第二話 RINA(理奈)


 ブンッ・・・・・・
 音とともに、モニターに人影らしきものが 浮かび上がる。
 「理奈?」
 玲奈さんの娘、好きだった女の子の名前を聞いて ドキドキする。
 「はい。」
 モニターに映ったのは、玲奈さんに似た女の子だった。
 「彼方くん、彼女がRINA。アルファベットで読むの。」
 モニターに映っている女の子を、’ジッ’と見つめる。
 「私、何か変ですか?」
 多少表情を変えながら、女の子−RINA−が話す。
 「あ・・・ いいや、ちょっと 見とれて。」
 「えっ!?」
 RINAの表情が、変わる。自然な感じだ。しかも、頬までわずかに赤らんでいる。
 「えっと・・・ なんて言っていいか。」
 心臓が、ドキドキする。
 「ふふ、二人とも かわいいわね。」
 「からかわないでくださいよ。」
 「まあ、いいじゃない。でも、せめて挨拶くらいしてあげたら。」
 そう言われてみれば。。。
 「えっ・・・ 初めまして、RINA。知っていると思うけど、星野彼方です。よろしく。」
 「初めまして、彼方さん。AIのRINAです。よろしくお願いします。」
 今、気づいた。記憶の中の理奈と、同じ声だ。懐かしさと新鮮さが、混同する。
 「どお、彼方くん。」
 「どお、と 言われましてもね。驚きはしましたけど。」
 平静を装おうとするだけ、ぎこちなくなりそうだ。
 「それだけ? つまらないなぁ〜。
 ・・・わかったと思うけど、娘の理奈がモデル。あの頃の理奈をシュミレートして 成長した姿が彼女なの。」
 「性格もですか? 性格形成型AIと、言ってましたから。」
 前から、疑問に思ってい事だ。性格なんてものを、プログラムできるものだろうか?
 「プログラム・・・ コンピューターなんて、確率からYESかNOの割合でしか表現できないのに 人間のようにファジーな性格を表現できるとは 思ってもみなかったわ。実際、数多くの失敗があったし。それに、これはプログラムなんてものじゃないと思ってる。」
 「えっ!? だったら・・・ 」
 「これから先は、企業秘密。ただ、バイオチップだからできた事かもしれないとだけ 言っておくわ。」
 バイオチップだから、できた事か。
 「感情も、持っているけど・・・ 私以外と話すことは、彼方くんが初めてで。まだまだ、感情に乏しくてね。」
 「センセイ・・ 」
 「わかってるわよ、RINA。もっと人間らしく、感情豊かに発展していく為にも 彼方くんの協力が必要なのよ。同性ではなく、異性の協力が。」
 力強く説く、玲奈さん。気持ちが伝わってくる。断れなくなったな。
 RINAと出会ってしまったし、二人が俺を必要としてるし。
 「わかりましたよ。RINAの教育係は、引き受けます。けど、ダイバーの話しは まだしばらく考えさせてください。」
 「教育係ね・・・ ま。いいわ。じゃ、よろしくね。
 そうねぇ・・・ 家にいる時は、いつでも相手できるように 彼方くんの部屋へ直接端末を引いておこうかしら。」
 「別に、かまいませんけど。」
 「OK。それじゃ、明日にでも設置するわね。スパコンの端末が自分の部屋にあるんだから、いろいろな研究ができるわよ。RINAも、サポートしてくれるし。
 それに、RINAは 私の衛星に直接リンクしているから 世界中の情報が 瞬時に手にはいるわ。」
 私の衛星って・・・ 個人で、人工衛星を所有しているって言うのか?
 この目の前にあるシステムだけでも、何十億と言ってたのに。
 「玲奈さん、どこからそんな資金を・・・ 。給料だけでは、絶対に無理でしょ?」
 「工学特許をいくつか持っているんだけど、研究が忙しくて 何年もほかっておいたら、特許使用料がどんどん振り込まれてね。税金対策っていうのもあったんだけど、それならってことで 一気に使っちゃった。」
 「使っちゃったって・・・ 」
 おいおい。いったい、どんな数字が通帳にあったんだ?
 「通信衛星同士を、直接リンクしてしまえば 地球上のどんなデータベースも閲覧可能よ。パスワードやセキュリティなんて、RINAにかかれば無いも同然だわ。」
 「げっ・・・ 」
 「でも、それをどう使うか 使う者の良心次第。RINAと人工衛星’アカシックレコード’を任せるのだから 彼方くんが悪人でないと信じてるわ。」
 「そりゃ、どうも。」
 そんなに信用されても、俺だって人間だから 魔がさすってこともあるだろうに。まあ、そんな心配がまったくないと思っているから、俺に任せようとしているのだろう。
 「さてと・・・ 私は、少し席を外すけど 彼方くんはどうする?」
 「そうですね・・・ RINAとほとんど話していませんから、少し話しをしますよ。」
 「んじゃ、風邪を引かないようにね。」
 そう言うと、玲奈さんは きびすを返すように この地下室からでていった。
 玲奈さんには、俺に任せるという不安はないだろうか? そんな考えが、俺の頭の中をよぎる。この話しを引き受けてもらえないとは、思わなかったのか。俺なんか、あわただしく ここまで来てしまって 気持ちの整理をつける暇さえないし。
 「あのぉ〜、どうしたのですか?」
 「ん・・・ ああ。」
 RINAは、俺の表情を読み取ってか 声をかけてきた。 ・・・そうか、RINAなら 包み隠さずに話してくれるんじゃないのか?
 「なあ、RINAは ’嘘’をつけるのか?」
 ちょっと、意地悪な質問だったかな。
 「ウソですか・・・ 。わかりません。明確な定義付けが、されていませんので。」
 AIらしい答えだな。
 「嘘に、定義なんてないさ。嘘をつくかどうかは、自分の気持ち次第だからね。」
 「そうですか。私の感情プログラムは、人間で言うと赤ちゃんのようなものだそうです。ですから、自分の気持ちというものが はっきりとはわからないのだと思います。真っ直ぐな表現でしたら、なんとか。」
 「そうだよな。だから、玲奈さんは俺にRINAを・・・ 。」
 ’嘘’のような、いくつかの感情が絡み合った表現は 今のRINAには理解できないだろう。
 「意地悪な質問だったな。ごめんよ。」
 「そんな・・・ 当たり前の質問ですよ。」
 「そうかな。ははは・・・ 」
 「ふふっ。」
 俺が、ばつの悪そうな素振りを見せると RINAは笑った。そんな表情をされると、ドキッとするぜ。不思議な気分だ。
 「RINA・・・ なんで、俺なんだ? 他に、もっと適性を持つ人物がいただろうに。」
 俺の中の一番の疑問だ。 ・・・ちょっと、唐突すぎたかな。
 でも、RINAがどう答えるだろうか? その答えによって、一度引き受けた事を覆すようなことはしないけど。本当のことを知りたい。ただ、それだけだ。玲奈さんが、嘘をついているとは思えないが これから直接関わりを持つRINAから 聞きたい。

Heart by・・・