496 【 時間点+1 】 君は荷物の陰を回りこみ、目当ての檻の中が窺える位置にまで忍び寄った。ロウソク の明かりがかろうじて届くあたりには寝藁と布が板の上に敷かれただけの簡素な寝台が あって、毛布に包まれた人間が横たわっているように見える。その檻の中だけは掃除さ れていて、寝台の周囲には何かが彫られた板が何枚も置かれていた。檻の出入り口に は鎖付きの大きな錠前が取り付けられていて、鍵がなければ開きそうにない。 君が寝台の様子をさらによく見ようと足を一歩踏み出した時、横たわる人影のように見え ていたものが身じろぎをし、全体にかけられていた毛布をどける白い腕が現れた。次いで 現れたのは色素を失ったかのように銀白色をした長い髪だ。その髪を垂らしつつ半身を 起こしたのは紛れもなく遺跡で目にしたあの娘に間違いなかった。以前は離れた場所で 頭部を布に包まれた横顔を目撃した程度だが、薄闇の中でもわかる髪の色と、日没の間 際に光と闇が混じり合う空のような紅い瞳は「呪術」という魔法に似た力の資質を意味す る、この世界でも極めて稀な特徴だとルルに教えられた。それほど特異な容姿の娘を間 違えることはないだろう。 娘は寝起きの気だるさを残したまま床に視線を落とし、何を見るわけでもなくただじっと していた。監視役であろう男は相変わらず自分の作業に集中していて、特に気づいた素 振りは見せない。娘と接触するならここしかないだろう。 君は荷物から水筒を取り出し、水を床に垂らすと「水文字」の魔法を使った。MPを2点 減らすこと(それでMPが0になったら君は気絶し、意識を取り戻す前に14へ直行だ) 床に吸収されることなく床に留まった水の塊は、君の意志に従ってスルスルと檻の方に 滑っていく。 娘の寝台の側にまで達したところで君は少し考え、水によって文字を形作らせた。 「キミヲ タスケニキタ」 水が動く気配を感じた娘はすぐに気づいたようで、檻の外に顔を向けるとあちこちに目 を向け始めた。やがてその視線が荷物の陰に潜んだ君を捉えたが、娘の反応は喜びで はなく小さな驚きでしかなかった。そして見張りの方を気にしながら、明らかに拒否とわか る形で手を払った。「帰って」という口の動きとともに。 『どうやら救出は望まれていないようですね。どうします?』 全く考えていなかったというわけではなかったが、意外な反応には違いない。それでも 救出を試みたいのであれば、見張りを排除して娘と直接話す必要があるだろう。 ・ 見張りを倒すことにする(478へ) ・ 諦めてこの場を去る(499へ) |