403 【 時間点+3 】 今の時間、岸壁の裂け目にできた入り江の中は完全な闇に近い。海賊が簡易的な船 着場として用いるために設けていた明かりが無くなれば、星の輝きもわずかに入り江の 輪郭を黒く浮かび上がらせるのみだ。君は両側にそびえる岩壁に船が擦らないよう慎重 に船を操作して外海へと漕ぎ出した。そこにはまるで奈落から這い出た闇そのものがう ねりながら地平を覆っているような海原がある。イスターヴェでの仕事を通じて夜の海に も慣れてきていたが、やはり一歩踏み出せば底の見えない海面があるような小型船に 1人でいるという状況はそう簡単に慣れるものではない。ましてやこの世界には漁師を海 へと引きずり込むような怪物や魔物の類が普通に存在するのだから。 『万が一海に落下しても、私を身に付けてさえいてくれれば命を失うことはありません。で すからご安心を』 君の心中を察したかのようなルルの気遣いに頷きながら沖の方に視線をはしらせると、 思ったよりも近い海上に黒い大型の船影が見えた。それが海賊船だろうと判断した君は 舳先をそちらに向ける。このまま進んでも明かりを点さなければ君だと認識されることは ないかもしれないが、念のために海賊達と同じような扮装を施しておくことにした。 やがてたんなる船影だったものが傷跡だらけの歴戦の雄姿であるとわかるような距離 にまで接近したが、海賊船の状況に変化は無く、勤勉な見張りがいる様子もなかった。 君は船尾に小船を寄せると、そこに取り付けられた梯子を使って甲板に上がり、忍び足 で船室への入り口を見つけると中に入った。海賊達の寝ている間にあの娘を救い出せれ ばいいのだが。(424へ) |