第一話「出会い(再会)」


「ん? どうした、理奈。」
「うん、これって夢じゃないよね。現実なんだよね。」
「現実・・・・・・ いいや、両方かな。」
「両方?」
「そう、両方。」
「うん、そうだね。」
「そろそろ時間だから、行こうか。」
「はい!」

ピンポーン。ピンポーン。
「ん? ああ、チャイムが鳴っているのか。
・・・それにしても、不思議な夢だったな。」
ピンポーン。ピンポーン。
「はいはい、今行きますよ。」
あわててズボンを履き、シャツを羽織りながら 玄関へと駆け出した。
ピンポーン。ピンポーン。
(まだ、鳴らしているよ。せっかちな宅配屋だ。)
最後の身なりを整えると、ノブに手をかけた。明るい日差しが、視界を眩ませていく。
「こんなにいい天気なのに、まだ寝ていたの?」
「えっ?」
白く靄のかかったホワイトアウトから、徐々に目が慣れていくにしたがい 目の前に立つ人物の姿がはっきりとしてくる。
「おはよう。久しぶりね、彼方くん。」
細めた目に入ってきたのは、懐かしい顔だった。
「玲奈・・・ おばさん?」
「お・・・ おばさん!」
「あっ・・・ やば。お久しぶりです、玲奈さん。」
「ま、いいわ。今回は許してあげる。でも、次はなくってよ。」
「肝に命じておきます。それにしても、本当にお久しぶりですね。元気そうでなによりです。」
「まあね。 ・・・ねえ、お客様と玄関で立ち話する気?」
「あ、どうぞ 上がってください。散らかってますけど。」
昔と変わらない、懐かしい感じ。
「香さんたち、まだ向こうなの?」
「なかなか、種子島から帰ってきませんよ。年に2・3回くらいかな。」
「私と違って、相変わらず忙しいのね。」
「違ってって、忙しくないんですか?」
「忙しかったら、帰ってこないわよ。」
「それも、そうですね。」
「ま、バイオチップの市販化も目処が付いたと言っても 一般ユーザーが簡単に手を出せる代物じゃないけど 一区切りついたから。
一年くらい、休養てとこかしらね。」
「それで、自宅を改造してたんですか。はい、紅茶です。」
「ありがと。あら、アールグレイね。いい香り。
研究もあるけど、やってみたいことも多くてね。あ・・・ それより、アメリカに来ていたのなら 連絡くらいよこしなさいよ。つれないわねぇ〜。」
「すみません。半年間でしたけど、みっちりとカリキュラムが組まれていまして 暇がなかったんです。おかげで、いい経験を積めましたけど。」
「ふふ、知ってるわよぉ〜。日本宇宙航空界期待の星。国際月面基地常駐候補。などなど。」
「そうは言われてますけど、ライバルは多いですから 少しでも気を抜けば すぐに蹴落とされますから 油断できなくて大変ですよ。」
「努力家だってのも聞いてるけど・・・ 天性の素質もあるようね。そうじゃなかったら、NASAが4Aクラリティーの評価を出すことも無いでしょうけど。」
「えっ? なぜそれを!」
「ふふふ・・・ 私にかかれば、デジタル化されたデータを検索できないところなどないわ。」
おいおい、それって・・・ 犯罪じゃ。あ、でも玲奈さんのつてを考えれば 違法行為ばかりだとは言い切れないか。
「それにしても、そんな話をしにやってきたんですか?」
「そういう理由じゃないけどね。今建設中の国際月面基地・・・ 第一期常駐員選抜まで、後一年くらいあるわよね。」
「まあ、それくらいですか。」
「でね、それまでの間 私の研究を手伝ってほしいの。」
「はあ・・・ できることなら手伝いたいのですが、夢を叶える為の勝負の一年になりますから そんなには手伝えませんよ。」
「夢ね・・・ 重い夢を背負わせちゃって、ごめんね。」
「何言ってるのですか。自分の夢ですから。」
「知ってるのよ・・・ 娘の日記を読んだから。」
「・・・ 」
「だから、少しでも彼方くんを手伝ってあげたいと思ってね。」
「?」
「私が、自宅でやろうとしている研究は ”AI”と”ダイビング”なの。」
「AIはわかるとして、ダイビングなんて・・・ 」
「あなたが、想像しているようなものじゃないわ。”サイバーダイビング”もしくは”ネットダイビング”と言われるものなの。」
「ええっ! 人間の神経をデジタル信号化して、直接電脳界へ繋げるというのですよね。」
「まあ、おおまかに言えばそんなとこね。」
この人は、いったい何をしようとしているんだ?
「そんなの理論上や想像上の技術じゃ・・・ 。」
「ところが、そうじゃないんだなぁ〜。極秘中の極秘なんだけど、すでに数人のダイバーが世界には存在しているわ。」
「そ・・・ そんな・・・ 。」
「ダイバーを潜らせるには、一昔前の宇宙ロケットを飛ばすような大規模なシステムとスタッフが必要なの。それでも、30分潜るのが限界と言われているわ。」
未知のシステムだけに、興味はある。それに、宇宙飛行よりも厳しい環境というのが 気になる。
「30分というのは、一応の安全基準みたいなものだけどね。個々の精神力によって、差はあるわ。システムの負荷から肉体を守る為にも、パイロット 以上の耐性も要求される。後は、相性ってとこね。
それら、全てをクリアーできる人物が”ダイバー”になれないって事を考えれば 世界に数人しか存在しないというのも 判る気がするわ。」
「そうですね。」
興味は、深まるばかりだが・・・
「興味でた?」
「はい、大いに。」
俺の顔を見て、’ふふっ’と笑う玲奈さんを見ると 全て見透かされているみたいだ。
「そこで、彼方くんにお願いなんだけど・・・ 」
「はい?」
「ダイバーになってくれない!」
「はあ?」
この人は、何を言い出すんだ。
「そりゃ、興味はありますけど どこにダイバーシステムとスタッフがいるんですか? 休暇中なんでしょ? それに、俺にダイバーとしての資質があるとは 思えません!」
「ふふ、不安なのね。」
「まあ、はっきり言ってそうです。」
「正直で、結構。 ・・・・・・じゃ、行きましょうか。」
? 何を考えているのか、まったく読めない。まあ、逆らうよりは 付き合った方が無難だな。

Heart by ・・・