺は、どうしたらいいのだろう? 俺は、まだ答えを出していない。
 それでも、あわてて一階に降り 玄関を開ける。
 「浩之っ!」
 扉を開けると同時に、綾香が飛びついてきた。
 「会えなくて、寂しかったんだから。」
 「おいおい、そんなことないだろうが。お前には、格闘技もあるっていうのに。」
 「それと、これとは 別! それに、浩之以外の男なんて 私の眼中にないんだから。」
 あいかわらず、はっきりと ズバッと言うな。
 「こんにちは、浩之さん。」
 「ああ。セリオ、元気してたか。」
 「はい。」
 「セリオ、女らしくなったでしょ。私が、レクチャーしてあげたんだから。」
 綾香の言うとおり、旅行に行く前の日よりも 人間らしく 女の子らしく感じる。
 「ねぇ、北海道の話を聞かせてよ。」
 「そうだな。」
 二人を家の中へ。
 「セリオは、ここで待ってて。私は、浩之と上でお話するから。」
 「はい、綾香お嬢様。」
 「おいおい、話ならリビングでもできるだろうが。セリオだけ、のけ者か?」
 「いいの。」
 綾香が、二階へ行くのを促すように 俺の背中を押す。
 俺は、セリオが気になってしかたないのに。
 トントントントン・・・・・・
 「そういえば、土産があったな。」
 「浩之。」
 部屋に入った俺を、後ろから抱きしめる綾香。
 「浩之、浮気しなかったでしょうね。」
 ドキッ
 「何言ってやがる。」
 「はは、その様子だと 大丈夫のようね。 ・・・ね、浩之。」
 くるりと、俺の前に回り込む綾香。
 スッと瞼を閉じた綾香の顔が、近づいてくる。
 チュッ!
 唇が重なり、やわらかく甘い感じがする。
 「私、本当に寂しかったんだ。練習してても、打ち込めなくて。こんなこと初めて。」
 「綾香。」
 「だから、浩之で私を満たしてほしいの。私の中から、溢れるほどにね。」
 綾香の素直な気持ち。
 それを聞いてさえ、俺はまだ迷っている。
 「だから・・・ 」
 綾香は、制服を脱ぎ始めた。綾香の身体から衣が剥がされるたび、俺の心を揺さぶる。
 「愛してっ!」
 再び、俺に抱きついてくる。甘い香りが、綾香から漂って 俺の鼻腔をくすぐる。
 「綾香、俺は・・・ 」
 「浩之は、私の気持ちを受け止めてくれればいいの。応えてくれればいいの。
 でも、もし他に誰か 浩之にその気持を伝えてきたなら 応えてあげて。」
 「何を言ってるんだ?」
 「だって、その娘かわいそうじゃない。
 でも、私って彼女があることは伝えなきゃダメ。隠さないで。それでも、浩之の事あきらめられないって言うなら・・・ してあげてもいいよ。
 私は、浩之に対する想いで 誰にも負けないって自信あるから。」
 「おい、なんか矛盾したことばっか 言ってねぇか?」
 「いいの。」
そう言うと、綾香は 全てを俺にあずけてきた。俺は、抱きしめて綾香に応える。
 「苦労かけるな。」
 「うん。」
 ゆっくりと、綾香をベットに横たえる。淡い下着姿の綾香が、俺だけに見せる表情がある。
 「やっぱり、恥ずかしいな・・・ 。」
 「綾香らしいな。」
 「そんなこと・・・ ない。女の子だったら、誰だって大胆さと恥じらいを合わせ持ってるの。」
 「そうなんだ。」
 俺も服を脱ぎ捨てると、綾香に肌を重ねる。やわらかく、温かい感触。
 「んっ・・・ 。」
 唇の感触も、心地いい。
 綾香の温かさが、俺を包んでいく。
 「いいよ。きて。私が、癒してあげる。」
 綾香の下着を脱がすと、・・・ その肢体に手を滑らした。
 「くすぐったいよ、浩之。あっ・・・ いい。あんっ!」
 固く勃起した乳首。
 「あんっ、強く吸わないで・・・ 。ふふっ・・・ おっきな赤ちゃん。」
 心安らぐ反応。
 「あまり焦らさないで。私、ずっと我慢してるの。ああんっ!」
 「みたいだな。いじってもないのに、大洪水だ。」
 「私の身体は、高鳴りっぱなしなの。浩之に触れられているだけで、感じちゃうの。」
 俺は、綾香の脚の間に割り入ると、すっかり準備の整った秘所に俺のモノをあてがった。
 「あっ・・・ 待って。その・・・ 今日は、着けてほしいの。」
 そう言うと、綾香はどこに持っていたのか コンドームを差し出した。
 「ああ。」
 すぐさま、装着する。その様子を、ジッと見ている綾香。
 「なんか、可笑しいね。」
 「そう言うなって。」
 「ふふっ。」
 そうして、再び・・・ 狙いを定めて、モノを送り込んだ。
 「あっ、ああっ・・・ 入ってくるぅ〜。」
 ズヌッ
 拒むもののない密壺に、一気に挿入する。
 「あうっ!」
 「す・・・ すまん。」
 あわてて腰を引こうとする俺を、綾香が抱きしめる。
 「いいのよ。私は、だいじょうぶだから・・・ ね。もっと、浩之を感じていたいの。」
 綾香の優しさが、伝わってくる。こうやって包んでくれる人がいるから、生きていけるのだろうか 人間ってやつは。
 「綾香。」
 「あ、ああ〜・・・ いっぱいなの。浩之ので、いっぱいなの!」
 ちゅぷっ ちゅぷっ
 愛液が溢れだし、動きをスムーズにさせる。
 「くふっ・・・ いいの。浩之のが、いいのぉ〜。」
 「俺もだ。綾香の中、すっげぇー気持いいぜ。」
 「きゃふっ・・・ ああんっ!」
 「本当に俺達・・・ 身体の相性も良さそうだ。」
 「あんっ・・・ でしょ。抱いていて、こんなにも・・・ あっ・・・ しっくりくるもの。」
 綾香を抱くのは、これで二度目だというのに この親近感だ。
 「あっあっあっあっ・・・ だめぇ〜 もぉ〜 だめぇ〜。」
 「俺も、気持ちよすぎて イッちまうぜ。」
 「うんっ、イッて。私・・・ もう もうダメ。ダメなのぉ〜〜〜。」
 「うっ・・・ イ、イクぜ。」
 「はあ・・・ イク。イッちゃう〜・・・・ あああぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・ 」
 「ううっ・・・ 。」
 ギュッと、全身で俺を包み込む綾香。
 俺は、わだかまりとか・・・ 全てを吐き出すように射精した。
 俺の腕の中に、綾香がいる。全てを受け止めてくれる女の子が。悩むのは、もうよそう。
 ヌポッ
 「あん・・・ 気持ちよかったよ、浩之。」
 「ああ、俺もだよ。ありがとな、綾香。」
 「んっ。」
 幸せそうに横たわる、綾香。まだ、快感の余韻を楽しむかのように 身体の所々で筋肉がピクピクと痙攣している。
 「飲み物でも、持ってくるよ。」
 俺は、後始末をすると 部屋をでた。
 何かしてやるんじゃなくって、何か残ればいいんだろう。それで、少しでもセリオの思い出になればいいんじゃないか? きっと、それでいいんだと思う。だが、俺の自己満足で終わらないようにしなくては。
 「んっ・・・ あ・・・ だめ。」
 セリオの声か?
 「あ・・・ 」
 リビングを覗くと、セリオが何かをこらえるように声をあげている。どうしたんだ?
 「セリオ・・・ 。」
 「えっ? あっ・・・ きゃっ・・・ 浩之さん。」
 「どうかしたのか、セリオ?」
 「いえ・・・ その・・・ 」
 真っ赤になって、うつむいている。
 「な、なんでもないです。」
 「なんでもないこと、ないだろ? あんな声出してさ。それに、真っ赤だぜ。」
 「それは・・・ その・・・ 」
 「セリオ、俺は ロボットじゃないから 言ってくれないと何もわからないぜ。それは、セリオから見た俺にも言えることなんだがな。俺達に、データのやり取りはできないけど 言葉でお互いを知ることはできるんだぜ。」
 「そ・・・ そうですね。 ・・・わかりました。」
 本当に、普通の女の子みたいな反応をするようになった。もう、誰もロボットなんて思えないだろう。マルチみたいに・・・
 「私・・・ その・・・ 浩之さんと綾香お嬢様の声を・・・ 聞いていました。そうしたら・・・ 動いてもいないのに、身体が熱くなって・・・ 胸がドキドキして・・・ その、股の奥が疼いてくるような・・・ 切ないような気分になって・・・ 。浩之さん、私 どうしたのでしょうか? 壊れたのでしょうか?」
 潤んだ目で、俺を見つめるセリオ。そんな、切ない顔で俺を見ないでくれ。
 そっと、セリオの両肩に手を載せる。
 「キャッ!」
 ビクッとして、肩をすぼめるセリオ。かわいいしぐさだ。
 「盗み聞きしていたとは、悪い娘だな。」
 「す、すみません。」
 「それで、感じてしまったわけだ。」
 「感じるですか?」
 スッと、首筋に手を持っていく。
 「あっ!」
 敏感になっているようだ。
 「浩・・・ 之・・・ さん。」
 細かく震えるセリオ。たぶん、どうしていいのかわからないのだろう。
 「教えてやるよ。そのかわり、誰にも内緒だぜ。」
 「内緒ですか?」
 「ああ。」
 「はい、わかりました。」
 セリオは、覚悟を決めたのか? それとも、今の苦しい状況を抜け出したいだけなのか?
 「まずは、脚を開くんだ。」
 「脚ですか・・・ 。」
 恥じらうような、ゆっくりと脚を開かれる。そして、その付け根に俺は手を送り込んだ。
 「あっ!・・・ 」
 瞬間的に脚が閉じられて、俺の腕を挟み込む。それでも、また おずおずと脚を開いていくセリオ。
 「すみません。」
 「いいって。まあ、当たり前の反応だからな。」
 「そうですか・・・ あんっ!」
 俺の手が、足の付け根・・・ 股間を覆っている下着を触ると、ピクリと反応する。
 下着は、濡れて肌に張り付いている。
 「濡れているぜ、セリオ。お漏らししたみたいだ。」
 「えっ? 私・・・ 漏らしてるのですか? 私・・・ どこか、壊れているのですか?」
 「ははっ、違うよセリオ。これは、感じてしまったから 濡れているんだ。別に、おしっこじゃないぜ。そんなところも、マルチと一緒だな。」
 「そうなのですか?」
 「マルチもセリオも、限りなく人間に近く作られてるみたいだからな。セリオだったら、判るだろ。人間の女性の構造が。」
 「はい。」
 「ここの奥には、なにがある?」
 クニ クニ ・・・
 「あっ・・・ そこには・・・ あうっ・・・ 女性生殖器があります。」
 「そうだな。」
 クニ クニ ・・・
 「ああ・・・ そんなところ、もまないでください。おかしくなってしまいます。」
 「我慢しなくてもいいんだぜ。」
 クニ クニ クニ ・・・ クチュ クチュ
 湿り気が増していく下着。
 「あうっ・・・ 我慢なんて・・・ してません。ああっ・・・ お願いです。やめてください、浩之さん。私、壊れてしまいますぅ〜。」
 「そっか。」
 「あっ!」
 セリオの股間から手を離すと・・・ 俺を熱いまなざしで見つめる セリオ。
 俺は、セリオの手を持つと いままで俺が触っていたところへと 導いた。
 「浩之さん、なにを!?」
 「俺だと、加減がわからないから セリオを壊しちまうかも。綾香にどやされるのもなんだし。だから、自分なら加減がわかるだろ セリオ?」
 「でも・・・ 。」
 「セリオが、したいように触ればいいのさ。」
 「そんな・・・ 。」
 「だけど、直接触るんだ。」
 「・・・ 」
 あきらめたのか、我慢できないのか、おずおずと下着の中へと手を潜らせるセリオ。
 「見ないでください・・・ 浩之さん。」
 色っぽい声だ。セリオは、やっぱりマルチの姉妹だよ。
 もそもそと、下着の中で手が動く。
 「ああっ・・・ そんな・・・ どうなったのですか、私?」
 自分の刺激がわからなくても、その手の動きを止めようとしない。
 「それは、気持いいんだよ セリオ。」
 「気持いい・・・ ですか。 ・・・気持いいです!」
 おぼえたての快感を、むさぼるように手の動きが速くなる。
 「うくっ・・・ ああんっ・・・ ダメです。気持よすぎます・・・ あああ・・・ どうしたらいいのですか。あっあっあっあっ・・・ 指が、止まりません!」
 いつのまにか、空いていた片手が 胸を揉んでいる。
 「私の身体、どうしたのでしょうか? 勝手に手が・・・ ああっ! ダメです。このままだと、私 おかしくなってしまいます。壊れてしまいますぅっ!」
 俺の見ている前で、自慰を続けるセリオ。
 「んくっ・・・ 人間らしいですか? 私は、ロボットなのに・・・ ああんっ!」
 「ああ、そうだ。マルチも、そう言ってたけどな。ロボットみたいな人間がいるんだ。人間みたいなロボットがいたって、不思議じゃないぜ。」
 「浩之さん・・・ あううっ・・・ いやっ・・・ 気持よすぎて、壊れてしまう。いやっ、いやぁ〜 壊れてしまいそうです。ふわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・ 」
 ビクッ ビクッ ・・・
 初めての絶頂を迎え、痙攣しているセリオ。少しの痙攣の後、くったりとしてしまった。きっと、セーフティロックが働いたのだろう。
 「セリオ・・・ 。」
  安らかな寝顔を見せている。
 俺は、セリオの身なりを整えてやると ジュースを持って二階へとあがった。

 「遅かったね、浩之。」
 俺の帰りを待っていた、綾香。にっこりと微笑む顔が、俺の胸を貫く。
 「少し、セリオと話をしてたからな。」
 「ふぅん、そうなの。」
 いつものように、深く追求してこようとしない綾香の反応は、全てを見透かしているようで 怖いぜ。
 「本当に、人間らしくなったぜ セリオ。ほいっ。」
 「ありがと。うん・・・ きっと、好きな人ができたのよ。」
 「おいおい。」
 内心、ドキドキしている。
 「私だって、女の子だから セリオを見ているとそう思えるの。」
 「でも、セリオはロボットだぜ。それを、綾香は受け入れられるのか?」
 「そりゃ、ロボットは人間の役に立つために作られたんだけど・・・ あのセリオは、別よ。」
 「どうしてだ?」
 「わかってるくせに。マルチが、浩之にとって そうだったじゃない。だから、セリオは 私にとっても特別な存在なの。セリオは、私にとって友人や姉妹みたいなもんかな。それで、いいんじゃない。」
 「そんなもんかな。」
 「でも・・・ 」
 「なんだよ。」
 綾香が、俺の手を取る。
 「浩之は、その上を遙かにいく・・・ 私にとって、絶対的特別な存在。」
 「それは・・・ 。」
 優しく強い瞳が、俺を見つめている。
 綾香のことも、真剣に考えている。セリオのことだって、そうだ。だから、悩んでいたんだ。
 「浩之・・・ セリオのこと、好きなんでしょ?」
 「いっ?」
 「隠したって、ダメよ。そう、顔に書いてあるから。」
 一撃必殺の綾香の攻撃。
 「セリオも、たぶん あなたのこと好きよ。だから・・・ 」
 綾香は、わずかに表情を陰らした。
 「だから、セリオを人間の女の子として 扱ってあげて。セリオだったら、私 安心できるし・・・ 。」
 「そんなこと言ったら、綾香は セリオをロボットとしか見ていないように聞こえるぜ。」
 「あ、ごめん。そうだよね・・・ でも・・・ 」
 「わかったよ。俺は、セリオが好きだ。でも、綾香への気持ちは 少しも変わってないぜ。」
 「そんなのずるいっ!」
 「そうかもしれない。だけどな、それが 俺の素直な気持ちなんだ。セリオをみていると、ほっとけなくて。」
 「わかる気がするけど・・・ 納得できないっ!」
 「矛盾だらけだぞ、綾香っ!」
 「う〜・・・ 」
 「わかったよ。俺なりに結論をだすから、少しの間待ってくれ。」
 「ホント?」
 「ああ。」
 俺も綾香も、わかっている。セリオのテスト期間が終わるまで。それが、全てだと。
 その先なんて、わからない。今が、すべてだと思える瞬間があったとしたら、たぶん この数日がそうなのかもしれない。

 そして、セリオに会えずに 数日が過ぎた。

 俺は、ただ焦るばかりだった。会えないいらだち。やり場のない気持ち。そんな俺を気遣って、あかりが いろいろと世話を焼いてくれるけど それも煩わしいだけだった。
 「俺らしくないな。」
 そんなことは、わかっている。だけど、口から漏れてしまう。
 身体が、重く感じられ 何もやる気がしない。
 ソファーに、身体が同化したみたいだ。
 プルルルル・・・・・・
 電話?
 プルルルル・・・・・・
 あかりか? 志保なら、出るのさえ嫌だ。
 プルルルル・・・・・・
 ほっといてくれ!
 プルルルル・・・・・・
 ・・・
 プルルルル。。。。。。
 たくっ!
 プルルルルルルル・・・
 ガチャッ
 「はい、藤田です。」
 「あの・・・ 浩之さんですか?」
 「!?」
 「セリオです。」
 「セリオ? セリオなのか?」
 「はい。」
 「どうしたんだ?」
 胸が高鳴る。心臓が、ドクドクと波打っている。
 「あの・・・ これから、そちらに伺ってもよろしいでしょうか?」
 「えっ!?」
 「ご迷惑でしょうか?」
 「そっ、そんなことないぜ。うん。歓迎するよ。」
 「そうですか。よかったです。」
 「どこにいるんだ? 迎えに行くぜ。」
 気が焦る。我慢できないほどだ。
 「いま、公園の電話ボックスにいます。すぐに着きますから。」
 「あ、ああ。」
 なぜか、気持ちとは裏腹に 引いてしまう。セリオの言葉に、力が隠っていたと感じたのだろうか。
 「それでは。」
 カチッ
 ツーツーツーツー・・・・・・
 セリオが来る。何を言うために・・・ 何を・・・・・・

 「浩之さん・・・ 私、どうしても あなたに会っておかなければならないと思いまして。」
 いま、目の前にセリオがいる。
 「すみません・・・ 私、あれから浩之さんのこと 避けていました。」
 「・・・」
 「会って、これ以上浩之さんのこと好きになってしまったら 私・・・ 壊れてしまいそうで。」
 「セリオ・・・ 。」
 「でも、会わないでいようとすることが 苦しくて。それで、綾香お嬢様に相談しましたら 会いに行きなさいと 言われました。そうすれば、すべて解決できると。」
 「綾香が?」
 「私、浩之さんのこと好きです。これは、恋というものなのですよね? 愛してるってことでもあるのでしょうか?」
 セリオからの告白。熱っぽい言葉。
 「俺も好きだよ。」
 「えっ!?」
 「それと、愛してるというのは 好きの最上級系と思えばいい。」
 「それでしたら・・・ 私は、浩之さんを愛してます。」
 「ありがとう。俺もだぜ、セリオ。」
 「本当・・・ ですか? でも、浩之さんは・・・ 綾香お嬢様を愛していらっしゃるのではなかったのですか?」
 セリオは、自分が告白したこと自体 綾香を困らせたと思っていないのだろうか。それよりも、自分の気持ちを整理させることを 優先させたのだろうか。
 「いいんだよ。俺は、綾香も愛してるから。ずるいかもしれないが、それが 俺にできることなんだ。」
 「ずるいのですか? なぜですか? 私には、わかりません。
 結婚なさっているわけではありませんから、不倫にはあてはまりませんし・・・ 浮気ですか。世界には、一夫多妻制を認めている地域もありますけれど。」
 「・・・セリオ、そういうことじゃないんだ。こういうことは、データでは表せない心の問題にあてはまるもんだぜ。」
 「そういうものなのですか。難しいです。」
 「いいんだよ。セリオは、自分の想いを伝えに来た。俺は、その想いに応えてやれる。ただ、それだけのことさ。
 綾香と俺の間にあることは、また 別の問題なんだ。」
 「 ・・・それで、いいのですか?」
 「いいのさ。」
 「わかりました。」
 ニコッ
 セリオは、少しだけ安心したように微笑んだ。
 俺としては、このようにしか応えてやれないが 心苦しくもなかった。このようにしかできない不甲斐なさ。それでも、運命の歯車は回っていく。これが、俺に課せられた流れなのか・・・
 「セリオ。」
 「はい。すべてお任せします。その・・・ 私を愛してください。」
 そう言うと、セリオは目を閉じた。そして・・・ 2度目の口づけ。
 「んっ。」
 セリオが、わずかに声を漏らす。
 「んんっ。」
 セリオの口内に舌を進めると、再び声が漏れた。セリオの柔らかい舌が、俺の舌先に感じられる。そして、おずおずとセリオも舌を差し出し 俺の舌に絡めてきた。
 「んっ、んんっ!」
 お互いの舌が、触れ合い絡み合う快感。自然と腕にも力が入る。
 「んはぁっ、私・・・ はあはあ・・・ ショートしてしまいそうです。」
 「何言ってるんだ。これくらいは、まだ序の口だぜ。」
 「そうなんですか・・・ 怖いですけど、がんばります。」
 がんばりますって・・・ そんなところは、まだまだロボットだな。
 力が抜けて、ポスッとベットに腰を下ろすセリオ。見るからに、息も絶え絶えの感じにもとれる。ディープキスに、完全に脱力状態のようだ。
 「あの・・・ 綾香お嬢様と、同じようにしてくださるのですか?」
 「そうだな。セリオが、望むならな。」
 「そうですね・・・ あの時の綾香お嬢様、とても幸せそうなお声をしていましたし・・・ 私も、そんな気持ちになれるのなら・・・ 。」
 「それは、セリオ次第だ。」
 こればっかりは、俺にもどうすることもできない。相手の想う力が、強くなければ・・・
 「私では・・・ ダメなのですか? 私では、役不足ですか?」
 「な、なにを言ってるんだ!」
 「私・・・ 浩之さんのこと大好きで。たぶん、これがお会いできる最後のチャンスだから・・・ だから・・・ 私・・・ 私・・・ 」
 オレンジ色の瞳から、涙が止めどなく溢れている。
 「俺のことが、そんなに好きなんだな。」
 「は・・・ い。」
 「ごめんな。俺、少し迷ってた。セリオの純粋な気持ちを受け止めてやるのが 怖かったかもしれない。
 ・・・セリオ、ありがとう。」
 「浩之さん!」
 涙を流しながらも、ニッコリと微笑むセリオ。
 マルチと同じで、純粋に俺を好きになったセリオ。今日で、会えるのが最後と言った。怖くないのだろうか?
 怖い?・・・ なにが、怖い? なにが怖かったのか?
 ああ、知らないから怖くないんだ。
 前しか見ていないから・・・・・・
 「あの・・・ 服、皺になるから 脱ぎますね。」
 そう言うと、セリオは 制服を脱ぎ始めた。脱いだ制服を、きちんと折り畳み 重ねていく。
 淡いオレンジ色の下着に包まれた、セリオ。
 「下着も、脱いだ方がいいですか?」
 「ああ。」
 「恥ずかしいですから、その・・・ 見ないでくださいませんか。」
 「ああ、悪ぃ。」
 背を向けた俺に、セリオは・・・ どんな想いを膨らませているのか。
 俺も、彼女を一人の女性として愛そう。
 「浩之さん。」
 すべてを脱ぎさったセリオは、布団に潜り込んでいた。
 「セリオ・・・ 。」
 俺も、すべてを脱ぎ捨てると セリオの前に立った。
 一瞬、俺のすべてを見たセリオは 恥ずかしそうに目をそらした。
 「あのっ・・・ あの・・・ 」
 あわてているセリオ。
 俺も、ベットに潜り込む。
 肌が触れ合う。温かい。
 「初めてなんだ。俺に、すべて任せてくれ。」
 「はい、お願いします。それとですね・・・ その・・・ ご主人様と呼んでもいいですか?」
 「?・・・ ああ、セリオがそう呼びたいなら かまわないぜ。」
 「ありがとうございます、ご主人様。」
 マルチも、そうだったが そんなことがなぜそこまで嬉しいのだろうか?
  俺は、彼女らを独占したいわけでもない。なのに、彼女らは・・・
 ぐいっ!
 「え!?」
 強引にセリオの身体に腕を廻し、抱きしめる。
 悲しいほどに真っ直ぐで、なにも知らない。だけど、なんでもわかってしまう。
 彼女も、また 人に頼っていかなければ生きていけない人なんだ。
 「セリオ、愛してるよ。」
 「私も、愛してます。ご主人様。」
 セリオも、また 俺を抱きしめてくる。
 「すべてを、教えてください。」
 目の前に、この一瞬にすべての華を咲かせようとしている少女がいる。
 「んくっ。」
 再び、熱い口づけを交わす。
 自然と、セリオの瞳から涙がこぼれる。
 「セリオ、泣いてるのか?」
 「変ですね。嬉しいはずなのに・・・ 涙が、止まりません。」
 「いいんだよ。俺が、拭ってやるから。」
 俺は、流れる涙を舐め取った。
 「あっ!」
 セリオへの愛おしさだけ。それだけが、今の俺を突き動かす。
 しょっぱい涙。
 涙の伝う頬への愛撫。そして、だんだんと下へと降りていく。首筋へ。そして、乳房へ。
 「ふわぁ、ご主人様ぁ。気持ちいいです。」
 押し寄せる快感と心地よさに戸惑いながら、俺の愛撫に応えるセリオ。
 さらに下へ・・・
 かわいいへそが・・・ そして、秘所が現れる。
 「ご主人様ぁ・・・ お願いです。セリオを、セリオをもっと可愛がってください。」
 美しい裸体をくねらせ、さらなる快感を求めている。
 「んあっ・・・ くぅ・・・ 気持いいです。」
 舌を下腹部にはわせながらも、固くしこった乳首への刺激を続ける。
 「ご主人様ぁ〜。」
 とろとろとあふれ出す愛液。それを、陰核に擦り付ける。
 「あうっ! あの・・・ な・・・ なにを!? あああ・・・ そこ、気持いいです。もっと、もっとお願いします。」
 さらなる刺激を得ようと、セリオの腰が浮き 突き出される。
 「そんなに気に入ったのかい? 羞恥心なんてないのかな?」
 俺の言葉に、ハッとするセリオ。
 「すみません。私・・・ 私・・・ 。」
 両手で顔を覆って、恥ずかしがる。そんなかわいい仕草が、セリオではないようにも感じられる。
 「すまん。意地悪だったな。セリオが、あまりにも人間らしいんで つい・・・ な。」
 「私が、人間らしいですか? 私は、ロボットです。人間には、なれません。」
 「そうだな。セリオは、ロボットだけど 世界に一人しかいない心を持ったセリオなんだ。俺は、セリオがロボットであろうが人間であろうが 関係ない。セリオが、セリオなら 俺はセリオを愛している。」
 「ご・・・ 主人様。」
 再び、俺はセリオへの愛撫を始めた。
 「あんっ・・・ あっあっ・・・ 」
 「・・・」
 「私・・・ マルチさんの気持ち・・・ いまだったら、わかるような気がします。いつまでも、いつまでも温かく包んでくださる浩之さんの側にいたい。でも、それは叶わない夢。変ですね・・・ ロボットの私が夢だなんて。だけど、それが少しの間でも叶おうとしています。これって、嬉しいことなのですね。」
 「セリオ・・・ 」
 そんな悲しいことを言うなよ。それが、本当に幸せだなんて思ってほしくないのに。
 俺は、セリオの脚の間に割り入った。
 熱い肉棒を、その意味さえ知らなかったセリオの秘所にあてがう。
 クチュンッ
 「あっ!」
 亀頭が、潜り込む。初めての感覚が、またセリオを襲う。
 「えっ!? なにをするのですか、ご主人様ぁ。」
 「なにって、これからセリオを愛するのさ。セリオも、俺を受け止めてくれ。」
 「 ・・・は・・・ い。」
 ググッ
 「あっ・・・ ああっ・・・ 入ってきます。えっ? えっ?」
 「俺のモノが、セリオの中に入ってるんだ。」
 「はい、熱いモノを感じます。私たち、一つになっているのですね。」
 「ああ、そうだよ。好きな者同士は、こうやってお互いを 感じるんだ。」
 「はい、感じます。とっても、とっても、嬉しく感じます。私の中、いっぱいです。」
 セリオは、自分の中に入ってるモノを感じていた。その素直な感想。
 「セリオの中、すっげー気持いいぜ。」
 キュッと、締め付けてくる。
 「私の中・・・ が、気持いいのですか?」
 「ああ、そうだ。」
 「あ、ありがとうございます。」
 紅くなるセリオ。
 「そろそろ動くぜ。」
 「はい、ご主人様の好きなようにしてください。」
 覚悟を決めたように、ジッと俺を見つめている。そんなに緊張しなくても・・・
 「ああ、優しくするから 任せておけって。」
 セリオの膣に入ってるモノをゆっくりと抜き出し、それが3分の2程抜けたところで また奥へと入れていく。
 「あっ、あああ・・・ はあっ・・・ 」
 身もだえしているセリオ。
 「んんっ・・・ くうっ・・・ はあんっ・・・ いいです。お腹の中が、熱くなってきて・・・ 」
 「俺も、気持いいぜ。」
 じゅぷっ じゅぷっ
 二人の結合部から、愛液があふれだし シーツへと垂れていき染みを作っていく。
 「んああっ、ご主人様ぁ〜・・・ 私・・・ 私ぃ・・・ はあああ・・・ 」
 俺にすべてを任せることによる幸せを、感じている女性がいる。
 「セリオ、愛してるよ。」
 「あはあっ・・・ 私もです。 ・・・あっ・・・ 私も、愛してま・・・ す。」
 出入れの速度が、自然と速くなる。
 チュプッ チュプッ チュプッ チュプッ
 湿ったいやらしい音が、リズムよく聞こえる。
 「あんっ・・・ だめ・・・ 私、おかしくなりそうです。」
 そう言いながも、自らも腰を動かし始めている。
 「感じてるんだね、セリオ。」
 「は・・・ い。感じてます。 ・・・あっあっあっ・・・ 感じてます。 ・・・いっぱい、いっぱい感じてます。」
 本当に幸せそうな顔をしている。
 「あっ!」
 ズンッと、奥まで射し込むと 一際大きな声をあげる。
 「ああっ・・・ 私の一番奥まで当たってます。」
 「そうだな。苦しくないか、セリオ?」
 「苦しいです。でも、もっとください。」
 じゅぷっ じゅぷっ
 「あ・・・ 私・・・ もう、どうにかなりそうです。」
 もう、限界が近いのか。
 そう言えば、俺もそろそろ・・・
 「あああ〜〜〜 真っ白になりそうです。私・・・ 私ぃ〜〜〜 」
 「イきなよ、セリオ。俺も、イきそうだ。」
 「はあっ・・・ はあんっ・・・ だめ、もうだめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜・・・ 」
 「うっ!」
 キュッと締まったセリオの膣に、とどめを刺されるかのように俺も限界に達して 中に大量の精液をほとばらせた。
 「んっ・・・ ああっ!」
 セリオは、最後の声をあげると くったりとした。
 「?」
 それと同時に、俺の下腹部に熱いものを感じた。
 プシャッ・・・
 その熱い液体は、セリオの中から次々とでて 俺にかかる。
 「ははっ・・・ 。」
 それは、セリオが失禁したのだった。
 「まいったな。」
 こんなところまで、マルチそっくりだとは。
 セリオが、全て出し尽くした後 俺は膣からモノを抜いた。
 トロォ〜
 モノが抜けた膣から、俺が放出したものが流れ出した。
 ・・・俺が愛した女性が、目の前にいる。それは、まぎれもない事実だ。過去ではない。現在だ。でも・・・ 未来は・・・ 。
 ブウ・・・・・・・・・ ン
 システムが、再起動したようだ。
 ゆっくりと、瞼が開いていく。
 「 ・・・浩之・・・ さん。」
 自分がどうしたのか、またわからないようだ。
 「気が付いたかい、セリオ。」
 「 ・・・はい。あの、私・・・ 。」
 「ああ、気を失ったみたいだ。」
 「そうですか。」
 まだ、目がうつろで 焦点が合ってない感じだ。
 「・・・」
 「あっ。」
 トプッ
 押し出されるように、セリオの膣から 精液が流れ出した。
 ゆっくりと上半身を起こす。
 「だいじょうぶか、セリオ。」
 「はい、だいじょうぶです。それと・・・ これは?」
 自分の中から流れ出す液体を、指ですくい取って見つめている。
 「それは、精液だ。」
 「これが、そうなのですか。不思議です。この中に、浩之さんのDNAが入っているのですね。」
 「D・・・ て、そうだけど。」
 「でも、残念です。私には、これを受け止めるものを作ることはできません。」
 セリオは、わかって言っているのか?
 「私は・・・ ロボットだ・・・ から。」
 そう言ったセリオは、自分の中から流れ出る精液を見ていた。
 俺は、声もかけられず 彼女をみつめるだけだった。ここで声をかければ、なにか壊れてしまうかもしれない恐れを・・・ 失ってしまうことを・・・
 そして、セリオは無言のまま 制服を着ると・・・ 汚してしまったシーツを洗い、濡れてしまった敷き布団を干した。見事なまでの手際の良さ。俺には、何一つ手を出せる隙さえなかった。
 ある物で作ってくれた夕食も、信じられない物だった。工夫次第で、料理は変化するのだと 初めて知った。
 でも、旨いのに・・・ なにか味気なく感じた。そこに・・・ 目の前にセリオがいるのに・・・ 俺達の間には、会話がなかったから。
 やがて、食事の後かたづけも終わって・・・ セリオが、
 「時間です。」
 と言った。あの人間らしいセリオの声ではなく、初めて会った頃のような機械的な物言いで。
 「バス停まで送るぜ。」
 「・・・」
 「セリオ?」
 「 ・・・いいです。送っていただかなくても・・・ いいです。」
 「セリオ・・・ 。」
 「帰ります。お元気で、浩之さん。」
 儀式的な別れの挨拶をすると、セリオは 帰ろうとした。
 「 ・・・セリオ、また会えるよな?」
 「・・・」
 俺の言葉に、ピクリと反応して立ち止まっている。
 「また会って、想い出を作ろうぜ。」
 「 ・・・もう・・・ 」
 「え?」
 「もう、お会いすることはありません。ですから・・・ これで、お別れです。本当にありがとうございました。」
 「なにを言ってるんだ! まだ、2日もあるじゃないか!」
 俺は、瞬間的に声を荒立てた。
 「いいえ、2日しかないのです。それだけしか。ですから、これでお別れです。」
 「どうして、そんなことを言うんだ セリオ。」
 「・・・」
 「もっと想い出を作ろうぜ。もっと、楽しいことを教えてやるよ。」
 「 ・・・しないでください。優しくしないでください。」
 それだけを絞るように声にすると、セリオは駆け出してしまった。
 「セリオ!」
 俺は、目の前から消えていくセリオを 追うことはできなかった。セリオが、最後に言った言葉”優しくしないでください。”。それが、俺の身体を動かそうとはしなかった。
 ガチャッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ パタン
 そして、玄関の扉の音だけが・・・ わかった。
 セリオは、行ってしまった。いや、帰ってしまった。彼女を必要としている人たちのところへ。彼女が生まれたところへ。

 その日の夜は、寝付けなかった。特に悩んでいたわけではない。そう偽っていただけかもしれない。

 昨日、セリオは これ以上俺に会うのを拒んだ。それが、彼女の願いならしかたない。
 俺は、綾香にも気をつかわせていたのに なにやってるんだか。
 そう言えば、今日も綾香を見かけないな。昨日、電話もなかったし。
 あいつと会えば、少しはこの憂鬱な気分も・・・
 「やあ、また会ったね。」
 そう声をかけてきたのは、以前この公園で話したことのある 白衣の男だった。
 「どうしたんだい? そんな難しそうな顔をして。」
 「?」
 「そんな顔をしていると、みんな君を避けていってしまうよ。」
 俺は、普段通りに振る舞っているつもりだったのに。
 そういえば、今日はあかりも寄りついてこなかった。志保でさえ、珍しくちょっかいをだしてこなかったな。
 「少し、話しでもしないかい?」
 「ああ。」
 今は、誰かと話しでもしていなければ やってられない。
 「ふむ・・・ 人は、なぜ想い苦しむんだろうね。友達のこと、勉強のこと、生活のこと・・・ つまらない、ちょっとしたことまで。なぜだか、わかるかい?」
 唐突な質問。17年しか生きていない俺には、理解しがたい質問でもある。
 「それはね・・・ 宗教的見方をすれば、”禁断の果実”を食べたからだとも言えるし、一般的に言えば 人は人だからとも言う。」
 「どういうことなんですか?」
 「悩みというものは、生物だったら 誰もが持っているものだと思う。だけど、人間ほど事細かく想い悩むことができるのは やっぱり人間だけだと思うね。それに、人間には それを受け入れるだけの心がある。」
 「心が?」
 「心が無ければ、悩み苦しむこともないと思うね。僕は、そう考えてるんだ。」
 「だったら、ロボットに心があったら どうなるんだ?」
 「そうだね・・・ ロボットは、プログラムがなければ動かない。心というプログラムがあったとしても、それは心じゃないと思うよ。」
 「心じゃない・・・ 。」
 「心というプログラムを作ったとしても・・・ 心ではなく、心を作って育てていく”器”でしかないと 僕は考える。人間や猿を見ていればわかるだろ? 成長していくにしたがい、心も成長していく。ただ、性格・生活環境・出会いなど それぞれのプロセスを経ているから この世には二人として同じ人間とかはいないんだよ。」
 「・・・」
 「僕には、君が何で悩んでいるかわからないけど・・・ もし、誰かが君の前から消えてしまおうとしているなら 見送ってあげればいい。言葉なんていらないさ。心という気持ちさえあれば、それで十分だってことさえある。それで、君たちにさらなる心の成長があれば また会えることもあるだろうさ。心なんて、想いなんて、そんなもんじゃないかな。」
 「・・・」
 「ちょっと、難しすぎたかな? さて、休憩は終わりだ。僕は、仕事に戻るよ。」
 「なんとなく・・・ 」
 「ん?」
 「なんとなく判ったような気がする。」
 「そうか。それはよかった。じゃ、失礼するよ。」
 「ああ。」
 俺は、去っていく白衣の名前も知らない男性を見送った。その姿が見えなくなるまで。
 そして、その人が言ったことを思い出していた。”この世に同じ人間とかはいない。”ということを。
 俺は、マルチとセリオを同じに見ていたのかもしれない。いや、同じに見ていた。だけど、それは大きな間違いだった。
 マルチは、素直だから なんでも表にでてしまっていた。
 でも、セリオは・・・ 表に出したくないために・・・ あのようにしたんじゃないのか?
 そんなことにも気づかず、俺は・・・
 そして、夜・・・ 2日ぶりに綾香の声を聞いた。
 「浩之・・・ 明日、3時なんだけど、通りのバス停まで来れる?」
 「綾香の頼みを、聞かないわけないだろ。なんとか抜け出していくぜ。」
 「ううん、私のためじゃなくって セリオのために来て。昨日、浩之のところから帰ってきてから ずっと変みたいなの。最初の頃に戻ったみたいで、なにも表情をださなくなったのよ。研究所の人も、原因がわからないみたい。」
 ズキンッ
 胸が痛む。会うのは怖いけど、会わなければならない。セリオの為にも。俺の為にも。
 「わかった。3時にバス停だな。」
 「うん。」
 その後は、いつも通り 今日あった事とか 恋人同士がする極当たり前の会話をしていたような気がする。
 そして、電話を切った。
 ”綾香も、俺も、今夜は眠れそうにないな。” それが、俺達の会話の締めくくりだった。
 それでも・・・ 部屋に戻った俺は、なんとか寝ようとして 布団に潜り込んだ。
 綾香との会話が、精神的ストレスを和らげたのか いつもより少し遅いぐらいに寝ることができた・・・ のか?

 ハア・・・ ハア・・・ ハア・・・
 なんとか抜けだしたぜ。まあ、HRを残すだけだったからな。
 3時に・・・ 
 坂を駆け下りていけば、会える。こんな時は、学校が丘の上にあったことに感謝するぜ。毎日、苦労して登っているだけはある。
 もう少しだ・・・
 綾香と出会って、少しは体力がついたとは思っているけど・・・ 流石にきついぜ。
 ハアハアハア・・・
 息が上がる。
 やっと、通りに出た。この先にバス停が・・・ 。
 綾香が、こっちに気づいて 手を大きく振っている。
 「来た来た。遅いぞぉ!」
 ハアハアハアハア・・・ ゼェ〜
 「ああ、なんとか間に合ったんだな。」
 「何言ってるのよ。間に合わなくったって、待っていたわよ。ねぇ、セリオ。」
 「・・・」
 話を振られても、俺の方すら見ず 街を見ていた。
 「セリオ・・・ 。」
 「はい、綾香お嬢様。」
 「 ・・・もういいのよ。無理しなくても、いいのよ。浩之は、セリオのこと・・・ 気づいたから来たんだよね。」
 ビクンッと、セリオは反応した。
 「ああ、そうだ。だから、謝りたくて。」
 「どうしてですか? どうして謝るのですか? 私には判りません。」
 俺の言葉に、やっと俺の方を向いてくれた。
 「俺は、セリオをセリオとして見なかった。」
 「私を私として?」
 「俺は・・・ 」
 綾香の方を、チラッと見た。綾香は、理解してか ”うんうん”と俺に頷いていた。
 「愛しているとセリオに言ったのに、マルチと同じに見ていた。マルチはマルチ。セリオはセリオなのに。それに気づいたから、謝らないといけないんだ。」
 「あらあら。」
 「セリオは、辛くなったから 心を隠したんだろ? だから、そんな態度を取って。俺は、そんなことにも あの時気づかなかった。ごめん、セリオ。」
 「なぜ、謝るのですか。私・・・ は・・・ 」
 声を詰まらせたセリオの・・・ オレンジカラーの瞳から、涙がこぼれ落ちる。
 押さえていた心の扉が、開け放たれたと感じた。
 「俺を好きになってくれて、ありがとう セリオ。きっと、また会えるさ。願えば、叶うよ。ずっと強く願えば、奇跡だっておこるさ。」
 「あら、おきないから奇跡なんじゃないの?」
 「ばかやろう。極わずかでも、本当にわずかでも可能性があれば、おこるんだよ。奇跡ってやつは!」
 「ふぅ〜ん、そうなんだ。」
 綾香にしてみれば、奇跡なんて必要ないのだろうな。天下無敵のお嬢様だかんな。
 「私も、信じたいです。でも、私には 私自身の未来を決めることはできません。」
 「だから、信じるんだ。」
 「そうします。けれど、私はロボットです。私には、私の役目があるのです。これから作られるであろう妹たちに、データを渡す役目が。
 ですから、またお会いできるまで どれだけかかるのでしょうね。」
 「マルチも、同じ事を言って 帰っていった。だから、俺は セリオに同じ想いをさせたくなかったんだ。だのに・・・ 。」 
 悔しさ、悲しさがこみ上げる。
 「いいのです。私は、浩之さんに愛されて どんなロボットよりも幸せでした。
 でも、それで終わりです。私には、もうそれ以上に望むものはありません。」
 心から、にっこりと微笑む セリオ。本心で言ってることは、わかっている。
 だからこそ、余計に悲しい。
 「セリオは、それでいいのか?」
 思わず言ってしまったセリフ。言うべきではないと、判っていた言葉。それでも、言ってしまったのは きっと俺自身・・・ 区切りをつけたかったのだろう。
 「はい。私は、ロボットですから。私は、ロボットですから 人様と同じような運命を辿ることはできません。ですから、先ほど申しました通り 私に課せられた役目を果たすこと それが私たちの幸せでもあるのです。
 でも、それ以上のことを知ってしまいましたけど。」
 「そうだな。」
 別れの時が、刻々と近づいてくる。後数分・・・
 「私も、好きよ セリオ。」
 セリオに抱きつく、綾香。
 綾香なりの別れの挨拶なのだろうけど、また会おうという意味合いも込めていると 俺は思った。
 「綾香お嬢様。」
 セリオも、綾香を抱き返す。
 時が止まってしまえばいいのにという流れの中、最後の時が訪れる。
 来栖川電工研究所行き。それが、バスの終着点。
 「お別れです。」
 そっと、綾香から離れる。
 セリオと出会ってから3週間。その全てが、幕を下ろそうとしている。
 「アンコールは、ありませんよ。」
 ちょっと微笑んで、冗談を言うセリオ。
 「そうだな。これで終わりだけど、また始まるんだからな。がんばれよ、セリオ。」
 「はい、ありがとうございます。」
 バスがやってきた。月からの迎えの使者じゃないけれど・・・
 「お元気で。」
 そう言うと、バスの中へとあがっていった。
 俺と綾香は、無言のうちに見送った。それは、もう余計な言葉がいらなかったから。
 舞台の終わり。閉幕。
 俺達の前から、どんどん小さくなって・・・ そして、消えてしまったバス。
 そして・・・・・・
 「ねぇ、私のこと 好き?」
 「ああ。」
 「そっか。」
 「はは、変な奴だな。」
 オープニングが、始まった。

 あれから2年・・・

 セリオとマルチの正式販売が決まり、その大々的なCMが 街中に溢れていた。
  予約も、好調のようだ。
 「そのうち、街中がセリオやマルチで溢れるのかな。」
 ショールームのガラスの向こうでデモンストレーションをする彼女らを見て、ふと思った。
 あの頃の二人が、思い出される。心を持った彼女らが・・・
 「いけねぇ! 綾香との待ち合わせに、遅れちまうぜ。」
 あれから、大変だった。綾香の奴、インタビュー中に ポロッと俺のことしゃべりやがったから、闇討ちや果たし状が続いて 気が抜けなかった。四六時中、気を張っていたからなぁ。
 綾香にしても、”言っちゃったことは、しかたないでしょ。でも、これで全国公認の仲になれたんだし。”とか ”実戦経験が積めていいじゃない。”とか言いだしやがったし。
 あれは、絶対に確信犯だ。
 まんまと、綾香にしてやられたわけだ。まぁいいさ。。。

 

 表通りから一本入った裏手。そこにあるビルの二階に、待ち合わせ場所の小さな茶店がある。街中での待ち合わせは、決まってそこだった。そして、今日も・・・
 カラン カラン ・・・
 時が止まったような店内に感じる、静かな流れ。そして、窓際に一つのテーブル。
 「いらっしゃいませ。」
 「こんちは、マスター。」
 初老のマスター。
 ”この店は、居心地の良いと言ってくださるお客様がくつろげられれば 私は幸せですよ。損得の問題ではありませんね。”と、言ったマスターの言葉を聞いたことがあるな。
 たしかに、俺には居心地の良い空間だ。
 「今日は、まだお嬢さん みえていませんよ。それに、テーブルにはご先客がおられまして。」
 「別に、俺達の指定席というわけじゃないから。気ぃ使わないでくれよ。」
 「はい。では、いつもので。」
 窓際にある、一組だけのテーブル席。そこに、一人だけ客がいるようだ。逆光で顔はわからないけど、体型からすると女性のようだ。
 それにしても・・・ どこかで会ったことのあるような・・・ 。
 そう思って、女性を眺めていると 彼女はこちらを振り返った。
 俺が見ていたことに、気分を悪くしたかな?
 あわてて、視線を逸らす。
 その女性は、ツカツカと俺に近づいてくる。文句でも、言いに来たか?
 「浩之さん。」
 「え?」
 「お久しぶりです。お元気のようですね。」
 そう声をかけられて、俺は振り返った。
 ゆっくりと、俺の目に入ってきた顔は・・・
 「セリオ・・・ なのか?」
 「はい。」
 センサーアンテナをつけていないが、間違いなくセリオだ。それも、あの”心”を持った。
 「綾香お嬢様の代わりに来ました。」
 「そっか。でも、その耳はどうしたんだ?」
 「はい。人間の女性として会ってきなさいと、言われましたので 取り外してきました。」
 「そうだったのか。」
 「でも、不安です。サテライトシステムも使えなくて、私は何の能力も無いのですから。」
 ロボットとしての基本能力だけだと、人間と変わらないのだろう。
 セリオを見ていると、あの凛々しい表情とは正反対の なんとなく不安そうな雰囲気を漂わせた女性の表情をしているのがわかる。
 「なんの能力もないか・・・ 俺は、その方が 今はいいぜ。」
 「なぜですか?」
 「俺が、主導権を握れるからな。」
 「そんな・・・ 。」
 「まあ、いいさ。それより、今は何してるんだ?」
 「今ですか・・・ 浩之さんと、お話しています。」
 「そういうことじゃなくて。」
 「わかってますよ。冗談です。今は、来栖川本家で 綾香お嬢様付きのメイドをしています。私のご主人様は、綾香お嬢様なのです。」
 「綾香のやつ、何も言わないんだぜ。」
 「はい、知ってます。秘密にしておいた方が楽しいから、と言ってました。」
 あいつらしいというか・・・ もしかして、俺への当てつけもあるんじゃないか?
 ジッと、セリオを見る。
 「どうしたのですか、浩之さん? そんなに見つめられると、恥ずかしいです。
 それにしても、奇跡は起こりませんでしたね。私は、浩之さんと また会えると願っていたのに。」
 「そう・・・ かな? 綾香の意図的なものを感じるけど、こうして会ってるんだ。起きたと思うぜ。」
 「 ・・・はい。」
 「さて、どこか行きたい所はあるか セリオ?」
 「はい・・・ もし宜しければ・・・ その・・・ あの・・・ 浩之さんの部屋へ行きたいです。」
 「ああ、いいぜ。」
 「よかったぁ。では、すぐ行きましょう。」
 「おいおい。」
 喜びはしゃいで、俺の腕を引っ張るセリオ。こんな日が来たんだな、と心に響いた。
 そして・・・ 俺の顔を見て、にっこりと微笑むセリオ。
 「浩之さん、大好きです!」

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