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 君は遺跡で入手した双剣をテーブルの上に置いた。その対になった二振りの曲剣は海
賊団の幹部だったビドロを倒して手に入れた物だ。つまりそれをここで出すということは、
彼ら海賊に対する挑発に他ならなかった。
「……お前が、我らの邪魔をしていた男か」
 君の意図をひと目で見抜いたらしい船長は、凄まじい殺気を込めた切れ長の瞳で君を
睨みつけた。もし今の相手が只の海賊であればこの挑発に激昂し、冷静さを失って襲い
かかってきたかもしれない。しかし君の目前の男は、震えるような怒りを内に秘めたまま
正しく目的を遂行できる人間だった。
「俺に対して不用意に正体を明かすべきではなかったな」
 君は船長から目を離さぬまま、両脚を開き腰を落として背に負ったルルに手をかけた。
互いの間には巨大なテーブルがあるため、剣が届く間合いではない。それは一見して武
装が見えない船長も同様だろうが、油断はできない。
「そして俺の間合いを知らぬまま戦うべきでもなかった」 
 船長の表情には笑みがうかんでいた。
「だから……死ぬことになる」
 言い終わると同時に船長の右腕がわずかに動き、破裂音と激しい衝撃とが君の身体を
震わせた。何があったかわからず君が下を向くと、腹の中心に焼け焦げた穴が開き、そこ
から流れ出る鮮血が紅い花弁を描き始めていた。不安感を増す唐突な寒気が君を襲い、
身体を支える力が脚から抜けていく。堪え切れずに君は膝から崩れ落ちるように倒れた。
ルルが何か嘆いたようだったが、君にはもうそれを言葉として認識できなくなっていた。

【THE END】