その日、彼女(ミルク)はやってきた。
 臨時のアシスタントで彼女の部屋を訪れたことはあったが、彼女からやってくることなど 初めてのことだった。
 部屋の前に立つ彼女は、傷心しきった面もちをしていた。疲れ切った姿を見たことはあったが、その時とは 明らかに違った雰囲気を漂わせていた。
 「今晩中に仕上つげないといけないしごとがあるの・・・ 手伝ってくれるかな?」
 無理に微笑みをつくっている彼女に、断る言葉はでなかった。
 「どうぞ、散らかっているけど 一晩くらいなら我慢できるよね。」
 「男の人の部屋だもの、ある程度は想像つくけど。」
 部屋へあがった彼女は、一通り部屋を見渡すと チョコンと座り込んだ。
 「汚くて、びっくりしたろ。やって来るなんて知っていたら、少しは片付けておいたのに。」
 「ううん。女の子が一人で住める所じゃないって言っていたから、もっとすごいところかと思ってたんだけど。案外、まともなところで かえってびっくりしてたの。」
 「どんなとこを想像していたのかは、聞かないことにしましょ。」
 お互いの言葉に、笑い始める二人。
 わざとおどけた口調で答えることで、いくらかは和んだようだ。
 「さて、先生には こちらの机を使ってもらうことにして テーブルをださんとな。」
 隅で、本の下に埋もれていたテーブルを掘り起こす。
 「あのね、そんなに気を使わないでほしいの。お客様じゃないんだから。」
 「そういう理由には、いかないよ。先生らしくないなぁ〜。それに、効率よくやって 終わらしてしまいましょ。」
 「そうね・・・ らしくないか・・・ 。」
 ゆっくりと、椅子に腰掛けるミルク。
 背中に哀愁を漂わせている彼女に、問いかける勇気はなかった。
 「先生は、仕事を始めていてください。私は、飲み物と摘む物を買ってきますから。」
 出ていこうとする俺に、「あの・・・ ちょっと待って!」と 引き止める声がかけられた。
 「あのね、お願いがあるの。そのね・・・ ここを見つけるのに歩きまわっちゃって、いっぱい汗をかいて 服が湿気っちゃって。それでね、服貸してほしいんだけど いいかな?」
 先程から、男臭かった部屋に良い香りがすると思ったら 彼女の汗と共に気化した香水の香りだったようだ。
 「そこの押入から、適当に出してください。それに、シャワーも浴びた方がすっきりするよ。まあ、1時間ほどでてますから 先に始めていてください。」

 アパートを後にして、一服しながら あれでよかったのかと考えてみた。とりあえず、彼女に落ち着いてもらう為にも わずかでも席を外す必要があったのだろう。

 いろいろな想いが巡る中、時間は過ぎていく。
 ふと見上げた東京の空は、あいかわらず星が見えなかった。
 「満点の星空の下、のんびりとあの頃のように過ごしてみたいものだ。フゥ〜ッ・・・ 。」
 溜息と共に、今の生活とは違った過ごし方に想いをはせる。単純な日々が、こんなにも自分を変えていたのかと 気づくこともなかった日々。それが、ここぞとばかりに沸き上がってくる。

 部屋の中では、短パンにYシャツ姿のミルクが 机に向かっていた。
 「ただいま、帰りました。」
 「おかえりなさい。これ、借りたからね。やっぱり、男の人の服よね。ずいぶんと、ダバダバ。」
 緩くて落ちそうになる短パンをなおす、ミルク。
 そのスラッと伸びた脚は魅力的で、彼女の仕草は 俺を誘惑しているかのようだった。
 「動きやすくていいでしょ。
 さて、飲み物も買ってきましたから 気合い入れてがんばりますか。あと、どれくらいなんですか?」
 「明日のお昼までに、あと3枚。下描きは、終わっているから。」
 差し出された原稿を見て、これなら朝までに終わりそうであった。
 「さあ、がんばりましょうね。いつものようにお願いね。」
 元気を取り戻したような仕草をみせるミルクであったが、やはり何かが違っている。雰囲気だけでなく、線の一つ一つにも変化が現れていた。気持ちの変化というものは、こうも作品に影響を与えるものかと しみじみ考えさせられた瞬間であった。とりあえずは、その影響を最小限にとどめるのが 今の俺の役目だと感じた。

 空が白々としてきた頃、原稿は完成した。ほとんど何も話さず、黙々と作業を進めた結果だった。
 「終わったわね。」
 「ああ、終わりました。」
 いつもと違う雰囲気の中で、よくあがったものだと感じた。それは、彼女も一緒であった。
 「1時に向こうへ着けばいいから、お昼までに出れば 十分間に合いますね。」
 「そうね。」
 いつもなら、ハイになって騒ぎ出すのに・・・
 「一寝入りしましょう。先生は、ベットを使ってください。俺は、床に布団を敷いて寝ますから。」
 「そんな、気を使わないでも・・・ 。私だったら、床でも平気よ。」
 「たまに、床でないと寝れないことがあるもので 慣れていますから。」
 「じゃあ・・・ お言葉に甘えて。」
 もそもそと布団に入っていく、ミルク。
 白み始めた空の光を遮る、厚手のカーテン。
 始発の電車の通る音が、聞こえてくる。
 「ミルクさん、電気 消しますよ。」
 一応、断ってから電気を消す。部屋が暗くなるのならば、返事はあるはずであった。
 ハッキリ言って、眠れるはずはない。かりにも、好意を持っている女性が 無防備で横になっているのだから。
 しかし、彼女にこの胸の内を伝えられない理由が 二つあった。
 一つは、彼女には 一応付き合っている人がいるとのこと。
 一つは、告白することによって 彼女との関係が崩れてしまうのを 恐れる気持ち。
 彼女は、押しが強い人が好きだと言っていたが 俺は押しが強い方ではないし、なにより 今のままで十分楽しいから このままでいいと考えていた。
 いろんな想いが、天井を見据える俺の脳裏を過ぎていく。
 「もえ、もう寝た?」
 突然発した彼女の声は、震えているようだった。
 「いいや。ずっとがんばってきたから、目が冴えてしまって 寝つかれなくて。」
 「そっか・・・ 。ねぇ、すこし話を聞いてくれるかな?」
 「ああ、いいよ。」
 いつもと違う声を発する彼女の助けになればいい、という軽い気持ちで答えた。
 「わたし・・・ 」
 言葉にするのを躊躇しているのか、なかなか声にならない。
 「わたし・・・ いま・・・ 付き合っている人がいるのは、知っているよね。その人が・・・ その・・・ 賭事に凝ってて、お給料のほとんどをつぎ込んでいて・・・ 」
 暗い部屋の中では、彼女の顔を見ることはできない。正面向いて話せそうもないこの話には、絶好の舞台かもしれない。
 「それで・・・ 私の部屋に転がり込んできているの。食事の世話、洗濯・・・ 日常的な事なら、まだいいんだけど・・・ 会社の仕事まで持ってきて、やっておけって・・・。
 つきあい始めた頃は、あんなに愛してくれたのに・・・ 今では、奴隷みたいに扱われているの。ううんっ、奴隷以下かも。私だって、仕事あるのに・・・ 。
 彼、漫画描いている事は 仕事としてみているようなんだけど 漫画自体は認めてないの。だから、いまでも 私の描いた漫画見ようともしないし。
 それに・・・ よく留守電に女の人の声が入っていて、問いただしても 関係ないの一言。
 いったい、私ってなんなのよ・・・ 」
 枕に顔を押さえつける、ミルク。
 「そうだったのか。最近、仕事とは別に・・・ なにか疲れているようなとこがあったけど、そんなことが。」
 暗い部屋の中、ジッと動かない二人。いや、かすかに震えている。悲しくて・・・ 悔しくて・・・ 切なくて・・・
 「お願い! 側に来て・・・ 」
 彼女の言葉に、俺は もう躊躇することはなかった。
 自然と彼女の枕元に座り、頭に手を置いた。髪の毛は、細く柔らかく指の間を通り抜けていく。
 その行動に、”ピクンッ”と 身体を反応させるミルク。
 「辛かったんだ・・・ 誰にも話せず・・・ ずっと、一人で耐えていたんだ。
 今は、俺がいるから ゆっくりとお休み。君が、目を覚ますまで ずっと側で見守っているから。だから、今だけは すべてを忘れて眠るといいよ。優しさと温もりだけが、いま 君に与えられることのできる俺の全てだから。」
 枕を掴んでいたミルクの手に一瞬力が入ったと思うと、急に俺に抱きついてきた。
 「お願い・・・ 今だけは、あなたの胸で泣かせて・・・ 」
 必死にしがみつき、胸に顔を押さえつけるミルク。シャツに、涙が 吸い込まれていく。
 俺も、彼女に答えるように ふわりと腕で包み込んでやる。
 「気にすることはない。泣きたいだけ、泣けばいい。それで、嫌なことを、忘れることができるのなら。」
 俺の言葉に促されるように、声を大きくして泣き出す ミルク。もう、これ以上ないというくらいに。
 「なんで、いつも私ばかり こんな辛い目にあわなくちゃいけないの! いつも、いつもそう、幸せな時は一瞬だけ・・・ ずっと続くような気がしてても、すぐに消え去ってしまうの。
 私は、幸せになっちゃだめなの? 幸せになっちゃいけない存在なの?」
 彼女の中に鬱積していたストレスが、嵐のように吹き荒れる。
 「そんなことはないよ。今苦しいのは、これから幸せになる為なんだよ。」
 「そうなの? 本当に、そう思うの?」
 「ああ、本当に思っているよ。」
 俺を抱きしめる彼女の腕に、”グッ”と力が入る。
 それに気づいた俺は、そっと優しく頭を撫でてやった。
 「ミルクさんは、本当にがんばっているよ。それは、みんなが知っていることだよ。ただ、真っ直ぐに 一生懸命にがんばりすぎたんだよ。ひたすらに・・・ 。
 だから、少しぐらいスピードを緩めたっていいじゃないか。たまには立ち止まって、自分の進んだ道を振り返ることも大切だよ。」
 何度も、何度も頭を撫でる手を、ミルクは そっと掴んだ。
 「あったかい・・・ こんなに温かい手は、久しぶり。こんなに優しくされたのも・・・ 」
 ミルクは、掴んだ手に そっと頬を寄せた。
 「なぜ、あなたの手は こんなにも温かくて優しいの?」
 「それは、本当にミルクの事を想っているからだよ。」
 もう、迷いはしない。俺も、想いの全てをさらけ出すだけだ。
 「本当に? 本当に、私だけを想ってくれる? 私だけを、見ていてくれる?」
 俺の手を掴んだミルクの手が、震えている。きっと、不安なんだろう。
 そっと、キスをする。
 「ん・・・・・・・・・・・っ。」
 その一瞬で、全てが繋がった。
 「俺は、複数の女性と付き合える程器用じゃないし する気もない。俺は、一途なとこがあるしね。バカと言えば、バカなんだけど・・・ 。」
 「ううん・・・ そんなことないよ。素敵だよ!」
 お願い・・・ 抱いて! 私の全てを、あなたの物にして!」
 また、ミルクの大きな瞳から 大粒の涙がこぼれ落ちる。
 「もう、それ以上言わないで・・・ 」
 再び、口づけを交わす。お互いの気持ちを確かめあうように、優しく、力強く、そして心を震わせるほど深く。
 「ちょっと、しょっぱいな・・・ 。」
 「バカッ! 涙のせいよ。」
 唇による愛撫は、首筋へと移っていく。それと同時に、Yシャツのボタンをゆっくりと外していった。
 どうやら、こうなることを予想してか 着替えた時にブラジャーは外してあったようだ。白い肌の豊満な乳房があらわれ、手に吸い付いてくるような感触を覚える。ふわふわとして、それでいて 手に張り付いてくるような張りのある触り心地。まだ、ピンク色を失っていない乳首。ゆっくりと揉み始めると、待っていたかのように 乳首は固まりを増していく。
 「あっ・・・・・・ 」
 口に含んだ乳首を、飴玉しゃぶるように舌で転がす。
 「じらさないで・・・ 」
 「じっくりと、君を食べていきたいんだけどね。」
 「恥ずかしいなぁ〜、もぉ・・・ 」
 ミルクの白い肌が、少しづつではあるが ピンク色へと紅潮し始める。
 「綺麗だよ。この白い肌も、この小さなキズも。」
 乳房の下部に、隠れるようにあった小さなキズ。そんなキズでさえ、優しく愛撫していく。
 「あはっ、気づいちゃった? それはね、ちっちゃい時 転んでできたキズなの。運が悪かったのよね。転んだ先に割れたビンがあって、切ったの・・・ 」
 恥ずかしそうに、キズを隠すミルク。
 そっと、その手を外し また優しく愛撫する。
 「言っただろ! 綺麗だって。恥ずかしがる事はないよ。君の全てなんだろう?」
 ミルクの瞳から、三度大粒の涙がこぼれ落ちる。
 「うんっ。」
 ふわりとして、やわらかい胸を通り過ぎ スリムに引き締まったウエストへと下がっていく。
 ポツンとへこんだ、小さなおへそ。その下には、薄い毛で覆われた恥部が 今までの愛撫により潤っていた。
 右手を股の内側に入れると、スッと開いていく。
 サワサワと、恥毛の感触を確かめながら 局部へと手を運んでいくと、潤っていた膣口へと中指が 吸い込まれていった。
 「んあっ。」
 ”ピクンッ”と、身体を反応させ 仰け反らせるミルク。
 上方では、ヒクヒクと包皮から顔を覗かせたクリトリスが愛撫を求め、 下方では ピクピクと収縮を繰り返す菊口が 何かの侵入を求めているかのようだった。
 抜き差しを始める指に、快感の波を増幅していくミルク。
 「あ・・・ ああっ・・・ なんで・・・ こんなに感じるの?」
 今まで味わったことのない快感に、戸惑うミルク。
 「んっ・・・ あっ・・・ ああっ!」
 親指で、押しつぶすようにクニクニと愛撫されるクリトリスの快感に 一段と声をあげる。
 「お・・・ お願い! あなたのをいれて・・・ じゃないと、私 感じすぎてイッちゃう・・・ 」
 ミルクの言葉で、愛撫をやめ手を離すと ”ツゥーッ”と愛液が糸を引いて落ちていく。
 脚の間に割りいり、割れ目の両側を左右に指で軽く押し広げると 女裂がゆっくりとめくれあがるように開いていく。ネットリとした蜜が、お尻の方までしたたり落ちている。
 密を溢れさせたクレヴァスに、勃起した物の先端をあてがい ”グッ”と押しつけた。”ズッ!” 一気に半分ほどが埋まる。さらに腰を入れて根本まで押し込むと、温かい感触がペニス一杯に感じられた。
 「クゥ〜ッ、あっ、あっ、あんっ・・・ 」
 ミルクの腕が、首に絡んでくる。
 「お願いっ! 愛していると言って!!!」
 「愛しているよ、ミルク。」
 お互いにっこりと微笑むと、熱いキスを交わす。深く、これ以上ないほどに深く。舌を絡ませ、お互いを愛撫し いとおしむ。唇を離すと、お互いを繋ぐように粘度の帯びた液体が 糸を引く。
 「いくよ、ミルク。」
 「ウンッ!」
 埋め込まれた肉棒をゆっくりと引き上げ、また ゆっくりと押し込んでいく。
 「ああっ・・・ いいっ! 気持ちいい。」
 ミルクの甘い声が、部屋の中に満ちていく。
 「俺もだよ。すぐにでも、イッてしまいそうだ。」
 「ダメよ。イク時は、一緒にね。」
 (けっこう余裕なんじゃないか?)
 抜き差しのスピードに変化をつけるたび、ミルクの甘い喘ぎ声が 部屋の中に木霊する。激しく腰が上下し、二人の快感を高めていった。ミルクは、腰に両脚を絡めてくると 自分からさらに腰を浮かせて 深く貪っていく。
 「ああっ、ダメ! も、もうイッちゃいそう! いっ、一緒にイッてぇ〜・・・ 」
 俺も、すでに限界に近かった。
 「イッ、イクぞ ミルク!」
 「きっ、きて! あっ・・・ あああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・ 」
 奥深くまで射し込むと同時に、子宮に熱い精液を振りまいて果てた。ミルクも、その脈動を感じながら 快感の頂きへと登りつめた。
 息を荒げながらも、再び熱いキスを交わし この時を離さないように”ギュッ”とお互いを抱きしめあった。

 一週間後

 「もえ、ミルク。今日ってさ、アシスタントの人 来る日だよね。」
 テーブルで、せっせとトーンを切り張りしていたクルミが言った。
 「そうなんだけど、遅いわね 彼。」
 いそいそとペンを走らす、ミルク。
 あれから、すぐに住んでいたアパートを引き払い 仕事場にしていたマンションに引っ越していた。彼と別れを告げ、新しい恋にいきる為に。
 おかげで仕事が溜まってしまい、シスターズを総動員して 製作に追われていた。
 「私、お腹減っちゃった! あの人の作る料理って、おいしいんだもん。今日は、期待してきたのになぁ〜・・・ 」
 集中線を描いていたマナが、ペンを休め お腹を抱えた。
 丁度、お昼時でもあったし 皆がお腹を空かしていた。
 「あれっ? マヤは、何処行ったの?」
 クルミも、デザインナイフを休める。
 「買い出しに行っていますよ。 ・・・それにしても、変ですね。おにいちゃん、今日 引っ越しのはずですよ。みんな、知らなかったんですか?」
 ワープロを打っていたミントが、不意に話に加わってきた。
 「そんなこと、聞いてないわよ。」
 クルミとマナは、驚いて声を上げたが ミルクは振り返るだけだった。
 「あんた、なんでそんなこと知っているのよ。」
 「ん〜とね、この前 お兄ちゃんの部屋へ遊びに行った時に・・・ あ・・・ 」
 あわてて口を塞ぐが、後の祭りであった。
 「ほぉ〜っ、男の人の部屋にねぇ。 ・・・詳しく話してもらいましょうか!」
 マナが、じりじりとミントににじり寄っていく。
 「なにしていたのかなぁ〜っ?」
 「なにって、アイドルプロジェクトのLD見せてもらって プレステやってただけなんですけれど。」
 「他には?」
 「お菓子、買ってくれたぐらいかな?」
 「何回ぐらい行ったの?」
 「5回かな?」
 「ふぅ〜ん・・・ ねえ、ミント。男と女が、一つ屋根の下で二人っきりになった時にすることって なんだか知ってる?」
 溜息混じりで、マナが問いかける。
 「う〜んとね、プレステで大対戦ゲーム!」
 元気よく、ミントが答える。
 ”ガクンッ”と、力が抜けるクルミとマナ。
 「えっ!? どうしたの?」
 ミントは、二人の反応が理解できなかったようである。
 「まあ、彼がロリコンでなかったということね。」
 「そのようですね、クルミさん。」
 顔をあわせる二人。
 「もえ、ミント。その話、本当なの?」
 それまで、話に乗ってこなかったミルクが 急に声を上げた。
 「はい、ミルクさん。ミルクさん達には、話してあるからって・・・ 。」
 「今日で、間違いないのね。」
 「はい。」
 「そう・・・ ちょっと出かけてくるから、あとお願いね。」
 ヘルメットを片手に、足早に出ていくミルク。それを見送る三人。
 「急に、どうしたんでしょうね ミルクさん。」
 マナは、あわてて出ていったので 不思議に思っていたが、クルミは 何か気づいたようだった。
 入れ替わるように、マヤが帰ってきた。
 「ただいまぁ。いま、ミルクが血相変えて出ていったけど どうしたの?」
 食料品を抱えたマヤが、三人に問いかけたが どう答えたらよいのか戸惑って 何も返す言葉が出ない。
 「どうしたのよ、あなたたち・・・ 」
 一人取り残されたマヤだった。

 「どうして・・・ どうしてなの・・・ 」
 スクーターを飛ばす、ミルク。
 「間に合って・・・ 」
 1時間はかかるであろう道のりを、必死になって駆け抜ける。
 「時間よ、止まってぇぇぇぇぇぇ・・・ 」

 「そういうことだったの。たぶん、クルミの考えが正しいと思うわ。だって、そうでしょ! あの一途なミルクが、彼と別れたって言うし ミントの話を聞いて 飛び出して行ったんでしょ。まず、間違いないわ。」
 三人の話を総合して、結論をだすマヤ。
 「それにしても、彼にも困ったものね。せめて、私にだけでも 転居先を教えてくれてもいいのにさ。」
 「どうしてですか?」
 「どうしてって・・・ そうねぇ〜・・・ 実は、彼を私も狙っていたんだ。」
 「じゃあ、失恋しちゃったんだ マヤさん。」
 「まっ、そういうことね。あははっ!」
 その時、チャイムが鳴った。
 「はぁ〜い、どちらさま?」
 ミントが、対応に出る。
 「今日、隣に引っ越して来た者ですが あいさつに参りました。」
 「それは、わざわざごくろうさま。」
 ガチャッ
 「やっ、ミントちゃん。」
 「お兄ちゃん、どうして?」
 「言っただろ、隣に引っ越してきたって。」
 「どうしたの、ミント?」
 ミントの声に異変を感じたクルミ、マヤ、マナの三人も、玄関にでてきた。
 「みなさん、来てたんですね。」
 「あなたこそ、どうしたのよ。今日、引っ越しなんでしょ。」
 「あちゃ〜、ミントちゃん しゃべっちゃったんだ。みんなを驚かそうと、思っていたのに。」
 「十分驚いたわよ。それで、どこに引っ越したの?」
 「隣に。」
 「そう、とな・・・ 隣ぃ〜っ!」
 「ええ。」
 「そういえば、さっき買い物から帰ってきた時に 運送屋のトラックが止まっていたわね。あれ、あなたのとこのだったの?」
 「はい。ところで、ミルク先生います?」
 「なに言ってるのよ。あなたが引っ越すっていうから、あわてて飛び出していったわよ。仕事、ほったらかしでね。」
 「まいったなぁ〜っ・・・ 」
 「まあ、いいわ。それより、私に考えがあるから・・・ 。」
 マヤは、なにかピンとくるものがあったようで うっすらと笑みをこぼしていた。

 コンッ コンッ
 この前と同じようにノックしても、返事のない扉の前に ミルクはいた。
 「返事してよぉ〜・・・・・・ 」
 人の気配がしない扉の前で、ただ、ただ、涙を流すだけだった。
 「もお、誰も信じられないっ!」
 傷心の中、ミルクは過去の事となったこの場所を 後にした。
 「どうなってもいい! 死んだっていい!」
 ガムシャラに、スクーターを走らせ始める ミルクだった。

 「やっぱり、こんなことぐらいじゃ死ねないのね・・・ 」
 暗くなった頃、マンションにたどり着いたミルクは 空を見上げてつぶやいた。
 そんなミルクに、近づく影があった。クルミである。
 「ミルク、おかえり。その様子では、間に合わなかったようね。」
 「クッ、クルミィィィィ〜・・・ 」
 クルミに泣きつく、ミルク。
 困惑しながらもクルミは、
 「ミルク、そんなんじゃ 彼に笑われるわよ。」


 「えっ!?」
 驚いて、顔をあげるミルク。
 「引っ越しの挨拶に来たのよ。ミルクがいないから、帰っちゃったけどね。」
 「あの人は、どこにいるの?」
 消えかけていた希望が、また 膨らみ始めたのだ。
 「ミルクのそんな姿見たら、からかう気がなくなっちゃった。 おいで、みるく! 案内して上げる。」
 ミルクの手を引き、マンションに入っていく。エレベーターを使い、いつも乗り降りする階で降りる。そして、行き着く先は ミルクの部屋の隣。
 「ここは、空いていたんじゃあ・・・ 」
 「引っ越してきたのよ。」
 ”スゥゥゥ〜ッ”と、扉が開いた。
 「おかえりなさい、ミルク先生。食事の用意ができていますよ。」
 再び、ミルクの瞳に 涙が溢れる。
 「もお、いじわるなんだからっ!」
 思いっきり飛びついてくるミルクを受け止め、クルミの目も気にせず 熱いベーゼを交わす。
 「もう、放さないからねっ!」
 「俺もだよ、ミルク!」
 「もお、勝手にやっててよね・・・ はぁ〜っ、私もあんな彼氏ほしいっ!」
 そして、「そんなところで、二人だけで盛り上がらないでよね。」と、マヤも部屋の奥から出てきた。
 「とに、みんなでこれから引っ越しのお祝いパーティーをやろうってのに、二人だけ楽しんじゃって。それに、私の素敵な企みもパア・・・ 。」
 「ごめん・・・ ミントとマナも待っているから、中に入ろっ!」
 マヤを先頭に、俺と、寄り添うミルク、クルミが最後に部屋の奥へと消えていった。
 そして、新たな時間が流れ始めた。

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