340 船体から突き出している何本もの大型の櫂はまだ動き始めていない。君はそれを横目 に見ながら船尾側に設けられた乗降用の梯子の下に接舷すると、不自由さを装いながら ロープで小船を固定し、梯子に取り付いて甲板へ登っていった。とりあえず危なげなくや れたはずだが、いかんせん海賊独自の規則でもあれば君が知るわけもない。一連の作 業を注視しているような海賊がいないことを願いつつ甲板まで登ってくると、頭上から太 い腕が伸びてきて君の襟元を乱暴に掴んだ。それを避ける間も無く甲板に引き摺り上げ られた君が緊張に身をこわばらせつつ視線を上げると、髭面の男がこちらを睨んでいた。 「・・・お前だけか? 他の連中は?」 仲間ではないことがバレたわけではないらしい。君は身体の痛みを堪えているような声 色で遺跡内の出来事を簡単に伝えた。そこで遭遇した「敵」にあたるのは君自身の事だ が、彼らがどこまで知っているのかわからないため詳細は曖昧にしておく。 「そうか、大変だったな。その件は俺が船長に伝えておくから、早く治療を受けてこい」 男は深刻な表情をしながらも君の肩を軽く叩き、船首の方に歩き去った。 どうにか誤魔化すことができたのだろうか。君は脚を引きずりながら船内への入り口を 見つけ、中に入ったところで一息ついた後、通路の奥へと進んだ。(424へ) |