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 イスターヴェを発ってから季節は巡り、君はとある地方都市にやってきていた。ただし君
の側にはもう1人、髪全体を覆う僧衣にも似た衣服で身を包んだ娘が同行している。彼女
の名はスヴァルニーダ。君が海賊団から救い出したあの日、彼女は自分の目的を見つけ
るまで旅を続けることを望み、君とともに旅をさせてほしいと願った。そして正義感によって
彼女の身を解放した君がそれを断ることはできなかった。その結果を決して失敗だと感じ
たことはなかったが、ルルの存在に君の素性、さらにスヴァルニーダの素性という秘密が
増えたことも事実だった。
『旅というのは道連れがいた方が楽しい。昔一緒に行動していた若い商人がよく口にして
いた言葉ですが、やはりそうなのでしょうか』
 人目をひくスヴァルニーダの髪と瞳のことを考えているとルルが言った。ルルには君以
外の相手と直接会話することはできず、そもそも人間ではないということもあって孤独と
いうものを理解してはいないのかもしれない。
 すぐ横を歩いているスヴァルニーダに目を向ければ、久々に訪れた大きな町ということ
で物珍しそうに露天商の売り物を見比べていた。町を歩くだけでも君以上の不自由があ
るのは覚悟の上だが、それでもここに来るまでの経験によって相応に鍛えられ、戦士の
風格を備えつつある君の陰にいるだけで精神的疲労はずいぶんと減らせるようだった。
 その日、君達は治療薬を求めに立ち寄った店で聞き覚えのある名前を耳にした。それ
を口にした店の主人と客との会話を注意して聞いていると、どうやらアデルという人物が
発見した古代遺跡で、これまで存在しなかった効果を持つ薬品の原料となる素材が発見
されたということだった。
 これは君の力が役に立ったということだろうか。少なくとも国境を跨いだ国にまで噂が伝
わるほどの成果をあげたとなれば、もう夫婦になっているだろう彼らも喜んでいるに違い
ない。君も内心では喜びながらその会話に加わり、さらに詳しい話を聞いた。するとすで
に幾つかの貴重な薬品が試験的に一般販売され始めているらしい。それらはもちろんあ
まりに高価なうえ、普通の庶民には無用のものが大半だという。だがアデルの目的は婚
約者の家族の病を治す薬の開発にあったはずで、それが叶わなければ実質的な成功と
は言えないだろう。そして主人の情報によれば、アデルが言っていたような不治の病に対
する薬も含まれているらしい。
 君がアデルからの依頼を請けた時、彼の縁者となる人物の容態はどの程度のものだっ
たのか。治療薬の開発が間に合わなかった可能性は当然ありうる。しかしすでに売買が
始まっているのならば、それ以前の段階できっと間に合っているはずだ。目的の種子を
入手することで依頼を成功させたという自負とともに君はそう信じていた。いずれにせよ
君が危険を冒して入手した古代の種子が、文字通り新たな希望の種をもたらしたのは間
違いない。例えそれが公に知れ渡ることがなくとも。
『またあのような依頼はないでしょうか……』
 物欲しそうにも聞こえる声音でルルが呟いた。
 確かに古代遺跡の探索は危険の大きさに比例して見返りも多く、探索の成功それ自体
が名誉と功績をもたらすものだった。とはいえ遺跡探索と海賊退治を同時におこなうこと
など滅多にできるものではない。ルルは伝説の時代に彼女を所有していた英雄達に君を
重ね合わせることで、君にとっての無茶を無茶だとは思わぬところがある。にも関わらず
イザとなれば君の能力を過信する様子もないのが不思議だ。
『このくらいの都市ならいい情報があるかもしれませんね。』
 楽しげなルルの声を聞きながら、君達は賑やかな通りを都市の中心部に向かった。

【GOOD ENDB】
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