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【 時間点+5 】
 君は付近に海賊の姿が無いことを確認してから小船を下ろす作業を始めたが、思って
いたよりも海賊の気配が無いことが君によって減らされた海賊の数を表してもいた。だが
スヴァルニーダとともに警戒は解かぬまま、侵入時に目にした工程を逆に辿る形で小船
の固定を解き、そこに乗り込む。
 スヴァルニーダと向かい合わせになる形で腰を下ろすと両手に櫂を握り、君は速やかに
海賊船から離れるべく思い切り漕ぎ始めた。この場所からは古代遺跡へ戻るよりも直接
イスターヴェの西にある海岸へ向かう方が早い。
『それほどの距離ではないですが追われたら厄介ですし、警戒はしておくべきでしょう』
 海賊船を少し離れたところでルルが注意を促した。いつものように心の中で返事を返し
ているのを見ていたスヴァルニーダは、少し間を置いてから話しかけてきた。
「なんだか、考えていたよりも簡単に逃げ出せたように思えるけれど……」
 君は相当な数の海賊と戦い、倒してきたことを伝えた。
「そのおかげでしたか。強いのですね。あなたも、その美しい剣も」 
 君とルルとを順に見つめ、何か話したげな雰囲気を漂わせたまま、スヴァルニーダの視
線は君の肩越しに進行方向の陸地へと向けられた。やはり彼女も久しぶりの人里での生
活が不安なのかもしれない。考えてみれば君はただ囚われの娘を助けるという正義感で
彼女を救い出したが、素性を聞いてしまった今となってはたた町で別れるのは無情に過ぎ
るし、家族の元へ帰るべきだと言って納得するような人間ではないという気もしていた。と
にかくスヴァルニーダの意思を尊重すべきなのは間違いないが、少なくとも落ち着ける場
所で一晩は身体を休め、その後でゆっくり話し合う方がいいだろう。その結果がどうであれ、
できる限りの力を貸さねばならない責任が君にはある。
 君は両手の櫂を握りなおすと、残った気力を海賊の追っ手に対する警戒に費やし、何事
も無く町に到着できることを祈った。(508へ