「ふぅ〜。さて、風呂でも入るか。」
ピンポーン・・・
「? こんな時間に誰だ。たく、しょうがねぇなぁ〜。」
面倒くさいが、でないわけにはいくまい。
「はい、どなた?」
「浩之ちゃん・・・ 」
ドアを開けると、そこにはあかりが立っていた。
「どうしたんだ、こんな夜遅くに。それに、その荷物は?」
あかりは、大きな鞄とクマのぬいぐるみを持っていた。
「あの・・・ あのね・・・ その・・・ 」
あかりは、顔を伏せがちにして 何か言いにくいのか 言葉がでてこないようだ。
「どうしたっていうんだ、あかり。」
「あの・・・ あの・・・ あっ!」
あかりが、急に前につんのめるように動いた。あかりの後ろに、人影が現れた。
「あかり、しょうがない娘ね。」
あかりの母親だった。 「こんばんわ、浩之くん。今日から、あかりの事よろしくね。」
「へっ!?」
「落ち着いたら、あかりから詳しいことは聞いてちょうだい。私は、たぶん そのうちこういうことになるんじゃないかって思ってたけど。主人が、むくれちゃってね。」
「???」
「ちょっと、早かったわね。せめて、高校を卒業してからにしてくれればね。まあ、なっちゃったものはしかたないわ。浩之くん、後よろしくね。おやすみ。」
「あ・・・ あの・・・ 。」
「あっ、そうそう。ご両親には、連絡して了承していただいたから。事後報告で悪いんだけどね。」
あっけにとられている俺を後目に、おばさんは帰っていった。残されたあかりは、顔をあげようとしないし。いったい、何が起こったんだ? あかりをよろしくだって? それって・・・
「あのね、浩之ちゃん・・・ 。」
「まあ、こんなとこではなんだから あがれよ。」
「うん。」
なんか、雰囲気が重い。あかりから、理由を聞きたくない雰囲気だ。
あかりが来るまで座っていたソファーに、また深々と腰を沈める。
「さてと、どうしたんだ あかり?」
向かい合うように座ったあかり。明るい居間にきて、初めて目元が赤くなっていることに気が付いた。
「言いにくいことなのか? ・・・泣いていたんだろう? 辛いことなのか?」
あかりが、急に顔をあげる。’なんでわかるの?’という、顔をしている。
「なあ、あかり。俺たち、幼なじみから 恋人になったんだろ? これからも、ずっと一緒にいようて決めたじゃないか。だったら、何でも遠慮しないで話せよ。」
少しでも話す決心がつくように、なだめるように話すことが いま一番いい話し方だと思う。
「うん・・・ 」
「いいか、あかり。俺は、どんなことになろうと お前とずっと一緒にいるって決めたんだ。だから、これからお前にどんなことを言われようが 突き放すような真似はしない。
あかり・・・ もっと、俺を信じろよ。」
「うんっ!」
やっと、あかりに元気さが戻った。あのままじゃ、俺だって逃げだしたくなる。でも、あかりの前でそんなことできないからな。
「あのね・・・ その・・・・・・ できちゃったの。」
「は? なにができたって???」
「赤ちゃん。浩之ちゃんとの、赤ちゃんができちゃったの。」
「なにぃ〜〜〜っ!!!」
「あうっ、ごめんなさい。あの時、勘違いしてて・・・ その・・・ 超危険日だったの。」
一瞬、放心状態になったぜ。それにしても・・・
「どうしたらいいかわからなくなって・・・ 。それで、浩之ちゃんに相談しようかと思っていたのに お母さんの前で吐いちゃって。ばれちゃったの。」
なるほどね。そういうことだったのか。これで、話しが繋がったぜ。
「あのな・・・ お前、責任を全部一人で背負い込もうとしてないか? 少なくとも、責任の半分は俺にあるんだぞ。それを、一人で悩みやがって。すぐに俺のとこに来ないから、ややこしくなるんだ。とに、しょうがねぇなぁ。」
俺は立つと、あかりの横に座り直した。
「その・・・ なんだな。数年先の予定が、いろいろと飛び越してきちまったな。」
「うん・・・ 」
ホッとしたのか、あかりが体を預けてきた。
「このままじゃ、なんか 俺 格好悪いな。」
「ごめんね。。。」
「ま、いいさ。明日、お前ん家に挨拶に行くよ。叔父さんに、ぶん殴られるかもしれないけどな。」
「えっ!?」
「かわいい娘を貰うんだ、それくらいの代償は仕方ないさ。」
「そんな・・・ 」
あかりは、本当に心配している。どんな結果が待っているか、俺にもわからないが。
「まあ、応援してくれる人もいることだし。」
「そうだね。 ・・・ねぇ、怒ってないの?」
「なんでだ?」
「だって・・・ 」
あかりは、まだ不安なんだ。
「何を怒るんだ? 喜ぶの間違いだろ!」
「えっ!?」
「なあ、そんな暗い顔してんじゃダメだぜ。これから、いろいろとたいへんなんだから がんばっていこうぜ。じゃないと、子供が可哀想だって。」
「う・・・ うん。」
「とに・・・ なあ、あかり。俺のこと、どれくらい好きなんだ?」
「えっ? どれくらいって・・・ そんなのわからないよ。でも、浩之ちゃんが死んじゃったら 私も生きていられないくらい好きだよ。」
「俺も、あかりがいなくなったら 生きていけないくらい好きだぜ。そんな、あかりとの子供だから幸せにしなくっちゃな。」
「うんっ! いっぱい、いっぱい 幸せにして!」
「とに、現金な奴だな ははは・・・ 。」
俺は、あかりの頭をくしゃくしゃにした。
「ねえ・・・ みんなにも、報告した方がいいのかな。雅史ちゃんとか、志保とか・・・ 」
「しばらくは、黙っていた方がいいな。特に、志保に知れたら大事になる。あいつにだけは、絶対知られたらダメだ!」
「そうだよね・・・ 。」
ちょっと、寂しそうにするあかり。とに、しょうがねぇな。。。
「ばか。ずっと黙っていろって、言ってるんじゃないって。物事には、タイミングってものがあるだろ。だから・・・ それまでってことだ。」
「うん・・・ でも、志保 毎日電話してくるよ。もしかしたら、今日もしてきているかも。」
「げっ! あかり、すぐに家に電話しろ! んでもって、おばさんの口止めしておかないと。」
「うん、わかった。電話してくる。」
あかりは、あわてて玄関にある電話に向かった。俺は俺で、冷や冷やしている。雅史なら、なんとか黙っていてくれるが・・・ 。志保に知れた時の光景が、目に映るようだ。マシンガンのように囃し立てて、後先考えず引っかき回す光景が・・・ 。いかんいかん、それだけはなんとしても 防がなければ。そんなことを考えていると・・・
「浩之ちゃん・・・ 。」
「おう、あかり どうだった。」
「遅かったみたい。。。で、すぐに志保の家に電話したんだけど・・・ あわてて、家を飛び出していったって。」
最悪の事態だ。よりによって、一番知れてはいけない奴に 真っ先に知られてしまった。
「たぶん、こっちへ向かってるぜ あいつ。」
「うん。」
さて、どう対処したらいいものか。おっ? なんか、不思議と落ち着いてるな。爆弾娘がやってくるっていうのに。
「 ・・・ねぇ、浩之ちゃん。別に、普段通りにしていればいいんじゃないかな。隠し事なんかしないでさ。」
「・・・」
「志保、私たちのこと 心配してこっちへ向かってると思うの。だから、ありのまま全てを話せば きっとわかってくれると思うよ たぶん。」
「そうなんだろうけど・・・ あいつの格好のネタにされる事は、まず間違いないぜ。」
「うん・・・ 。」
「でも、たぶんだいじょうぶなんじゃねぇか?」
「えっ?」
「俺は、あいつに何を言われてもどうてことないし ネタにされようが それが事実なら否定することはない。だけど、あいつは・・・ あかりの事が好きだから あかりが困るようなことは きっと話さないと思うぜ。あいつは、あいつなりに考えてるんだろうな。」
「そんな・・・ 。」
「まあ、なんだな。とりあえずは、あいつが到着するまで・・・ 。」
あかりを、ゆっくりと抱き寄せた。さっきまでよりも、ずっとお互いの体温を感じる。
「うん。」
あかりは、張りつめていたものが無くなったのか 完全に体を預けてきた。
このあかりの中に、新しい命があるんだな。なんか、全然実感がわかないけど。事実なんだ。
これから、俺とあかり・・・ どんな困難が待っているのだろう。でも、あかりとなら なんとかなりそうな気がする。そんな気がする。
とりあえずは・・・
END