535 


 君は警戒しながらも一度その場を離れ、素早く通路を引き返すことにした。だがそこで
ひとつ、取り返しのつかない致命的な過ちを犯した。それは船長室の内部にいる者が飛
び道具を持っている可能性に思い至らなかったことだ。だが知っていたとしても無駄だっ
たかもしれない、何故ならそれは非常に強力で、分厚い板をも貫通するほどの威力を備
えていたからだ。
 君がこれまで耳にしたことのない破裂音を聞き、ルルが警告の悲鳴をあげた時にはす
でに、誰の目にも捉えられぬほどの速度で射出された小さな金属の塊が、君の胴体を背
から胸へと貫いていた。君の目の前に迸った鮮血は全て自分のもので、踏み出す力さえ
失われていく脚も自分のものだった。次第に遠く暗くなっていく視界に映る世界をわずか
に残った意識で追いかけようとする君だったが、もうそれだけの命も残されてはいなかっ
た。

【THE END】