綾香と出会って十年余、毎日を忙しく送っている。
 二人で、来栖川グループの資源開発部門を任され 世界中を飛び回り 資源探索に明け暮れいるのが忙しい理由だ。
 俺は、綾香の強引さと芹香さんの説得により 綾香と結婚することができた。子供は、まだだが。。。
 そして、今は 日本に戻っての一時の休暇を 楽しんでいる。久しぶりの日本は、とても落ち着いて見える。ここのところ、酷かったからな。
 潜水艇で北極海の氷の下を探索したり、南極大陸では 氷の下にある地面まで降りての鉱石採集。マダガスカル沖で、シーラカンスを生け捕りにしたり・・・
 ほとんど、トレジャーハンターみたいなことを繰り返してきた。
 日本にいると、本当に生きた心地がする。ゆっくりと過ぎていく時を感じながら、ソファーに身体をあずける。極楽だ。。。
 「ねぇ、浩之。」
 そんな俺に、綾香は話しかけてきた。湯上がりで、ほんのりと石鹸の香りを漂わせている。着ているベビードールからうっすらと紅潮した肌が浮かんでみえて、官能的だ。
 「ん?」
 「急な事なんだけど、明日から 一ヶ月程出張になりそうよ。」
 「えらく、急な話だな。それで、今度はどこへ行くんだ?」
 「ん〜〜、人類が行ったことのある 一番遠い場所ってとこかな。」
 「ふぅ〜ん。」
 今までが今までだったから、それ程驚くこともなく 冷静に受け止めることができる。まあ、綾香とだったら どこへ行っても退屈せずに楽しめる。不思議なもんだ。

 「おいっ、綾香!」
 「なによ。」
 「ここは、どこだ!」
 「来栖川スペースベース。」
 「じゃあ、この服はなんだっ!」
 「んもぉ〜、見てわかんないの? 宇宙服よ!」
 「 ・・・どこへ行こうていうんだ!」
 「昨日、言ったでしょ。人類が行ったことのある 一番遠い場所だって。」
 「地球上じゃ、なかったのか。」
 「誰も、そんなこと云ってないわよ。とに、世話焼かせないで さっさと中に入って!」
 「おわっ!」
 そういうと、綾香は 気密ドアの前で踏ん張っている俺を 中へと押し込んだ。
 「男なら、細かいことでごちゃごちゃ言わないの。」
 「そういう問題か!」
 「いったい、私と何年付き合ってるか 忘れたんじゃないの。」
 「おまえこそ、俺と何年一緒にいると思っているんだ。俺は、高所恐怖症なんだ。」
 「あら、初めて聞いたわ。それに、宇宙だと 上も下も関係ないわよ。」
 「ぐっ・・・ 」
 こいつに、言い訳が一切通用しないことは わかってはいるが・・・ こうはちゃめちゃだと、言わざるを得ない。いい加減、少しは落ち着いてほしいのだが。
 「ほらっ、そっちのシートに座って。」
 「たく、しょうがねぇな。」
 シートにもたれ掛かると、俺たちの後から続いていたスタッフたちが 俺の身体を 綾香をシートへと固定していった。
 心臓が、バクバク言ってるぜ。こっちは、そんな状況なのに 綾香のやつは鼻歌なんか歌ってやがるし。
 「綾香お嬢様、まもなくカウントダウンが始まります。」
 「んっ? その声は、セリオか?」
 「はい、そうです。お久しぶりです、浩之さん。」
 パイロットシートに座っていたのは、高校時代の綾香についていた試作型のセリオだった。
 そういえば、来栖川家で綾香付きのメイドロボとして扱われていたはずだが ここのところ見ていなかった。
 「おまえが、パイロットなのか?」
 「はい。」
 流石、セリオ。万能型っていうだけあるな。あれから、バージョンアップを何度も繰り返して 試作型にして最高性能を維持している。
 「私も、いますぅ!」
 サブパイロットシートから、マルチが顔を出した。
 「なんで、マルチまでいるんだ。」
 「えへへ、、浩之さんのお手伝いですぅ。」
 「お手伝いって・・・ マルチに、できるのか?」
 「だいじょうぶです。その為に、所長さんがこれを作ってくれました。」
 そう言って、マルチが差し出したのは 小学生の女の子が使うような真っ赤なランドセルだった。
 「ランドセル?」
 「はい。だけど、ただのランドセルじゃないです。貨物室にしまってある太陽電池パネルを付ければ、外での活動時間は大幅に延長されます。それに、無重力空間では ランドセルのバーニアスラスターで 自由に行動する事が可能です。さらに、オプションで マイクロミサイルポッドも付けられますよ。」
 「そんな物付けて、どうする気だ!」
 「あうっ、そんなこと言われましても・・・ 長瀬所長さんが、あった方がなにかと便利だからって。だから・・・ 。」
 「あの人は、いったいマルチで何を遊んでるんだ。」
 「それと、浩之さんを喜ばしてあげなさいって こんな服を。」
 そう言って出されたのは、猫耳のカチューシャと猫尻尾の付いたメイド服だった。
 「あのおっさんはぁ〜っ!」
 「はぁ〜・・・ 。」
 隣では、綾香がそれを見て ため息を吐いていた。
 「まさか、セリオも同じ物を持っているんじゃないだろうな。」
 「いいえ。」
 その返事に、なぜかホッとする。
 「モニターに映します。 ・・・私の場合は、テールスタビライザーがランドセルに付いてます。主兵装に、3MODEビームライフル。ハイパーバズーカは、通常弾・徹甲弾・散弾の3種から選択可能。対ビームコーティングを施してあるチタン・セラミック複合材のシールドが 防御装甲として用意されています。白兵戦用として、ビームサーベルもあります。そして、オプション兵器として フィンファンネルが10枚程。」
 「なんだよ、そりゃっ!」
 俺の考えが、甘かった事を痛感する。
 「対産業スパイ用だとか。お二人をお守りするための、必然的兵装だと説明を受けています。それと、普段のサービス用として 兎耳カチューシャとバニースーツも用意されています。」
 「セリオさん、すごいです。」
 モニターに映し出されたそれらを見て、俺は ただ呆れるだけだった。
 「過剰防衛と悩殺兵器か?」
 「なにやってんのよ、あの人は。。。」
 「まあ・・・ いいんじゃないか。おかげで、緊張がとけたぜ。」
 「そお?」
 「なあ、ところで 月に行くってどれくらいかかるんだ?」
 「なによ、急に。・・・う〜ん、途中で燃料補給もあるから 3日ってとこかしらね。燃料補給で、船外活動もあり得るわよ。」
 「はぁ。で、月ではどうするんだ。」
 「量産型セリオが先発して、基地設営してくれているわ。そこへ、私たちは行けばいいの。全て、セリオがやってくれるから 到着までそうやることはないわね。
 月に到着してからは、まず鉱石採集。できれば、鉱脈を発見できればいいし。あとは、月面探検ってとこかしら。なにがあるのか、楽しみねぇ〜。」
 「そおか?」
 「なによ、月旅行だっていうのに。少しは、楽しみなさいよ。」
 「へいへい。たのしゅうございます。」
 「とに、もぉ〜・・・ 。」
 「ははははっ。」
 俺たちの生活は、これからもこんな感じで続くのだろうか。まあ、それはそれとして いいんじゃないかと思う。
 俺と綾香・・・ ずっと、飛び回って 未来へと駆けていくのだろう。刺激ある生活と、お互いの気持ちを確かめながら。いつまでも、いつまでも・・・
 「カウントダウン、入ります。」
 「おう、やってくれっ!」
 「ワクワクします!」

END

BACK