「あれから、3年も経つのか いづみ・・・ 」
 忘れはしないが、悪夢のあのシーンを 夢で見る回数は減った。
 想いは、残っている。
 霞はするが、消えない想い・・・
 「今度の休みに、墓参りでも行くか。」
 大学へと続く道は、想いと裏腹に 限りなく鮮やかにクリアだった。
 緩やかな坂の途中、木陰から誰かが不意に現れた。
 その人影を除けるように、スッと身体を捻る。
 木陰から現れたのは、女子高生だった。
 「あの・・・ 」
 少女は、何か言葉を発したらしいが聞き取れず 俺は横をすり抜けた。
 「あの、これ読んでください!」
 少女の声に振り向くと、少女の差し出された両手には 白い便箋が添えられていた。
 「あ・・・ ああ。」
 瞬間的に受け取ると、少女は耳を真っ赤にして 長い黒髪をなびかせて走り去っていった。
 星形のシールで封をされた、真っ白い便箋だけが 手元に残った。

 最後の前期試験科目を終えた帰り道、駅で 今朝受け取った手紙のことを考えた。
 雰囲気から、書いてある内容は 察しが付く。それを、どう受け止めよう。
 電車が、やってきた。
 部屋に戻ってから考えた方が、無難だな・・・ 。
 この時間にしては、人が多いな。 ・・・そうか。学校が、終業式だったんだ。それで、学生の割合が極端に多いのもうなずける。
 
 やがて、自宅寄りの駅に着いた。駅前の雑踏を抜けると、一人の少女が目に入った。なぜか、会ったことのあるような気がして ならなかった。
 「あの、これ読んでください!」
 少女の声と共に差し出された両手には、見覚えのある白い便箋があった。
 「 ・・・ああ。」
 戸惑いながらも受け取ると、少女は耳を真っ赤にして ポニーテールをなびかせて 走り去っていく。
 手元には、見覚えのある星形のシールで封をされた 真っ白い便箋。
 鞄の中の物と、寸分違わぬ物と気づくまで そうはかからなかった。
 手元に残った二通の手紙。
 どのように見ればいいのか・・・・・・

 アパートに戻ると、息を付く暇もなく 受け取った手紙を取り出した。その白さが、目を霞ませるような気がする。
 「受け取った以上は、読むのが 最低限の礼儀だよな・・・ 。」
 鼓動が、速くなる。
 恐れ、期待・・・ 感情の交差。
 手が震える。
 「なにを怖がっているのだろう・・・ 」
 まずは、先に受け取ったであろう手紙を・・・

 ”お名前もわからない あなた様へ

 突然に、このようなお手紙をお渡ししたこと お許しください。さぞかし、びっくりされたことでしょう。
 あの日より、私の胸の中に芽生えた あなた様への想いを伝えたくて。

 好きになってしまいました。私とお付き合いしてください。お願いします。

 お断りの返事でも良いですから、私のPHSにご連絡くださると ありがたく思います。
 それさえなかったら、潰れてしまいそうです。

                      茶屋ヶ坂大学付属女子高等学校2年
                       森里 由紀
                      PHS ○○○−×○××−7373 です。”

 「ふぅ〜〜〜〜〜・・・ 」
 ラブレターだな。率直な要件だけだけど。
 まあ、かえって気が楽になったかも。
 「それにしても、’あの日’ていうのが気になる。いつのことだろう。う〜む・・・
 俺に、あの娘と会った覚えがない以上 本人に言ってもらうまでわからないな。」
 もう一つの手紙の封を切る。
 先の手紙と同じ便箋が、入っていた。不思議な感覚だ。

 ”拝啓 お名前もわからない あなた様へ

 突然に、こんなお手紙をお渡ししたこと お許しください。さぞかし、驚いたことと思います。
 あの日より、私の胸の中に芽生えた あなた様への想いを伝えたくて。

 好きになってしまいました。私とお付き合いしてください。お願いします。

 お断りの返事でも良いですから、私のPHSにご連絡くださると ありがたいです。
 それさえないと、潰れてしまいそうで。

                      中央女子高等学校2年
                       森川 由季
                      PHS ○○○−×○××−3737 です。”

 「う〜〜〜〜〜〜ん・・・・・・ 」
 まったくと言っていいほどの、同じ内容。しかも、同じ’ゆき’だし。
 PHSの番号にしたって、数字の並びが違うくらいだし。
 さて、どうとって良いものだろう?
 偶然としては、奇妙すぎる。遊ばれているにしても、彼女らとの接点に 身の覚えがまったくない。
 「どうしたらいいんだろう、いづみ・・・ 。」
 写真の中の彼女は、あの時のままの笑顔をしているだけだった。
 「このままじゃいけないって、わかってるんだけど・・・ 怖いんだ。」
 何が怖いのか、わからない。いや、わかっているのかもしれない。
 「いづみ・・・ 」

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