「由綺。」
 「冬弥君。」
 人混みの中を駆け寄る、冬弥。そして、抱きつく由綺。
 「冬弥くん・・・ 私・・・ 私、頑張ったよ。けど・・・ 」
 「うん。頑張ったね・・・ おめでとう。」
 二人の行為を見て、あわてて声をかけようとする 弥生。
 「由綺さ・・・ 」
 弥生を制止する、緒方英二。
 抱き合う由綺と冬弥を取り囲む、レポーターとカメラマンたち。
 「森川さん、その方は!?」
 フラッシュが絶え間なく焚かれる中、一斉にマイクが向けられる。
 「あ・・・・・・ 」
 事の重大さに、やっと気づく由綺。
 「あの・・・ この人は・・・・・・ 」
 由綺の言葉を聞き漏らすまいと、静まる。
 「由綺ちゃん、ダメじゃないか! 勝手に発表しちゃ。。。」
 静寂を破るように、英二が声を上げる。
 「由綺ちゃんは、恥ずかしいようだから ボクから発表するよ。
 彼は、”藤井冬弥”くん。由綺ちゃんの恋人で、今度デュエットを組んで デビューすることになってる。」
 英二の言葉に、回りは一斉にどよめいた。
 「緒方さん!」
 二人が、 声をあげる。
 ニヤリとする、英二。
 「いいんですか?」
 一人の若いレポーターが、前に出る。
 「なにが?」
 「音楽祭で優秀賞まで取ったトップアイドルが、恋人誓言ですよ! イメージダウンにも、繋がりかねないのでは?」
 英二は、溜息一つの間を置いて・・・
 「はたして、そういえるのかな?
 彼女のイメージは、こんな事くらいで崩れるようなものでしたか?
 それに、彼女だって普通の女性です。恋人くらいいたって、いいんじゃないですか。
現に、その恋人の為に頑張って 最優秀賞に届かなかったけど 優秀賞を取りました。
 まあ、これで特ダネ目当てで 私生活を探り回る人たちから 少しは解放されるしね。」
 レポーターの質問を、軽くかわす英二。だが、不思議な説得力があり 答えにうなずく者もみうけられた。
 当たり前の事を言える・・・ それで納得させるのが、英二のすごいところでもあった。
 「詳しいことは、後日お伝えいたしますので 今日は彼らをゆるしてやってくれないかな。」
 「もうすこしだけ・・・ 」といって、再び由綺と冬弥は取り囲まれて 質問責めに。
 「やれやれ・・・ 」
 英二は、あきれるしかなかった。
 そんな英二の横腹を、理奈が突っついた。
 「んっ!?」
 「にいさんって、意地悪ね。」
 「そうかい?」
 「だって、ふられた仕返しに あんな事しちゃうんだもん。」
 「気づいていたか・・・ 」
 「だって、兄妹だもの。」
 「そうか。」
 「でも、これで また手強いライバルができちゃったね。やれやれ・・・ 」
 絶え間なく焚かれるフラッシュを浴び続ける二人を見て、理奈はうらやましく思っていた。

 弥生の車の中・・・
 「藤井さん、明日 今後の事と契約について話したいと 社長からの伝言です。」
 「えっ!?」
 「なにか、不都合でも?」
 「時間は、あります。けど・・・ 」
 「けど?」
 「本当にいいんですか?」
 「と言いますと?」
 「俺が、由綺の側にいて。弥生さんは、反対なんじゃ・・・ 」
 一瞬、弥生が笑ったような表情を見せた。
 「由綺さんを守ってくれるのでしょう? それに、由綺さんがより成長するために あなたが必要である事もわかりました。
 ですから、社長の決めた事に 反対はいたしません。」
 「そうですか・・・ 」
 寄りかかり、安心仕切って寝ている由綺を見て 決心する冬弥。
 「選択の余地はないんでしょうけど、由綺の為にも あの話は承けるつもりです。それで、いいのでしょう?」
 「はい。」
 弥生は、不思議な笑みをこぼした・・・・・・

 そして・・・

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