124 【 時間点+1 】 君はアリアルテに洞穴内で嗅いだ匂いのことを話した。注意していれば、この店にある 様々な薬草類に混じっているのがはっきりとわかるこの匂いの元は一体なんなのだろう。 「えっと、私が直接嗅いでないから確かではないけど、それはたぶん保存溶液の匂いじ ゃないかな? 採取してきたばかりの生の材料をね、傷まないよう一時的に浸しておいた りするものなんだけど、値段が高いのと、濃度が高くなければやっぱり効果が落ちていく のは避けられないから、うちみたいな小さな店ではあまり使わないの。大量の材料を常備 しておかなくちゃならない大きな店ほど必要になるものよね」 彼女の言うとおりであれば、保存が必要な何かがあの先にあるということかもしれない。 「あともう1つ。これはあまり考えられないことなんだけど念のため」 口調が変わったのを察し、君は洞穴内に飛んでいた意識を戻した。 「保存溶液を作るためには、ある魔物の角を粉末にした物が必要なの。その魔物が発 している匂いということも考えられるから、万が一の時のために覚えておいた方がいいわ」 君はどんな魔物なのかを訊いてみた。 「一言で言えば極めて危険な、鳥、ね。コカトリスといって薬師の間では有名な魔物よ。 とにかくその身体は薬師にとっての宝物なんだけど、問題はその嘴に突かれると身体が 動かなくなるということ。専門家に言わせると、生命活動を長期的に停止させるらしいわ。 決して死ぬわけじゃなくて死んだような状態になるという事なんだけど、コカトリスが生息 しているような山奥でそうなったらもう獣のエサになるしかないわね」 治療法を訊いてみれば、自然治癒を待つか、あるいは同じ魔物の心臓からしか作れな い貴重な治療薬があるという。 「うちではとてもそんな高級品は用意できないけど、素材があるなら作ることはできるわ。 もし手に入れてくれたら、いい値段で買い取るからよろしくね」 そう告げてアリアルテは笑顔を見せ、君の武運を祈った。 『彼女の言ったような魔物とは私も何度か戦った記憶があります』 アリアルテの話が終えるのを待って、ルルが話し出した。もちろんルルの所有者となっ た何者かの話ということだ。 『けれど接近して戦おうとしなければそれほど危険な魔物ではありません。薬師達のよ うにその身体を必要とせず、倒すだけならば特に苦戦せず倒せる魔物のはずです』 ルルの言う「苦戦」というのがどの程度のものなのか、ある程度は理解できるようにな ったものの、未だに彼女が十分にその力を発揮していた時代との感覚のズレに戸惑う 事は多い。例えば伝説にある竜族を挙げて「打倒は非常に困難だが無理ではない」と言 われても、戦ってみる気になどなれるものではない。 さて、もうこの店での用事は済んでいるだろうか。(114へ) |