234 


 海賊の船長であろう男の問いに君は無言で返した。何故ならここで自分の身を有利に
するような返答を返せなかったせいだ。仮にこの世界で過ごした数十日の知識を全てか
き集めた程度のものでは、冷酷な海賊相手に何の影響も与えないだろうし、君自身にさ
え謎だらけの事実に到ってはどのように伝えればいいのかすらわからないからだ。ただ
ひとつわかっていることは、君が囚われた娘を救いに来たということだけだった。
「この船に侵入した者がいることはすでに聞いている。お前のことだな」
 それだけ言った船長の右手が不意に震え、激しい破裂音が君の鼓膜を打ち震わせた
刹那、君の額には黒々とした穴が穿たれていた。途切れることのなかった船の軋みと波
の音が消え、感覚の全てが失われていくのを知った君にはもはやルルの存在すらも意
識できなかった。

【THE END】