520 イスターヴェを発ってから季節は巡り、ある地方都市に訪れていた君が露店の立ち並 ぶ街中を歩いていると、どこからか君の名を呼ぶ声があった。初めて訪れた場所で君を 知る者がいることなどありえないと思いながら通りを見回すと、一軒の露店で君に向かっ て腕を振る男の姿があった。そちらに歩き出しながらよく見れば、それは海賊船からとも に脱出した後、イスターヴェで別れた老人だった。別れの直前に酒を奢られながら聞い た話では確か故郷の村に帰ると言っていたはずだが、行商でも始めたのだろうか。 「あれ以来じゃなぁ。まさかこんなところでまた会えるとは。元気じゃったか?」 破顔して背を叩いてくる姿にはもうあの時のみすぼらしさはなく、何種類もの干し魚が 入った大きな瓶と、軒先に吊るされた果実に囲まれて幸せそうに見えた。元々は交易船 の船長だったのだから、海に近い場所で暮らしをしているのだろうというのがルルと一致 した予想だったのだが。 「全く違っているわけでもないぞ。今のところは金の為に山の川魚なんかを獲っておるだ けじゃ。いずれ小さな船を買うだけの金ができればまずは河口。そして海へと戻るつもり じゃ。しばらく故郷におったら、やはりわしには海なんじゃと思えてな」 その溌剌とした表情をながめていると、実は思っていたほどの歳ではない気がしてきた。 やはり海賊船での苦労が彼を年齢以上に老けさせただけなのかもしれない。 それからしばらくの間、旅の話などをした後に君と老人は別れた。どうやら不遇の半生 を送った彼も第二の人生を歩み始めたようだが、君自身が落ち着いた暮らしをする日は くるのだろうか。そんな風に思いながら治療薬を買い足すために立ち寄った店で、君は聞 き覚えのある名前を耳にした。それを口にした店の主人と客との会話を注意して聞いて いると、どうやらアデルという人物が発見した古代遺跡で、これまで存在しなかった効果 を持つ薬品の原料となる素材が発見されたということだった。 これは君の力が役に立ったということだろうか。少なくとも国境を隔てた国にまで噂が伝 わるほどの成果をあげたとなれば、今頃は夫婦になっているだろう彼らも喜んでいるに違 いない。君も内心では喜びながらその会話に加わり、さらに詳しい話を聞いた。するとすで に幾つかの貴重な薬品が試験的に一般販売され始めているらしい。それらはもちろんあ まりに高価なうえ、普通の庶民には無用のものが大半だという。だがアデルの目的は婚 約者の家族の病を治す薬の開発にあったはずで、それが叶わなければ実質的な成功と は言えないだろう。そして主人の情報によれば、アデルが言っていたような不治の病に対 する薬も含まれているらしい。 君がアデルからの依頼を請けた時、彼の縁者となる人物の容態はどの程度のものだっ たのか。治療薬の開発が間に合わなかった可能性は当然ありうる。しかしすでに売買が 始まっているのならば、それ以前の段階できっと間に合っているはずだ。、目的の種子を 入手することで依頼を成功させたという自負とともに君はそう信じていた。いずれにせよ君 が危険を冒して入手した古代の種子が、文字通り新たな希望の種をもたらしたのは間違 いない。例えそれが公に知れ渡ることがなくとも。 『またあのような依頼はないでしょうか……』 君にしかわかりにくい微妙に物欲しそうな声音でルルが呟いた。 確かに古代遺跡の探索は危険の大きさに比例して見返りも多く、探索の成功それ自体 が名誉と功績をもたらすものだった。とはいえ遺跡探索と海賊退治を同時におこなうこと など滅多にできるものではない。ルルは伝説の時代に彼女を所有していた英雄達に君を 重ね合わせることで、君にとっての無茶を無茶だとは思わぬところがある。にも関わらず イザとなれば君の能力を過信する様子もないのが不思議だ。 『このくらいの都市ならいい情報があるかもしれませんね。』 楽しげなルルの声を聞きながら、君は賑やかな通りを都市の中心部に向かった。 【GOOD ENDA】 (入手した物品についてアリアルテの店を訪ねるなら560へ) |