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『彼女を救い出すための手段を考えていますか?』
 ルルに訊ねられたものの、ほぼ一本道の閉鎖空間で多勢に無勢とあっては海賊を出
し抜くために考えられることは少ない。それも救出対象自身が救われることを望んでい
るのかどうかもわからないとあっては。
『あなたは魔法を用いる気はないのですか?』
 唐突にルルが君に問う。
 魔法。それはこの世界に存在すると知ってはいても、君自身が用いるという意味では
無縁だと考えていたものだ。
『私は、私の主と認めたものが魔法を用いるための素地を整え、種子を植えることがで
きます。けれどそれは主の意思がなければ眠ったままなのです』
 ルルによるごく簡単な説明によれば、これまでにアールイヴァリルを手にしてきた英雄
達は皆、魔法を扱えるようになったのだという。ただしそれは主たる者が魔法を望んだ
場合に限られ、魔法を忌避していた者、魔法の存在を信じ切れなかった者が扱えるよう
にはならない。それはつまり、もし君がアールイヴァリルを手にする以前から魔法という
存在を認識している、例えば魔術師になろうとしているような人間であったなら、その場
で直ちに魔法が使えていたのかもしれないということだ。
 君が遺跡で眠ることになる以前がどうであれ、その記憶は無く、自分に魔法が使える
などという意識は全く無かった。その認識が魔法の発現に至らなかった理由なのだろう。
『これまでは魔法を必要としている感じがしませんでした。けれど今はそうではない。あな
たが望むなら、すでに魔力の種子はあなたの中に芽吹いているはずです』
 君は魔法を望むだろうか。あるいは魔法など使わずに危機を乗り越えようとするか。
『魔法を扱えるようになるということは、別の世界の扉を開けるに等しいのです。決して容
易く使える便利な力とだけは考えないようにしてください。それは同時に、この世界全体
に対する義務と責任を負い、時には自らの破滅をも招くことになるのですから』
 普段よりも真剣味を帯びたルルの言葉を心中で繰り返す。
『今のあなたはまだ魔法が使えると認識しただけです。身の内に宿った魔力をどう発現さ
せたらよいかもわからないはず。ですから今は、どのような効果を望むのか、それだけを
最も単純な形で願ってください。それを私の力の及ぶ範囲で発現させてみましょう』
 君はルルの助言に従い、この状況を好転させるための術を脳裏に思い浮かべていく。
それは海賊を駆逐するための力か、君の姿を視界に捉えさせぬものか、それとも娘の意
思を知るためのものか。

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