105 ルルは寝台の側に、薄汚れた布で包まれ、立てかけられていた。 考えてみれば、このどう考えても貴重で目立つ剣を、そのまま杖代わりにして 歩いてきたのだ。今後は少し考える必要がある。 目覚めてからあまりにも長く孤立したままでいたせいで疎くなりかけていたが、 ここにこうして剣が残されていることこそ奇跡だと言えるかもしれない。 少なくとも、記憶のない君が覚えている、この世界の常識からすれば。 そんなことをぼんやり考えていると、良い匂いが漂ってきて、君の腹の虫が盛大 に喚きだした。 先ほどの娘の持ってきてくれた野菜入りスープを飲みつつ確認すると、君はもう 丸2日以上も眠り続けていたのだという。 改めて頭を垂れると、娘は淡く頬を紅潮させたままの顔で、倒れたのがちょうど この家の前だったのだと教えてくれた。 結局、娘を質問攻めにして様々なことを聞き出してみたが、君の素性に関する 情報は全く無かった。 また、ルルの力で身体に怪我こそ無いものの、あの遺跡で過ごした間の精神的 な疲労はむしろ肉体的なそれよりも大きかった。 情報の有無に関わらず、万全の体調で再び記憶探しの旅に出られるようになる まで、もうしばらくはこの村に逗留させてもらうべきだろう。 幸い金にはまだ余分があり、そうでなくても何か村の手伝いをさせてもらえる くらいにはすぐ回復するはずだ。 そう決めて深呼吸をすると、改めて食欲が湧いてきた。 君が娘におかわりを頼むと、嬉しそうな笑顔でよそってくれる。 失われた君の記憶がどんなものであれ、こんな笑顔には素直に笑顔で返せる、 そんな人間であってほしいと君は思った。 『 異端の繰手と嘆きの剣 』 序章 GOOD END |